02


   ◆◆◆



 二人の旅は特に不自由もなく順調に進んでいた。
 立ち寄った町で馬を買い数日。徒歩よりは随分進んだ距離に、これなら予定よりも早くエルフの洞窟に辿り着けそうだと、シスは地図を見つめる。
 今日の野宿地は川のそばということもあり、背筋が粟立つような肌寒さを感じた。ずり落ちていたシーツを肩にかけなおしながら、近くの岩に背中を預けるマオへ視線を向ける。

「次の村では馬を売って、馬車で進もう。確かこの村は洞窟の近くで採掘をしていたはずだ。それに乗せてもらえれば、幾分か体を休められる」
「つーか、馬って思ったより乗り心地最悪なのな。ケツいてえんだけど」
「文句を言うな。この辺りは平地が多い、馬が使えるならそちらの方が早いだろう」

 唇を尖らせてぼやくマオに、シスはため息を送った。もし当初の予定通り、冒険者たちとパーティーを組んでいたらどうする気だったのだろうか。
 冒険に慣れている彼等は、苦境に燃えあがる特性上、シスよりも最短だが過酷な旅を進んでいただろう。それが嫌になって、今頃逃げだしていたかもしれない。
 そう考えると、このクズみたいな勇者の供が自分で良かったのかもしれない、と思ってしまう。非情に不本意だが。
 シスは地図を仕舞いながら言った。

「この辺りは、ダライアに近いこともあって夜行性の凶暴な魔物が多い。術は施しているが、警戒は怠らないように」
「そういうのから身を守ってくれんのがお前の役目じゃねえのかよ」

 剣で薪を作ったそばから雑に焚火へ放り投げていくマオの横暴な発言に、思わず半眼になる。
 シスはため息をつくと、立ち上がって護身用の剣を手にした。

「もう一度見回りをしてくる」
「お、流石万能オナホ王子」
「…………」
「冗談だって」

 マオは、シスの視線に剣呑な雰囲気を感じ取ったのか、早々に両手をあげる。だが悪びれた様子はなく、おどけているだけであることが見て取れた。
 シスは、もうため息をつく気すら起きないとばかりに肩をすくめると、雑木の中に消えていった。

 現在、シスのアイテムランクはBランクのままだ。あれから口淫と素股でマオの性欲を解消しているが、いくらレベルを上げてもAランクにはなかなか到達しない。
 旅も二か月を過ぎれば慣れてくる。マオも最近では必要以上に求めることがなくなり、二日に一回相手をすれば十分のようだった。
 それでも十分多いが、口淫の時は毎日のように相手をさせられていたので、それよりはマシだろう。
 おそらくランクアップ停滞の理由は、マンネリ化にあった。最近のマオの控えめな積極性を見れば嫌でも伝わってくる。

 求めて欲しいと思っているわけではないが、求めてくれないとランクが上がらない。そんなジレンマに陥るシスだが、数日前からその解決策としてあることを考えていた。

「合成……合成、か……」

 以前、マオが提案した潤滑剤との合成。
 その時はおぞましさに身震いしたが、冷静に判断して、効果が一時的ならば譲歩する価値はあると、思い始めていたのだ。
 この辺りにきて、シスの思考はマオに寄りつつあるのだが、残念なことにそれを指摘する者はいない。
 考えに耽るシスは、立ち止まるとそばの木に背中を預ける。
 そして何気なしに頭上を見上げた時だった。

「っ!?」

 突然、ぐらりと木が傾いてシスは後ろによろける。
 すぐに体勢を整えようと足を踏ん張るが、地面から木の根が浮き出てくると、その足を絡めとって引きずった。
 尻もちをついたシスは、護身用の剣に手を伸ばして絡まった根を切り落とす。そして現状を理解すべく顔をあげたが、前触れもなく頭上から落ちてきた液体に、思わず目を閉じてしまう。

「うっ」

 鼻に落ちてきたぬめりに不快感を覚えながら見上げると、本来枝と葉があるはずの場所に蠢く何かがいる。
 シスは即座に術式を組みながら腕を上げると、魔力をこめてそれに放った。しかし、粘液が落ちてくるだけで手応えはない。

「くそっ」

 正体は分からないが、魔物であることは確かだ。

(魔物の気配は無かったぞ!)

 シスは動揺しつつも、距離を置くべく足を動かして気付いた。
 いつの間にか痺れを感じ、身動きが取れなくなっている。
 おそらく粘液に麻痺の効果が含まれていたのだろう。魔物は獲物が動けない余裕からか、おもむろに幹を伝って下りてくる。
 その正体が見えた時、シスは思わずあげそうになった悲鳴を何とか飲み込んだ。
 粘液で覆われた何十本もの緑色の触手を纏い、食虫植物のような見た目をしたそれは、今までシスが見たことのない魔物だ。


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(C)siwasu 2012.03.21


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