書記×会長



ただイチャイチャしてるだけ。



「スクールキャプテンの機嫌」

「なぁー」
「はい」
「なぁー、なぁー、なぁー、なぁー、なぁー!!」
「何でしょうか」

 顔上げる書記、高坂(こうさか)は不思議そうに首を傾げながら、机挟んだ向かいに椅子を持ってきて机上に顎を乗せる―――所謂だらしない格好を恥ずかしげもなく見せる男、生徒会長の宮城(みやぎ)を見つめた。
 180cmを超える大男は短い自身の黒髪を弄びながら頬を膨らませて、まるで女子がするような仕草をその体格と険しい顔に乗せる。
 周りが見ればギョッとするようなその光景を目の前にして、高坂は少し焦っていた。どうやら推測するに自分は相手の機嫌を損ねてしまったらしい。
 あからさまに拗ねた宮城に高坂は手に持っていた書類を置いて、インクが頬につくことなど気にしていないのか机上に並ぶ書類の上に顔を乗せ遠くを睨みつけている宮城の頭を撫でる。

「あ、あの…会長」
「なに」

 低い声に思わず肩が揺れる。

「あの、俺…何か…しました、か?会長が怒るようなこと…」

 声が震えるのは仕方ない。何故なら高坂は宮城を心酔し、恋情までも抱いているのだ。特にその想いが先月交差してからは嫌われたくない一心で動いてきた。
 だから理由も分からず、このように不機嫌になる宮城を見ると、不安になる。

「お前…覚えてないの」

 宮城の目が不意に高坂の視線と絡んだ。

「今日、…何の日か」

 高坂はその言葉に脳裏でスケジュールを呼び寄せた。記憶が確かなら宮城と約束は取り付けてない筈だし、世間的なイベントや誕生日も―――。

「あ」

 そこで、は、と手繰り寄せた記憶の中で糸が引かれる。

「…一ヶ月、」

 そういえば、ちょうど一ヶ月前に宮城と交際を始めたのだと思い呟けば、目の前の鋭い目付きがまるで金券を手にしたチャーリーのように目を大きく広げて腰を上げると両手を強く机に叩きつけた。

「それ!」

 急に立ち上がったせいでぬっと大きな巨体が影を作る。華奢とはいえ宮城よりも背の高い高坂は、しかし座ったままの為珍しく彼を見上げながら罰の悪そうな顔で肩を落とす。

「すみません…」
「マジで!何だよ、もう。俺朝からワクワクしてたのに、お前ずっと仕事仕事で全然構ってくれねーし」

 確かに今日は明後日に控えた部活動会議の書類をまとめる為にずっと紙とインクしか目にしてなかったような気がする。
 高坂は視線を落としてうなだれると、頭上から鼻を鳴らす音が聞こえた。

「それ」
「…え?」
「あとどんくらいで終わんだよ」
「あ、え、と…この書類をチェックして、問題がなければ必要分コピーしたら…」
「ん」

 不意に手が伸びて高坂は目を瞬かせる。

「まだチェックしてないの手伝うから、早く終わらせて帰ろうぜ」
「え、でも会長、仕事は…」

 眉を下げてうろたえる高坂に、宮城はハッと、憎いくらいに似合う悪徳な笑みを浮かべ、

「今日を楽しみにしてた俺様がチンタラ仕事やってると思ってんのか。全部終わらせてんだよ、バーカ」

 まるで悪戯っ子が悪巧みに成功したような自信たっぷりな表情をその端正な顔に乗せて、高坂が持っていた書類をひったくる。

「帰ったらたっぷり甘えさせろよ?」
「は、はい…っ」

 思わず綻ぶ高坂に宮城は満足そうな笑みを浮かべてまた席につくと、向かい合ったまま書類に集中し始めた。
 それに並ぶように高坂も残っている書類を手を取ると、先程よりも集中を高めて視線をそれに這わせる。

「今日は寝かせねーからな」

 そう無表情に、けれど少し耳を赤めて呟く宮城に、高坂はゆっくりと口元を緩めて―――はい、と答えた。
 胸に宿る熱を燻らせながら。



 そこから少し離れた場所で中央のソファーに腰掛け呆れながらカップに揺れる紅茶を啜る副会長と、横の机で書類を見ながらうなだれる会計は。

「あいつら俺らがいるの忘れてんじゃないの?」
「どうしよう…」
「ん?」
「明後日の会議でテニス部が経費の申請急に変更してきてさ」
「あ」
「今会長と高坂に仕事持ってったらどうなると思う?」
「あー………殺されるね」

 宮城の怒鳴り声が聞こえる、5分前の会話だった。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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