ショタ×俺様会長[R18]



理事長の甥に振り回される俺様会長の話。企画作品。



【お前はあげない】

「じゃ、暫くこいつよろしくな」
「何がじゃ、だ」
「いや、昨日話したじゃねーか…」

 目の前には小等部の学生服を着た小奇麗なガキ。広いソファーに座りながら辺りを見回すあどけない表情を俺、須王嵐(すおう あらし)は頬杖をつきながら生徒会長机から見下ろした。

「理事長の甥っ子って言ったじゃねーか…お前聞いてなかったな」

 呆れたような半眼を俺に向ける顧問の男を見遣り、渡された書類を掲げて見せる。そこには生徒の簡易的な個人情報が記されていた。貼り付けられた写真からは爆発したような、不衛生な髪に瓶底眼鏡をかけた野暮ったい男が映っている。

「甥、はこっちじゃなかったのか?」
「そっちは理事長の奥さんの姉の子供だ、こっちは理事長の兄の子供。分かるよな?」
「頭が痛ぇ…」
「話の通じる奴は好きだぜ」

 言われてみればあの非常識な男よりこっちのガキの方が聡明なことが雰囲気で伝わってくる。背筋を伸ばして年上の会話を待っているのだろう、出された紅茶にも茶菓子にも手をつけずお上品に座っている。
 思い出してみれば確か昨日顧問の男が甥がどうの、と言っていたことを思い出して頭を抱えた。現状子守どころか仕事もギリギリな状況が見て分からないのだろうか。睨みつければ冷やかしたような笑みを返されて理解した。今の俺にはこいつが切り札だってことだ。

「ガキに媚びを売るぐらいなら辞職する」 
「まぁまぁ、お前に今辞められたら困るからこうして手を打ってみたんだろうが」

 三ヵ月前に転入してきた理事長の甥(嫁の姉の子供の方)が生徒会役員及び人気のある生徒達を誑かしこの学園の品格を貶められている現状。困っているのは生徒会の仕事を一人押し付けられている俺だけじゃなかったらしい。理事長の兄が海外出張に離れている二週間と定められた期間だったが、その間にこのクソガキを手懐けてどうにかあの駄目な方の甥を追い出すって作戦か。

「まぁとにかく、頼むわ。ちゃんと昨日了承の返事もらってるしな」
「どうせ俺が仕事に集中して話聞いてない状態で取り付けたんだろうが。無効だ、無効」

 今の俺が他の役員によってリコールされかかってようが、ガキは嫌いだし媚びを売るなんて以ての外だ。そう手を払って追い返そうとしていた時だった。

「お前は生徒会役員どころかガキ一人すら手懐けられないのか」
「あ?」

 幼いながらもはっきりと通る声に、俺は眉根を寄せてソファーに座り間を作るためだろう紅茶に口をつけるガキを睨みつけた。

「情けない。16にもなって生徒どころかこんなガキすら手玉に取れない男が将来座につけば須王の未来も終わったようなものだ」
「てめぇ…年上には敬語って当然の常識があるだろうが。ガキはんなことも分かんねぇのかよ」
「尊敬に値する年上には敬った言葉を用いるのは当然だが、今のお前はこの学園で人を束ねることも出来ない愚民同然だろう。最早家畜と呼ぶ方が相応しいお前に何故敬語など使わなければならない」
「っ、」

 毅然とした態度で俺を見つめるガキの目は揶揄するように細められている。落ち着け、俺。安い挑発に乗るな。ぐ、と握りしめられた拳を隠しながらガキを無視して顧問の男に向かって早く連れて行けと口を開こうとした時だった。

「僕なら二週間あればこの乱れきった体制を改善することが出来る。ただ書類と睨めっこするだけしか能のない王ならその席、譲れ」
「っ上等じゃねえか!」

 元々自分は温厚ではない方だと自負している為堪忍袋の緒はあっさりと切れた。机を叩き付け、ひくつくこめかみに口元を歪めながら場を所在なさげに見守っていた顧問の男を睨みつける。

「このガキ、預けろ。徹底的に教育し直して俺様を尊敬させてやる」
「あ、そ、そう?なら頼むわ〜…ははは」

 急に変わった空気から早く逃げたかったのだろう。そそくさと立ち去る背中を見つめながら扉が閉まると同時に視線をガキに移す。優雅に冷めた紅茶を啜りながら「早く仕事をしなくていいのか?」とかける声に怒りでどうにかなりそうだった。

