平凡×会長



「強引な照れ屋さん」
※フォロワーさんへの誕生日祝い



「何してるんですか」

 ビクッと大きな肩が揺れる。そしてゆっくりと僕の方を振り向いた大柄な男は、その口元をひくつかせながら立ち上がった。

「お、俺様がお前の洗濯物を取り込んでやろうと思ってな!」
「いえ、結構なんで。気持ち悪いんで」

 生徒なら無料で使えるランドリールーム。金銭的な面で寮部屋に洗濯機を用意していない為、休日に済ませてしまおうとまとめて洗ったのが悪かったのか。溜息をつけば、慌てたように戸惑う姿が見えて先程までの怒りが収まっていくのを感じる。

「大体…会長がこんな所にいたら勘違いした生徒たちが中を漁りにくるじゃないですか」
「お、お前のパンツを狙う奴が他にも…っ!?」
「いえ、それは会長だけです」

 思わず半眼になる僕の気持ちを察して欲しい。
 朝井和馬(あさい かずま)、17歳。趣味はオンラインゲーム、得意な科目は現国。取り立てて注目することもないような、自分では平々凡々な男だと思っている。それが何故か学園一の人気者、生徒会長の岸辺弓(きしべ ゆみ)に好かれてしまい2か月前から付きまとわれていた。
 初めは戸惑いもしたが、今ではご覧の通り。直接好きと言ってこない分死ぬ程不味い会長の手料理であろうお弁当を渡されたり、教科書に「バーカ」ってハートマーク付きで落書きされたり、下駄箱に大量のうまい棒を詰め込まれたり、帰り道を待ち伏せされたり。一歩間違えればただの虐めだ。制裁に来ていた親衛隊達も最近では「うちの馬鹿息子がどうもご迷惑を」と言わんばかりに差し入れと共に謝罪に来る毎日だった。
 今日は日曜日なのでバ会長を見張る者がいないらしい。下着を漁ってどうする気だったんだ。いや、やっぱり考えると胃が辛くなるからいい。

「か、和馬はその、今日何か、予定でもあんのか?ないなら俺様と…」
「今日はオンラインのゲーム仲間とアップデートされたダンジョンの攻略に忙しいので」
「そ、そうか…」

 がっくりと肩を落とし立ち去ろうとする会長に少し悪いことをしたかな、と考えるも前言撤回。

「会長」
「なっ、なんだ!?」
「そのズボンにねじ込まれてるパンツ、返してください」

 バレないと思ったのか。驚いた後、悔しそうに唇を噛み締めて生乾きのパンツを差し出してくる会長を半目で見遣る。隠されていたズボンのポケットが湿っているのが気持ち悪いのか、具合が悪そうに引っ張っているが自業自得だ。
 僕は持って来ていたカゴに洗濯物を取り込むと、それではと頭を下げて踵を返した。いじける顔が可愛いなんて思ってしまっては駄目だ。毒されてきていると溜息をつく。

「会長」
「っへあ?!」

 しかし思ってしまったものは仕方ないので。

「邪魔しないのなら、楽な格好に着替えて親衛隊に一言断りを入れてから遊びに来てください。…11時までに」

 現在10時30分。返事もしないまま僕をすり抜けて慌てたようにランドリールームを飛び出す会長。遠くで「邪魔だ!そこ突っ立ってんじゃねぇよ!!」と、会長の罵声と生徒の悲鳴が聞こえてくる。すまん、道すがらの一般生徒。
 そんな会長はさておき、僕はのんびりと自分の部屋に戻り洗濯物を干しながらゲームの起動を待機していると、50分ぐらいにチャイムが聞こえてきた。代わりに出た同室者が急いで僕のいるベランダまで来ると「今日は友達の所に泊まりで遊んでくる」と駆け足で去っていく。
 おい、と思いながら部屋に入ると会長が偉そうにリビングの椅子でのけ反っていた。しかし緊張しているのか足は小刻みに震えている。

「…帰りますか?」

 思わず半眼になる僕は悪くない、と信じたい。
 結局ずっとゲームの邪魔をされて腹が立ったので泣き疲れて眠るまでヤり倒してしまった結果、既成事実として(しかも月曜日一緒に部屋から登校する現場を目撃されていたので言い逃れが出来なかった)会長の恋人というポジションを手にしてしまった訳だが。

「その前に僕聞いてないんですけど」
「な、何がだ?」
「好きって言葉」

 顔を真っ赤にさせて小声で気持ちを伝える会長にキュンとしてしまったのでまぁ、仕方ないか。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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