特撮BL バッドエンド注意。悪の親玉×戦隊ヒーロー 「糞ったれヒーロー」 嗚呼、正義のヒーローなんて糞ったれだ。お決まりの偽善と博愛を振りかざして悪をとにかく糾弾してやっつけたらはい、皆大好き愛されヒーローの出来上がり。 バッカじゃねーの? 「うわぁ…ヒーロー史上初めてじゃない?こんなにやさぐれたレッド」 「一般市民の前ではちゃんと熱血演じてますぅー」 「あぁ、つまり猫被り?」 納得した男がそう言って俺の腰を掴む。甘い事後の余韻。甘ったる過ぎて吐きそうだ。 けど面倒臭いから俺はされるがまま。もうお前の好きにして、どうせさっきまでもそんな感じだったんだし。本当お前ってデロンデロンのドロンドロンにするの好きだよな。俺が溶けたらどうしてくれんだ。 「おまけにゲイでとんだビッチ野郎じゃ子供達の気持ちも報われないなぁ…」 「けっ。ガキなんて嫌いだ、うるせーしうるせーしうるせーし」 おえ、と舌を出して顔しかめりゃ男が困ったように苦笑する。そういやこいつ保育士やってるって言ってたな。俺には関係ないけど。 典型的なお人よしですーって面したそのシマリのない頬を抓る。こいつとこんな関係になってからもう1年か。ついでに俺がなんちゃってヒーローやってるのも。 俺の手を掴んで優しく口付けを落とす男を眺めていると、急に寂しげな瞳を浮かべて好きだと呟いてきた。 勿論唾を吐いて笑ってやる。 「もし俺がレッドとのこれをハメ録りなんかして公開したらどうする?」 「好きにすればー?ヘタレのお前にはどうせ出来ないだろうけど」 図星だろ?そう言えば男が苦笑する。 「じゃあ俺が君を殺そうとしたら?」 言葉と共に首に回された両手の感触に身震いした。心地好い冷たい手。 俺はこの手が大好きだ。 「その前に俺がお前を殺してやるよ」 そう慈愛に満ちた微笑みを返してやれば、男はまた苦笑して触れるだけの口づけを落とした。 当たり前だ。俺はヒーロー。頭の中まで平和なお前なんかに殺されてたまるか。こっちにゃ糞ったれた使命感なんてもんを抱えてるおかげで背負いたくもないもんをおぶらされてんだ。 嗚呼、やっぱり正義のヒーローなんて糞ったれだ。そう毒づいて下ろした瞼を開く。開く。 開いて? 「お前が悪の組織のボスか!」 なんて聞いてるこっちが冷めて来るような熱血バリバリの台詞をレッド、つまり俺が声高々に叫ぶ。言いながら背筋が身震いしたのはあれだ、寒いからだ。 肯定と共に高らかに笑いをあげる目の前のボスは、これまた白々しく重いマントを振り回してご自身の崇高な思想を饒舌に語り始める。わお。 くだらない。なんてふざけた話だ。三文芝居でもそうそうありゃしねえ。 お前って苦笑しか出来ねーのかよと昔馬鹿にした顔が悪どい笑みを浮かべて俺を見る。なんかボスっていうだけあって強そうな見た目。いつもの弱弱しいお前はどこに行ったんだ。 …って言っても結局の所ヒーローは俺だけじゃないし?5人もいるし?1対5って卑怯じゃね?とか思いつつお強いボス様を正義のパワーだか何だかで協力して力を合わせつつはい、終わり。 ぼっかーん。 悪の組織のボスが爆発して崩れるアジトから逃げた俺達。これでようやく使命も終わりどうだ?お前等の好きなハッピーエンドだぞ喜べ一般市民。 仲間の爽快な声を耳にしながら俺はまだスーツを脱がず崩れたアジトの前で立ち尽くす。悪の組織のボスが最期に俺を見て苦笑した顔が頭から離れない。 「…クソッ」 クソ、なんてこった。なんてこった畜生。ようやく気付いた。俺、あの男のこと好きだったんだわ。恋?愛?知らねーけどとにかく好きだったんだよ畜生。 死んでから気付くなんて何そのまたお決まりのパターン。まぁそういうの漫画とかではよくあるけどあれだな、実感すると結構胸にクる。 「…っ」 …あ、辛い。俺今辛いんだわ。胸が苦しくてきゅーきゅーしてる。痛い。痛いんだよどうにかしやがれ。 スーツで隠れた顔。仮面の中で涙が溜まる。溜まる。 溜まって? …あー、一層このまま溺れて死んじまいたい。あいつの所に行きたい。会ったら開口一番に罵ってやる。畜生、なんで教えてくれなかったんだよ。俺はだばだば出てくる涙をそのままに吐き捨てた。 「糞ったれ…っ」 そうだよ、糞ったれ。 ヒーローなんて別に凄いもんじゃない。お決まりの偽善と博愛を振りかざして悪をとにかく糾弾してやっつけたらはい、皆大好き愛されヒーローの出来上がり。簡単だろ?誰でもなれる。だから気付けよ。皆大好き熱血レッドを見つめるガキどもの夢のつまった目に泥を塗りたくってやりてえなんて思ってる中の俺に。 嗚呼、本当正義のヒーローなんて糞ったれだ。もう二度となってなんかやるもんか。次は善良な平和ボケした一般市民になりたい。そうだな、保育士とかいいかもしれない。ガキは嫌いだけど。 だから、だから…なぁ、早く助けてくれ。 この仮面の下で溺れてる俺を助けてくれよ、糞ったれヒーロー。 end. >> index (C)siwasu 2012.03.21 |