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「俺たちってフェラも素股も済ませてるし、それなりに進展してると思わねえ? だったらもう本番なんて屁するみたいなもんじゃん。な?」
「……僕が話している相手は本当に同じ人種なのだろうか」

 あまりにも無茶苦茶な言い分に意識が飛びそうになる。
 その間にもマオの逞しい逸物は、孔の入り口を戯れるように先端だけ押し進めたり、撫でまわして拡げたりしている。

「ほら、このガッチガチに硬いのでさっきのところゴリゴリ擦りまくったらもっと気持ちいいと思うぜ」

 マオの言葉に、シスは先ほどの感覚を脳裏に過ぎらせる。我を失うほどの快楽は、脳に電流を流し込まれるような、刺激的で中毒性のあるものだった。あの先がまだあるなど想像もできない。

「あ、締まった」
「締まってない!」

 すぐに反論するが、シスの体は言葉とは裏腹に熱を帯び始めている。

「でもほら、シスの可愛いケツマンコは、俺の亀さん美味しそうにパクパクしてるぜ」
「あっ、あっ」

 入り口で焦らされて先に音を上げたのは、散々弄ばれた窪みだった。亀頭に吸い付いて飲み込もうとする。マオは腰を動かし、ゆっくりとその先端を沈めていく。
 シスは、徐々に視界から消えていく先端を見ながら、顔を赤く染めあげ、青褪め、くしゃくしゃに歪ませると、祈るように手を合わせて――泣きじゃくった。

「うーっ、うっうっ、うあぁぁぁぁぁぁん!」

 まるで赤子のように声をあげて泣くシス。
 これには流石のマオも動きを止めてしまう。

「シス?」
「ひっ、く、こんなとこ、ろで、純潔を、ひっく、失うなんて」
「あー、流石に初セックスが青姦はまずかったか?」
「ひぐっ、うっ、僕には、心に決めた相手が、ひっく、いるのに」
「え、初耳なんだけど」
「うっ、ううっ、父上……母上……この尊き血が汚れることを……ひくっ、お許し――」

 嗚咽をこぼしながら祈りを捧げるシスに、ついにマオは折れた。

「だああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 分かったよ! 萎えるわ! 流石に萎えちまうわ!」

 そう言って後ろに下がり座り込む。苛立たし気に頭を掻く様子は、普段のマオからは想像できない焦りが浮かんでいた。

「ほら」
「うっ、ぐすっ」

 マオは、シスの上半身を労わるように起こすと、自分の袖で濡れた顔を拭ってやる。クズ野郎の称号を冠する男の行動とは思えない優しさに、シスは呆気に取られながらマオを見つめた。

「流石にガチ泣きで嫌がってる相手に無理矢理突っ込んだりしねえよ」

 マオは唇を尖らせて気まずそうにしている。その表情は、まるでばつが悪い子供のようだった。シスは、この男にも人間らしいところがあるのかと、頬を緩める。

「なんだよ、素股までさせて本番NGとか風俗嬢かよ」
「フウゾ……? いや、ちょっと待て。まるでこちらに非があるような口ぶりだが、そもそも貴様が無茶な要求ばかりするのが原因ではないのか?」

 前言撤回。横暴な言い分にシスはため息をつく。
 晒された肌は夜の空気にすっかり冷え切っていた。早くテントに戻り、体を休めたい。立ち上がろうと膝をつくシスに、マオが半眼を向ける。

「でぇ? お前が心に決めてる相手って誰なんだよ」
「…………」

 その言葉にシスは固まった。
 返事をしない様子に胡乱な目が突き刺さる。

「まさか、その場しのぎの嘘じゃ――」

 疑惑をかけられ、シスは慌てて首を振った。

「ちゃ、ちゃんといる! 幼い頃から惹かれている相手だっ」
「ふーん。じゃあ言えるよなァ」

 この男は、質問する時煽らずにはいられない性質なのだろうか。
 口をまごつかせるシスを見て、堪え性の無いマオが肩に手をかけた時だった。

「…………ゃ、だ」
「あ? なんて?」

 か細い声は、相手の耳に届かなかったようだ。
 耳を近付けて聞き返すマオに、シスは歯切れ悪く言った。

「ゆ……ゆ…………ゆ、うしゃ……だ」



 冷たい沈黙が二人の間に流れる。


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(C)siwasu 2012.03.21


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