03


「な、なん」

 その見た目のおぞましさと威圧感に唇が震える。
 シスは何度も口を開閉させて、ようやく深呼吸を覚えると、目の前に現れた魔物を見据えた。
 どうやら恐慌状態に陥っていたらしい。精神異常を回復する術を施しながら、蠢く魔物の正体を見極める。
 セドリアに存在する魔物たちは、冒険者たちの報告によってリアルタイムに情報が更新され、共有されている。しかし、この魔物は今までの情報にはないものだ。だが、シスはこの見た目に覚えがあった。古い文献で読んだことがある。
 プラントーブ。食人植物であるこの魔物の生息場所は、ダライア地方のはずだ。こんな場所に現れる魔物ではない。

(それに、こいつは上級の魔物……)

 上級の魔物の存在は、イコール魔王が復活したことを意味する。
 勇者誕生から二か月以上。勇者が勇者なだけに、果たして本当に魔王は現れるのか怪しいところもあったが、どうやら今までの法則からずれただけのようだ。
 魔王が現れたとなれば、セドリアでちまちまと経験値を稼いでいる場合ではない。すぐにでも光の剣を手にし、より強く経験値も多い魔物のいるダライア地方に向かうべきだ。
 思考を巡らせながら、シスはじりじりと後ずさる。

(くそ、正体は分かったが弱点が思い出せない)

 魔王と上級の魔物は光の属性に弱い。ただし、光しか弱点がない魔王と違い、魔物はそれぞれに特有の弱点を持っていた。
 いつか勇者の助けになればと文献を読み漁り、弱点も調べていたのに、迫る危険を前にしてシスは焦っていた。ずるずると近づいてくるプラントーブの気味悪さには、生理的嫌悪さえ覚える。
 シスは必死で逃げ続けるも、とうとう触手が足元に追いつく。

「ヒッ」

 一本二本と絡みつく触手の数が増えていく。剣で切り落としていくも、数が多く追いつかない。ついには腕すらも絡めとられ痺れていく四肢に、流石のシスも冷静を失い始めていた。

「きっ、きも、気持ち悪い! 離せ、くそっ」

 初めて出会った上級の魔物の圧は、中級の魔物の比ではない。
 靴底に仕込んだ術式も、焦りから上手く発動されない。その間にも、触手はシスの胴体に絡みつき、体を引き寄せる。
 そして、触手が服の中に侵入し体をまさぐり始めたところで、シスはある情報を思い出し、顔を青褪めさせた。

 プラントーブには歯がなく、消化器官も弱い。そのため、粘液で体を麻痺させ動きを封じた後、対象物を柔らかくするために、酒に似た毒の分泌液を出して体を揉んでいくのだ。
 触手が触れた部分の皮膚が、じわじわと熱を帯びていく。
 シスは、プラントーブによる調理が始まったことを知って、唯一動ける首を振り回した。

「ぼ、僕は美味しくない! 美味しくないぞ! ひっ、うあ」

 シスの叫びも空しく、触手によって宙に浮いた体の上を別の触手が這いまわる。腕や足を丁寧に揉まれ、力が抜けていく。
 感覚は鈍くなっているだけで、失われたわけではないようだ。
 粘液と毒によって違和感を持つ体は、冷たいのか熱いのか、不快なのか快感なのか分からないもどかしさをシスに与えた。

「ひっ、ん、ア、あ」

 触手の動きは止まることがなく、硬い場所を探しては毒を出して柔らかくしていく。その動きは、まるで肉を丹念に揉み込むシェフのようだった。
 しばらくして、鳥肌と共に立ちあがった胸の突起に気付くと、今度はそこを押しつぶすように揉み始める。
 シスは、服の中で動く胸元を見て目を見開いた。

「あ、ちがっ、それ、ぇ」

 くりゅっくりゅっ、じゅうぅぅぅっ、こりこり、ぐりゅんっ。

 シスの声が理解できない触手たちは、揉めば揉むほど硬さを持つ突起に躍起になる。毒を出しながら揉み、引っ張り、擦り、押しつぶすが、隆起は一向に柔らかくなる気配がない。

「あ、やっ、ひ、引っ張ん、んあっ、あアッ」

 シスの胸は、執拗な動きと染み込む毒によって、すっかり赤く腫れあがっていた。

「ぅあ、あっ、ンッ……ひぐっ」

 今まで感じたことのない刺激はシスの思考を鈍らせていく。
 乱暴に扱われて痛いはずなのに、鈍くなった感覚のせいでじくじくとした熱しか分からない。それでも腰の下に覚える疼きは、まるでそこだけが意識を取り残されたように痺れていた。


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(C)siwasu 2012.03.21


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