生徒×先生[R18]



無理矢理/暴力/バッドエンド注意。



【世界が果てる】

「ねぇ、センセー。あんなのバレたらヤバいんじゃないの?」
「っ」

 からかうような音色の声が幸樹(こうき)の耳を支配する。夕闇に落ちる空は少し早い寒さを予感させていた。先ほどまで賑やかで穏やかに感じていた空間も、静かで暗く心地悪い。流れる冷や汗を拭いたくても、目の前にいる彼の眼光が許してくれそうになかった。

「あの子も退学決定だよね」
「…バラす気か」

 唸るように呟けば嘲笑され、見下された。いくら身長があっても年下に馬鹿にされたのでは面目が立たない。睨み付けるが相手にされず、彼はただ一歩近付くだけだった。後ずさりするが、机に阻まれて逃げようがない。

「ヤらせてくれればいいよ」
「駄目だ」

 何て酷い男だろう。幸樹は心中で侮辱した。いくら口止めの為でも先ほどまで自分と逢瀬を楽しんだ女性を売ることは出来ない。生徒となれば尚更だ。悪いのは誘いを断れなかった自分である。

「あの子は関係ない」
「…何言ってんの?」

 彼は心底とぼけたような表情を見せる。それに対して幸樹は頭に血が上った。

「あの子は関係ない!俺が誘ったんだよ!」

 怒鳴るように叫べば、彼は鼻で笑いまた数歩進んだ。密着するぐらいの距離まできたので幸樹は背を反らして離れようとする。だが、それさえも許さないと言わんばかりに彼はその長い手を机に置くと、体重を乗せて顔を近づけてきた。

「ねぇ、あんた勘違いしてない?」
「…は?」

 彼は幸樹を見下しながら、彼の少し伸びた顎髭を引っ張った。

「俺がヤりたいのはあんた。その口にキスして、体ベタベタ触って、ここに俺のぶち込んでヒーヒー言わしたいの」

 そう言いながら布越しに後孔を触れられ竦む幸樹。

「お前…『そーゆー』人間か」
「や?ただあんたの泣き顔見たいなってちょっと思っただけ」

 そう言って笑う顔は、とても綺麗だった。



 彼、佐倉幸樹(さくらこうき)がその高等学校に赴任したのは彼が教員免許をとって4年目の春だった。それまで中高年の教員しかいなかった堅い学校にしては珍しく生徒たちの動揺や期待は大きかったが、それを肯定とも否定とも取れるような実力で教壇に立たれた日には誰も彼に対して非難を浴びせる言葉は出なかった。
 また1年も経って慣れた頃には、思春期盛りの少女たちは彼に対して憧れから恋心を持つようになり、彼自身もまんざらではないようで廊下では謹んではいるものの常に少女たちが彼をとり囲んでいた。
 この場合大概男子生徒は彼に対していい顔はしない筈なのだが、それはそれで上手くやっているらしく煙草等を見逃したり女生徒との仲を取り持ってあげたりと同性からの人望も厚かった。
 そしてそれも当然の日常となり学校にとけ込んだ2年目のこと。

「佐倉先生」
「はい」

 呼ばれて振り返ると、そこには教頭がいた。

「来週からねぇ、転校してくる子がいるんだよ」
「はぁ」

 相変わらず彼の話は前置きがない。担任や教育指導を受けもっているわけでもないのに、何故自分にそんな話を持ちかけてくるのか幸樹には分からなかった。

「で、その子が先生と面識があるって言うんだよ、教育実習で」
「あ、K高の学生ですか?」

 それは彼が教育実習をしていた母校だった。いい思い出はないが、それでも懐かしい感情はある。だが、この学校に教員としてきて2年目。教育実習で自分を知っている者は大学やフリーターなど在学していることはない筈だ。

「…ここだけの話ね」

 突然、教頭は幸樹に顔を近付けると囁くような声で話し始める。

「議員の息子なんだって。なんでもK高で不祥事起こして、イギリスに2年逃げてたらしいよ」
「…っ」

 ガタン、と大きな音を立てて幸樹は立ち上がった。その表情は顔面蒼白で食い入るように教頭の顔を見ている。教頭自身彼のそんな顔を見るのは初めてだった。

「名前…高杉(たかすぎ)じゃないですか」
「あ、ああ。なんだ、知ってるのか?」

 その言葉に返ってくるのは沈黙だけだった。幸樹は拳を握りしめると、大きく息をはいて座り込みそれ以上何も話すことはなかった。
 まるでその表情は悪魔を見たような、絶望に包まれたものだった。



「高杉裕太(たかすぎゆうた)です。先生、お久しぶりです」

 そう言って笑顔でこちらを見たのは、あれから成長して顔も体も大人になった青年だった。教頭は腫れ物にでも触れるような表情で彼を見る。

「佐倉先生とは4年ぶりだって?」
「そうですね。先生は実習でもよくお世話になってました」

 模範生徒のように背筋を正し笑顔で答える彼に幸樹は引きつった表情を隠せなかった。

「お久しぶりです、佐倉先生」
「…あ、あぁ」
「じゃあまた先生とはゆっくり話すとして、担任の先生の所に行こうか」

 そう言って離れていく二人の背中を睨みつけるように見送って、自分の視界から消えることを確認すると大きく息を吐きながら椅子に座りこんだ。

「くそっ、あいつ…なんで…」

 彼とは2年前で縁が切れている筈だ。何故偶然にもまた再会するのか。いや、彼のことだからもしかしたら偶発的なのかもしれない。
 だが、もう彼に何かを強要される要素はない。幸樹はただ彼が卒業する1年間をジッと耐えようと、唇を噛むのだった。