「一時間で終わらせて手前に徹底的に先輩の何たるかを教えてやるよ」
「一時間も待たせるのか。僕なら三十分で終わらせる」
「っその茶菓子食べ終わる頃には終わらせてやるよ…!!」

 こうして後で思えば安い挑発に乗ってしまった俺は二週間、クソガキこと日向尊(ひゅうが たける)の面倒を見ることになった。







「おい、嵐」
「んだよ今忙しいんだ」
「忙しいを理由に小学生の宿題も見れないとは…まさかお前の脳は園児以下か?」
「…どこが分かんねえんだよ俺様に見せてみろ」

 あれから十日。俺の寮部屋に厄介になりながら小等部に通うこいつは態度こそでかいがその立派な口に負けず劣らずとにかく優秀だった。あの理事長が兄には頭が上がらないのはこのガキの教育を見ていれば理解できる。当初の目的である手懐けて問題児の方を追い払う、という馬鹿みたいな話は案外マジだったのか、と胸中で考えながら尊から渡された冊子を受け取った。

「あ?んだこれ。んなことも習ってんのかよ…」

 目を通した内容に俺は思わず頭を抱える。それは性教育に関する内容で、付属されたコンドームの正しい付け方が書かれていた。

「仕組みは分かるがこのゴムをどう陰茎に取り付けるかが理解できない。意図的に海綿体を膨張させるにはどうすればいい?」
「頭痛くなってきた…」

 痛むこめかみをマッサージしながらどう答えるべきかと考える。おい、これ小学五年が習っていいことなのか?

「小等部では精通を迎えた者のみこの特別授業を受けることになっている」
「マジか…」

 ってことはこいつは精通を迎えたのか、などと知りたくなかった情報を聞かされ更に言葉を詰まらせる。大抵の勉強は教えてきたがここでこの内容が降りかかってくるとは思わなかった。冊子を睨みつけながら黙っていると、小さく鼻で笑ったような音が聞こえて顔をあげた。あどけない表情の中に混じる挑発的な瞳が俺を見つめる。

「まさか…お前精通がまだだとは言わないよな?遅い者もいると聞いたぞ」
「バ、カにしてんのかてめぇ…」
「だったら証拠を見せてみろ」
「んな安い挑発に乗るか」
「その答えは肯定を示すものだと受け取るぞ、童貞」
「っ」

 …ダメだ、この十日で理解したことだが尊に口では勝てない。一層下品だが男の象徴で大人の威厳を見せるって手もあるな、と俺は冊子を持って立ち上がると尊を仮眠室に誘った。

「じゃあ証拠を見せてやるよ。デカさ見てチビるんじゃねーぞ」
「望むところだ。ジックリと勉強させてもらう」

 まだ性については何も理解していないこいつになら勝てるかもしれない。どう考えても馬鹿みたいな発想だが、その時は睡眠不足も相まってまともな思考ではなかった。
 冊子を渡しベッドに乗り上げると躊躇いなくスラックスを下着ごと太ももあたりまで下ろして陰茎を露わにさせる。自分以外のものを見たことがないのであろう、固唾を飲む尊に優越感を覚えながらサイドテーブルの棚からコンドームを出した。片手で自身を扱きあげながらその封を開けていく。

「まずは刺激を与えて勃起させんだよ」
「刺激とは?」
「こうやって手で上下に扱いたり、口で吸ってもらったりすんだ」

 頷きながら俺の話を真剣に聞く姿は初めて見せる小学生らしいものだったが、状況が扱きあげる陰茎を覗き見る図なので何とも形容しがたい。それでも興味本位に恐る恐る手を伸ばしてくる様子が子供っぽくて、俺は促すようにその小さな手を陰茎ごと握りこんだ。他人のものに触れるのは初めてなのだろう、興奮しているのか紅潮した頬が子供にはよくある反応なのに珍しく思えた。

「おら、ちゃんと勃っただろうが。そこでいう『海綿体の膨張』ってやつだよ」
「ぼ、僕のと全然違う…」
「剥けてんだから当たり前だろうが」

 完勃ちした陰茎を小学生に向かって自慢げに見せる高校生。この場を第三者に見られでもすればたちまち俺は変態とショタコンの名を学園中に馳せるだろう。しかし今は誰も訪れることのない生徒会室。俺は勃起した陰茎にコンドームを宛がうと、尊に見せるようゆっくりと先端から下ろしていった。

