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   ◆◆◆



 クラリスの願いが通じたのかは分からないが、シスは現在、憧れだった勇者と共に魔王討伐の旅を続けていた。

「ぱっぱかぱーん。AAランク昇進おめでと〜」
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」

 どこからか出してきたクラッカーを鳴らして楽し気な様子のマオとは反対に、床に突っ伏したシスリウスは腸が煮えくり返るような思いを呻き声に乗せる。
 結果的に大幅なランクアップができたことは嬉しいが、それ以上に失ったものは大きい。
 シスリウスは、あれから三日間熱を出していた。
 マオ曰く、献身的な看病によってようやく回復したものの、意識を戻した彼が憤死しかけたのは言うまでもない。
 ちなみにマオの主張する献身的な看病とは、熱でうなされる病人に性行為を強いたり、口に性器を突っ込むような行為も含まれるので、言葉の意味を今一度考えなおしたくなる。

「いやあ、尻だけは頑なに嫌がるから、よっぽど好きな男でもいるのかと思ったけど――まさか俺だったとはなぁ」
「貴様ではないと言ってるだろう!!」

 記憶を噛みしめるように頷き微笑むマオに、シスリウスは顔を上げて喚き散らす。
 しかし、しゃがみこみ目線を合わせてくるマオには、彼の態度が虚勢に見えているようだ。

「好きな男にメスイキ晒しまくって恥ずかしいのは分かるけどよ……照れなくてもいいんだぜ?」
「ああぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 シスは頭を掻きむしって癇声をあげた。
 何故この男はこうも人の神経を逆撫でるのか。
 失ったものをいつまでも嘆くほど女々しくはない。
 だが、目の前の男の挑発には、いつまで経っても冷静でいられなかった。
 怒りに震えるシスの様子を見て、マオが心外だと言わんばかりに眉を吊り上げる。

「でもシスだって途中からエロマンコ濡らして気持ちいい思いしてるからウィンウィンじゃねえか」
「それはアビリティのせいだろう!」

 マオの言葉に、シスは頬を朱に染めて噛み付く。
 三日前に現れたポップアップ。
 マオが何も考えず登録したそれは、アイテムであるシスがランクアップした際に獲得したアビリティだった。
 Aランク以上のアイテムには、固有のアビリティが備わっている。例えば、弓には風の加護だったり、盾には自己修復機能だったり、王冠のような特殊アイテムも登録した持ち主以外が使用できないようになっている。
 そして、ランクアップ機能のあるアイテムも、Aランク以上になればランクアップ毎に固有アビリティを授かる仕組みだった。
 三日前の行為でAランクに、その後の行為でAAランクに駆け上がったシスも、例に漏れずアビリティを授かっている。
 だがそのアビリティが問題だった。
 アダルトアイテムであるシスが手に入れたアビリティ。
 それは「分泌液製出」という、登録者の体液を摂取すると分泌液が作られる能力と「内壁変化」という、登録者の性器を挿入されると疑似膣内に変化する能力だった。
 つまり、マオの体液を摂取すると、尻穴から女性のように愛液を出し、性器を挿入されると、女性器に変化するのだ。
 SSランクを目指して性的奉仕に追従してきたシスにとって、ランクアップは願ってもないことである。
 しかし、まさかこのような馬鹿馬鹿しいアビリティが授かるとは思ってもいなかった。
 アダルトアイテムとしては、相手を満足させることのできる立派なオナホールとしてその質を向上させている。
 何も間違ってはいない。
 いないからこそ、シスは得も言えぬ複雑な感情を、腹の底でぐつぐつと煮立たせていた。

「目標のSSまであともうちょっとだな」
「不本意だがな」

 マオの慰めにもならない言葉に、シスは遠い目を見せる。
 アビリティに関しては、マオに責任がないので怒りをぶつけるわけにもいかない。そのため、持て余した感情は心を無にすることで耐えていた。
 だが、そもそもでこの勇者がシスをアダルトアイテム登録したことが全ての原因である。そのことには気付いていないようだ。


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(C)siwasu 2012.03.21


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