スライムの耳かき



「フォロワーさんの絵から小説を書かせていただく」より五十嵐さんの絵で



「おい、こら!逃げるなって!!」

 ちょこまかと部屋中を跳ねまわり逃げる物体を追いかけてバウンドしてきたそれを取りこぼさないようキャッチする。
 相手がしまった、ともがく前に俺は両手でしっかりと拘束すると眼前まで持ち上げて目を合わせた。不服、という二文字が似合いそうなほど悔しそうな不機嫌顔だ。
 たぷたぷと揺れる歪な球体についた目と口はへの字に曲がっている。いわゆるスライムと称されるこの手の中のものは最近うっかり部屋に迷い込んできたらしい。
 最初ゴムボールだと思ってゴミ箱に投げ捨てたのは懐かしいが、自力で這い出て体全体を使った盛大なビンタは結構痛かった。それ以来なんとなく飼い続けているのだが。

「いや、これ耳垢だろ絶対」

 そう言って目の延長線上、人間で言うと耳がついている所辺りに内部で微かに見える汚れのようなものを指さす。相手は知らないとばかりに首(この場合は体か)を振った。
 実際スライムに耳など付いていないのだが、なんか覗き見ると耳垢っぽい。ていうか耳垢だ。そう思って観察していると。

「あ、穴発見」

 おそらく耳と呼んでいいのだろう、針先のように小さな穴を発見した。とりあえず後ろ手にテーブルの上の綿棒を掴むと明後日の方を見ているスライムに気付かれないようそっと穴に綿棒を押しあててみる。

「ぷぎゃっ?!」

 すると突然の感触に驚いたのか、スライムは体を跳ねさせて抵抗を示した。
 が、驚いたせいかは知らないが耳穴が広がって綿棒がいい感じに中に入ってしまったので結果オーライだ。

「あ、ラッキー」

 わなわなと怒りに体を震わせるスライムをすぐ終わらせるからなーと宥めて、俺は綿棒を持ち直すと傷つけないようにそっとかきまわして汚れを掬う。
 意外にもすんなり綿棒に絡みついてくれる汚れに楽しくなってきてコリコリと弄っていると、観念したのかすっかり大人しくなったスライムがピクリと体を小刻みに揺らし始めた。

「ん?どしたー」

 見れば手の中でぐったりした様子でふるふると震えている。多少赤みを帯びた色に具合でも悪くなったのだろうか、と首を傾げながらも残しておくと一層悪くなるかもしれないので汚れを取っていた右手の動きを再開させた。
 うーん、しかしなんかこの図は一見ペットの世話のように見えてけれど少し卑猥かもしれない。なんか動かすたびにぴくぴくするし。

「終わった!」

 やってるうちに下半身が熱くなったような気がしたので最後の方はちょっと強引に取って無事耳かきは終了した。
 抜かれた綿棒にホッとしながらも疲れたのか動けずにいるスライムに、もしかしてスライムって耳かきしない方がいいんじゃないのだろうか…と心配したがすぐに我に返ったように細くなっていた目を見開くと俺の手から飛び出してジャンプする。
 そしてあぁ良かった、元気そうだなあと安心した俺の笑顔に向かって体当たりを食らわされたのだが、その後収まらない怒りを鎮める為にかき氷を3つも献上する羽目になってしまった。耳かきぐらいでこの出費は辛い。
 ので、次やる時はもう少し優しく挿入してやろうと決意した。

 …ん?挿入?



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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