「先端の空気は忘れず抜くんだ」
「成程…」

 完成した、コンドームに包まれた陰茎を感心の息を漏らしながら見つめる尊。

「どうだ、俺様を尊敬したか」
「射精はするのか?」
「っ」

 情けない話だがようやく相手を感嘆させることが出来て誇らしげに尊を見下ろしていると、不意に俺の陰茎を握りこんで扱いてきたので思わず腰が引けた。俺が先程自分でしていたように亀頭から竿にかけて両手で包みながら上下に動かす手つきに陰茎が明らかな反応を示す。

「てめっ、勝手に触るんじゃ…」
「勃起と射精は別物だろう。ゴムを付けているのなら出しても問題はないよな?」

 そう冷静な表情で俺の陰茎を弄りながら冊子を横に広げて読み始める。こいつ…と頬をひくつかせながら睨んでいると、俺がコンドームを取り出したサイドテーブルの引き出しを物色しだす。

「おい、何やって」
「やはりあったか。自然と避妊具が出てきたんだ、ここで普段不道徳な行為が行われているのは分かっている」

 まるで責めるような口ぶりで片手に持つのはアナル用ローションだ。何故そんなものを、と眉を潜めるとあどけない表情にある目が細く歪んで楽しそうに笑う。怖いことに目だけで。

「折角だ、今回習った内容をお前で復習してやる」

 言いながら尊は冊子の開いたページを見せつけてきた。見開きいっぱいに掲載されているいくつもの図解の一番上には『安全で正しい性行為について』

「っ冗談じゃねぇ!」

 何でガキの下の世話までしなくちゃいけねぇんだ。慌てて陰茎を握っていた尊の手を振り解くと下着ごとズボンを上げようとしたが、すかさず小さな両手が俺の膝を掴んで押し倒してきた。中途半端な脱ぎ方をしたせいで両足の自由がきかない俺は、無様な格好で上半身をベッドに沈めてしまう。膝から足首に移った両手はそのままぐ、と俺の下半身を上にあげた。陰茎どころか肛門まで尊に見せるような痴態に怒りで頭に血が上る。

「おい、クソガキ…調子乗るのもいい加減にしろよ」

 たかが子供。俺が今この足を思い切り突き出せば尊の体は簡単に吹っ飛んでいくだろう。だがこいつもそんなこと分かっている筈だ。それなのに冷静な視線が露になった部分から俺の顔に移ると、きょとんと首を傾げて見せた。

「器も小さいがケツの穴も小さい男なのか」
「そこを同列にすんじゃねーよ!」
「それとも使い込み過ぎてオツムと同様緩いのか…」
「ほっんと人の神経逆撫ですることにかけては天才だよな」

 怒りで震える声にまずは一度落ちつこうと瞑目した時、パシャリという音と光を瞼の向こう側から感じて俺は嫌な予感と若干の頭痛を覚えながらゆっくりと目を開ける。

「おい、嵐。この写真を持って叔父の元に駆け込めばお前は晴れて高校中退の資格を得るぞ、良かったな」
「糞ったれ…」

 誰だ、こいつに自慰を見せようと思いついたのは。俺だ。馬鹿だ。どう考えてもハメられたんじゃねーか。
 抵抗を失ったようにぐったりと体をベッドに沈める俺を見ながら、喉で笑う尊の声が聞こえる。

「馬鹿で不遜だが敏いその思考と潔さだけは…尊敬してますよ、嵐お兄さん?」

 初めて耳に入る尊の敬語は恐ろしい程の優しい猫撫で声で正直、ゾッとした。







「っっっ、ぐ…」
「可愛く啼け、とは言わないが歯を食いしばるのは止めろ、みっともない」
「あっ、く」

 誰が啼くんだ、この下手糞が。ケツを向けて四つん這いになった犬のような体勢で、尊のまだ未成熟な陰茎を突っ込まれてる現状にただ不愉快と悔しさしか込み上げてこない。幸いその大きさとしつこいぐらいに丹念な前戯のおかげで痛みはないが、抱かれる側という初めての行為に俺は想像以上の悔しさでいっぱいだった。犬に噛まれたと思えばいいんだと何度も言い聞かせてこっちの都合もペースも関係なく腰を振る尊の荒い声に耳を塞ぐ。

