絶倫×強気[R18] 小ネタ的なもの。 【終わりにはまだ足りない】 「っぅ、あ」 苦しくて圧迫感から逃れるようには響(ひびき)は息を吐いた。けれど圧し掛かる重圧や、鈍い痛みや、呼吸できないほどの律動からは到底逃れられそうにない。何度目かになるか分からない限界を感じて彼の腕を掴み懇願した。 「っも、無理…!」 「いけるって」 何がいけるのか、と苛立ち混じりに問いかけたかったが叶わなかった。掠れた声や乾いた涙が気持ち悪くて唾を飲み込む。愛の確認なんて言えば聞こえはいいのだが、ここまでくると拷問に近かった。 いつものようになし崩しに体を重ねて、多くも少なくもない回数を連ねてそれで終わり、な筈が現在既に何時間経ったかも分からないぐらい頭が混濁している。響は本当に殺されてしまうんじゃないかと片隅で恐怖した。 「仁(じん)、も、やめ」 願うが、頭上から降るのは乾いた笑いだけ。その声が癪に障って枯れた涙がまた生まれそうだった。 「ははっ。響の声、枯れてて何言ってんのか分かんねー」 「だ、から…」 終わったらもう二度と触れ合うことを許すものか。心に固く誓って上下に揺れる体に神経を集中させたが、まるで切り離したかのように反応がなかった。頭だけが無駄な思考を巡らせているのが悔しくて、一層先に脳が機能停止してくれたら何も考えなくて済むのにとまた無駄な思考を巡らせる。 こんな苦しい思いをしているのに彼は何を考えているんだろうと赤く充血しているだろう痛い目を上に向ければ、自分と天井の間に仁がいた。彼は笑うでもなく怒るでもなく悲しむでもなく、ただ響の顔を見てまるで機械が与えられた仕事をこなすかのように律動を何度も繰り返す。 響は恐怖した。 (これは、セックスなんかじゃない) 俺を殺そうとしてるんだと。 緩やかで衝動的な殺人にようやく気付いて響は最後の力で彼を抱きしめた。腕を伸ばして、その背中にしがりつきまるで道連れにでもするかのように強く強く抱いた。 これでどうだと笑ったが、仁はそこで動きを止めて顔を覗き見てくる。そしてさっきまでの乱暴さが微塵も感じられない優しさで、響を抱きしめ返した。 響はその一連の動作が理解出来なくて、けれどその温かい温度にあがらう事も出来ず仁の鎖骨に顔を埋めながら体を預ける。耳元で、泣き声がした。 「泣ぎたい゛、のはごっち、だ、よ」 掠れた喉を酷使して文句の一つでも垂れてみれば更に強く抱きしめられた。少し痛い。 「響くんが抱きしめてくれたの、初めてだ」 言われて、そうだったかと過去を掘り返してみるが記憶にないのでそうなのかもしれない。もしかして、この男はその為だけにこんな暴力に近い愛を押し付けてきたのだろうか。考えてぞっとした。ようやく泣き声がやんできた頃、響の上半身が持ち上げられ仁の膝上に乗せられた。緊張感がほぐれたせいもあってさっきと違う圧迫感に体が反応する。 痛みに背を仰け反らせたが、仁の腕が逃がすかと言わんばかりに回り込んできた。背と共に晒された首筋に鋭い痛みが走る。噛まれた、と気付いた頃には上下に体を揺さぶられていた。 「ちょ、っも゛、終わり…っ」 「まーだー」 切ない願い虚しく仁は愛しそうに露になった背中を撫でてきた。響は嫌悪の眼差しで彼を見たが、笑みを返すだけでやめるという言葉は出なかった。 殺人が続けられる。響は呻きながら目を閉じた。 「次は言ってよ」 「何をっ」 「愛してるーって」 目を閉じながら響は思った。今仁は、飛びっきりの笑顔を見せているに違いない。 貪欲な子供に軽い恐怖を覚えて、でもこのまま言いなりになるのは癪だったのでその言葉は絶対言うもんかと強く口を閉じた。 どうせ30分ももたないであろう決意を、胸にしながら。 end. >> index (C)siwasu 2012.03.21 |