後輩×先輩(ML)[R18]



「紫煙、屋上、水溜り」というお題で作った話。



「ランチタイム」

 真昼間から何をやってるんだ、俺は。

「んぐ、ぅ」
「ほら、志藤(しどう)さんもっと声抑えて」

 屋上の手すりに捕まりながら逃げるように前のめりになると、ぐっと腰を押し付けられて俺は漏れそうになる声を何とか喉で留めて噎せ込みそうになった。
 昼休みに食べる予定だったコンビニで買ったパンとお茶が視界の隅に見えて、今は何時だろうかと訴える空腹を感じながら後輩にいいように抱かれている自分に情けなさが込み上げる。

「そうそう、もっとお腹に力入れて、気持ちいいから」

 無意識に締め付けていたのか息を吐いて俺の髪を撫でる後輩に歯を食いしばりながら怒りを堪えた。
 午前中に犯したミスの尻拭いをこいつに任せたのは失敗だった。あの時はテンパっていた為優しい言葉につい頼ってしまったが、よく考えれば俺がゲイだってことがバレてからこうして幾度か脅迫紛いに身体を求めてくる相手がこのチャンスを逃すはずがない。午前のトラブルを乗り切ってホッと一息つきながら屋上で昼食をありつこうとした所を乗り込んでここが会社だってことも構わず突っ込んできた清々しさはむしろどんだけ欲求不満なんだよって呆れたくなる。

「う、ぃ…っ」

 まるで休憩時間が終わるまで離さないと言わんばかりの緩慢な腰の動きにじれったさを覚えて腰を振れば、嘲笑うように強く奥へと打ち付けられる。

「こんな真昼間の屋上で喜んで腰振ってる志藤さんって本当えろ…」

 誰が喜んでんだ、顔をちゃんと見ろ。
 振り返って睨めば、笑いながら手淫されてイきそうになるのを歯を食いしばってやり過ごそうとしたが身体は正直だった。開放感の後、コンクリートの床に雨粒のように散らばっている自分の精液に惨めになりながら再開される律動に体を揺すぶられる。

「ひっ、う、…ぅ」

 泣き声のような嬌声は相手を満足させるものだったらしい。腰を持ち上げられ更に奥へと突っ込まれたかと思いきや上半身を俺の背中に預けて勢いよく肉をぶつけてくる。

「あっ、あ、っ」
「だから紫藤さんここ会社、外、誰かに聞かれちゃうよ?」

 耳を舐められてぞくぞくと背筋に這う感覚に、俺はそこで嫌な予感を覚えた。射精した後でも萎えることのない陰茎から、せり上がってくるものを感じる。肩を震わせて訪れるそれに歯止めをかけようと唇を噛みしめて股を閉じたら、自然に引き締まる大臀筋に中でいいように動いていた相手のそれもびくりと震えた。

「ふっ…ふ、う」
「…紫藤さん、どしたの?」

 動きに違和感を覚えた後輩が俺の顔を覗き込んで黙って様子を見た後、そっと下腹部に手を当てる。しまった、ばれたか。

「…おしっこ、したいの?」
「っん、な訳…」

 否定しようとした言葉は相手の手がぐっとそこを押したせいで呆気なく悲鳴に変わった。背中にくつくつと笑う相手の震えが伝わって恥ずかしさがこみ上げる。

「いーよ、しても」

 そう言われてする奴がいるのならここに連れてこい。首を振って拒絶を示すも相手の行動はどんどん俺の膀胱を刺激してくるわけで経験上こいつから逃れることが出来ないのも、認めたくないが分かっていた。







「…なんか、水溜りみたい」
「うるさい黙れ!」

 それでも懸命に抵抗したが惨敗の結果、俺の出した尿はコンクリートの床でこいつの言う通り水溜りを作っていた。それを見下ろしながら煙草に火をつける後輩の横顔を情けなさと恥ずかしさで睨みつける。
 そして紫煙を燻らせながら差し出されるこれまた粋な銘柄の煙草を渋々と受け取りながら、味わうように吸って心を落ち着けた。

「お昼ごはん食べ損ねちゃいましたねぇ」
「誰のせいだ誰の…」
「でもおかげで午前のミスは問題なかったんだからいいでしょう?」

 ギブアンドテイク、と白い歯を見せる後輩を半眼で見つめながら俺は溜息を吐く。ここまでされて憎めないのは何故なのか。俺は男らしいガチムチが好きなのでこんないけすかない優男には興味なかった筈なのだが。

「じゃあお昼潰しちゃったお詫びに夜、ご飯作りに行きますよ」
「…えろい下心が見え見えだ」

 せめてこいつが一言好きとでも言ってくれれば簡単だったのに。好意以上の決定的なものが見えてこない小さな不安を抱えながら俺はモデルのように細長い足に蹴りを入れた。
 それを周りが見れば反吐が出そうな甘い表情で見下ろしている相手の気持ちに気付くのは、まだ先の話になるだろう。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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