「なかなか動くのも疲れるな…」
「さっ、さと、終われ…!」

 雑談のように呟く言葉は冷静で、今の行為が嘘なのではないかと勘違いしそうになる。何度か乱暴に腰を振った後射精した尊は情事後の感傷も何もない淡々とした処理を冊子の通りに進めていて、俺はそれを傍目に見ながらようやく体を弛緩させた。

「成程、性交渉とはこのようなものか。初めては男だったが悪くない」
「うるせぇ、下手糞」

 これもまたあの冊子に書かれていたのか、俺の汗ばんだ体を丁寧に拭きながら気遣う仕草を払って、脱がされた衣類を着込んでいく。

「…辛くないのか?」
「あ?んな粗末なチンコで動けなくなる程ヤワじゃねぇんだよ」

 珍しく心配そうな声に鼻で笑って答えれば、あまり表情の変わらない尊の顔が少しムッとしたような気がした。

「…最初は仕方ないものだ、そこは謝ろう。しかし明日は今日より上達してみせる」
「は?」

 首を背けて拗ねたように部屋の角を見つめる尊の台詞に、俺の眉間はぴくりと震える。それに尊は不思議そうな顔をしながら首を傾げた。

「残り三日も、付き合ってくれるのだろう?」

 疑問符がついている筈なのにそれが確定にしか聞こえないのは何故だ。ひくりと口角を上げながら、俺は近づき手を取って撫でてくる尊の初めて見せる優しい笑みに悪寒を感じる。

「初体験の相手は大事にすべきだ、とも書いてあった。それに馬鹿で不遜だがそこが可愛いと考えればお前は悪くない」

 あれか。実はお前、ヤったら誰でも可愛く見えるタイプか。少しうっとりした声音からは昨日までと打って変わってあまり考えたくない感情が垣間見える。
 結局残り三日も屈辱と認めたくないが徐々に変化していく快楽で死にたくなったが、俺がこの色ボケしてしまったクソガキを引き取る要因となった当初の目的は計らずとも果たされたらしい。最終日、尊が勉強をつきっきりで見てくれながらも生徒会業務を一人でこなしていた俺の健気さと努力、そしてその原因を迎えにきた父親の横で理事長に訴えた所、駄目な方の甥はあっさりと退学させられた。同時に目が覚めたのか役員が謝罪と共に帰ってきたことには苛立ちよりも呆れの方が強く、またそれを許して受け入れてしまう俺の対応に役員も驚いたように後ずさった。

「なんか会長変わった?」
「いつも通りだろ」
「そうかなぁ〜」

 帰ってきた役員の申し出により離れていた期間の仕事を全部任せることになり暇になった現在。
 副会長の淹れてくれた珈琲を口に付けながらソファーに腰掛ける俺は手を動かしながら話しかけてきた会計に適当な返事をした。納得がいかない、と不満げな顔を露わにする会計に他の役員も便乗する。

「確かに以前より穏やかになったというか…」
「包容力が出来たというか?」
「…お前等なんか可愛いと思えるほど憎たらしくて世話のかかる奴の面倒を見てきたからな」

 思い出したくない顔が脳裏に浮かんで、俺は優雅な気分から思わず陰鬱な気分に変わった。本当に散々な二週間だった。あれに比べればお前等の個性や欠点なんていくらでも受け止めてやる。
 そう思いながら珈琲についていたビスケットを口に含むと、まだ何か言いたいらしい会計が動かしていた手を止め両手を宙に彷徨わせた。

「それにこう、なんていうかエロい?のは元からだけど男らしさとはまた違う感じの…」
「?」
「あぁ、なんか雌っぽくなりましたよね」
「ぶっ…っっ!??!」

 庶務の言葉に思わず噎せた。咳きこんでいると、心配した副会長に水を渡されて有り難く受け取り飲み干す。
 …だがしかし何故だ。落ち着いたというのに何故背中を擦る手が離れない。あと近い。

「今の会長なら俺抱けるか…」
「それ以上言ったら殺すぞ」

 冗談でも許さないとばかりに会計を睨みつければ、固まり黙って仕事を再開する姿に息をついて現れた頭痛に眉間を押さえた。副会長、お前も背中から手を離して仕事しろ、仕事。
 注意しようと口を開きかけた時、無遠慮に開かれた生徒会室の扉が大層な音をたてた。

「失礼する」

 驚いて全員が入口に視線を向ければ、そこには小さな子どもが一人。周りが不思議そうに首を傾げる中、俺は忘れたかったそのあどけないながらも偉そうで生意気な顔を青褪めながら見つめていた。

「やはり、な…」
「なっ、な、てめ、帰ったんじゃ…っ」

 呆れたように肩を落としながら俺を見る尊を指せば、少し口を尖らせた子供らしい表情が不満げに近寄ってくる。

「あんなに愛し合ったのに終われば素っ気無いな、だがそれも仕方ない」

 言いながら尊は固まる俺の背中にあった副会長の手を払いのけると、口を開閉させる間抜けな顔を両手で掴んで勢いよく口付けた。

「むぐっ」

 油断していたせいで成すがままの俺に何を勘違いしたのか、尊は頬を撫でながら舌を差し入れてくると口の中を一撫でするように舐めとってゆっくりと離れる。

「っは、」
「そういえばキスをしていなかったからな。順序がおかしくなってしまったが仕方ない」
「何を…っ」

 相変わらず自分ペースな尊に怒りを覚えて噛みつこうと体を起こすが、そこでようやく周囲の視線に気がついた。しまった、今は生徒会にこいつ等がいる。どう言い訳すべきかと思考を巡らせていると、静まった空間に恐る恐る会計が口を開いた。

「か、会長、その子は…」
「こいつは…」
「僕は嵐の恋人だ」

 言い切った。恐ろしいまでの断定で言い切ったなこのクソガキ。訂正しようと会計に顔を向けるが尊に肩をぐ、と強く引き寄せられソファー越しに凭れかかるような体勢を作られてしまう。まるで本当の恋人のような状況に会計が固唾を呑んだ。

「残念ながらこれは既に僕のものである。髪の毛一本たりともお前等にくれてやる義理はない」
「…色々言いたいことがありすぎて血管が切れそうだが」

 というかもう切れるが。怒りに声も震えるどころか涙まで出そうだが。
 何故帰った筈のこいつが高等部にいるんだ。小等部から頑張れば歩いてこれる距離だが立ち入り禁止の筈だ。

「会いに来たに決まってるだろう」
「いや、だからな…」
「父上には事情を説明して、お前と過ごす為の週末の外泊許可も頂いた」
「いや、泊めるなんて許可してねぇしつーかてめぇまさか全部言いやがったのか…!?!?!?」
「『青春は若い者の特権だ』とそれは感慨深く頷いて下さった」
「死にてぇ!畜生死にてぇ…!!!」

 テーブルに頭を打つ俺に慌てて副会長がその隙間にタオルを差し込んだ。柔らかな布に額が包まれるのを感じながらついに目尻に涙が浮かぶ。

「えー…と…お幸せに?」

 その言葉を合図に生徒会に響く数人の拍手が更に無情さを煽っているような感覚を覚えた。辛い。尊はそれを満足そうに頷きながら受け入れている。

「どうやら僕は嵐のことが好きらしい」
「そーかよ…」

 落ち着きを取り戻した室内はようやく役員たちが仕事を再開した。ソファーに項垂れる俺の横で尊が優雅に紅茶を啜っている。
 俺は周りの反応からも人一倍偉そうで勝手な奴だとは思っていた。だがこいつはその何十倍も偉そうで勝手で人の話を聞かなくて可愛げがなくて人の神経を逆撫ですることに関しては天才とも言える程憎たらしい、ガキだ。

「だから嵐、お前も僕を好きになれ」

 その癖真剣な顔でこんなことを言ってくるのだから可笑しくて笑いがこみ上げてきた。まだテーブルに置かれたままのタオルに顔を埋めて、肩を震わせる。
 俺の態度に不満を感じた尊が肩に手を置いてくるので顔をずらして片目だけで見上げれば、出会った頃よりは表情豊かになった顔に眉間が寄っている。

「嵐、」
「なら俺様を、好きにさせてみろ」

 お前に魅力があるなら簡単だろ。
 その言葉が既に降参の意を示していることに気づいているのかいないのか、赤くなった子供らしい顔に笑みを向けると顔面をタオルに押さえつけられた。
 予想通りな反応にくつくつと笑う俺は、このソファーから出る雰囲気に役員が居た堪れない気持ちでいることは、知る由もない。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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