「先生」

 予想通り彼は現れた。休憩時間はなるべく生徒たちと行動し、昼休みは喫煙所にこもってやり過ごしていたが、流石に放課後の帰宅時に逃げることは出来ない。
 校門に立つ彼は夕焼けの色に染められて不気味に見える。

「久々の再会なのに酷いよね、避けるなんて」
「避けてるつもりはない」

 言うことはそれだけかとなるべく平常を保って彼の横を通り過ぎるが、手を掴まれ進むことを遮られた。睨みつけるが、彼は一切動じない。

「久々なんだからお話ししようよ」
「校外で生徒との交流は禁止だ。用があるなら明日に……」
『あっ…らっ、高杉!あぁっい…』
「っっっ!?」

 幸樹の言葉は、突如出てきたボイスレコーダーによって閉ざされた。反射的に彼からそれを奪うと、勢いよく地面に叩きつけて粉砕する。壊れたそれは何も言わなくなり、沈黙が訪れた。

「ひっでー。人のもん普通壊す?」

 裕太の茶化した声に幸樹は怒りを露わにすると遠慮なく彼の胸倉を掴んだ。だが彼は笑ったまま彼を見下し冷たい視線を送る。

「俺さ、向こうで幸樹のことばっか考えてたんだよ?声聞いて写真見て抜きながら早くあんたに会いてーって思ってたの」
「っ、まだ懲りないのか!」
「ていうかこんなとこでこんなことしていいの先生?誰か見てるかもよ」

 言われて、我に返り幸樹は彼から離れた。粉々になったボイスレコーダーを広い集めると鞄に放り込み帰り路に進む。

「…ついてっていいの?」
「…」

 返事はなかったが、それは肯定だった。裕太や苦笑しながら何気なく彼の後をついていく。そして学校の裏の駐車場に回ると、幸樹は辺りを見回しながら人がいないことを確認し裕太を車に乗せた。車内ではしばらく沈黙が続いたが、先にそれを破ったのは裕太だった。

「幸樹の家行くの?」
「…」
「どこに住んでるの?」
「…どうせ調べてるだろ」
「あ、バレた?」

 舌を出して子供のように笑うが、事実その返事は幸樹を恐れさせるだけだった。幸樹は内心焦りながら、とにかく彼と縁を切る方法を考える。頭が殴られたように痛かった。



「幸樹いいとこ住んでるよね」

 着いたマンションは幸樹の年齢にしては少々値の張る場所だった。幸樹は車を駐車場に止めると彼をおろしエレベーターに乗り込む。

「ねぇ、これも親父の金?」

 笑いながら聞く裕太を無視して、幸樹は黙ったまま彼のベルトに手をかけた。

「うわっ幸樹ったらだいたーん」
「黙ってろ」

 その表情に余裕はない。幸樹は裕太のズボンからベルトを引き抜くと、彼の両手を縛るように巻きつけた。裕太は抵抗もせずただそれをジッと見ている。彼の両手が塞がれ、幸樹は少し安心した顔を見せると開いた階に出て自分の部屋まで彼を誘導した。
 裕太は一切抵抗しない。それに不気味さを感じるも、幸樹は彼を部屋に上げると上着を脱ぎ捨て裕太の鞄を奪い漁った。

「何してんの」
「…お前の親父に連絡する」
「俺の独断なんだけど」
「それでも話が違う。お前の親父は『絶対息子を近付けない』って約束したんだ」

 そう言って鞄から携帯を見つけ出すと、震える手でアドレス帳を開いた。

「…先生」
「…」
「…幸樹」
「黙ってろ!」
「…ねぇ」
「なん…っ?!」

 しつこく呼ぶ裕太を見ると、彼は無表情のまま縛られた両手を幸樹目掛けて振り下ろした。遠慮なく頭を殴られた幸樹はそのまま倒れ伏せる。

「電話しないでよ」

 裕太は倒れた彼の上に跨って座ると、両肘で幸樹の首を押し付けるように絞めた。

「ぐ…っ」
「バレたらまた幸樹と離れ離れになるじゃん」
「…っ」

 その間にも締まる首に、幸樹の意識は飛びかける。

「俺どんな気持ちでいたか分かる?向こうで精神病院にぶっこまれて、毎日毎日医者と話して、頭のおかしい奴らと同じ扱い受けて」
「か…はっ」
「ただ、幸樹が好きなだけなのに」

 そこで幸樹の意識は、途切れた。







 静寂な空間を張り詰めた空気が流れる。

「ねぇ、あんた勘違いしてない?」
「…は?」

 彼は幸樹を見下しながら、彼の少し伸びた顎髭を引っ張った。

「俺がヤりたいのはあんた。その口にキスして、体ベタベタ触って、ここに俺のぶち込んでヒーヒー言わしたいの」

 そう言いながら裕太は布越しに幸樹の後孔に触れる。竦む体を嘲笑が視姦した。

「お前…『そーゆー』人間か」
「や?ただあんたの泣き顔見たいなってちょっと思っただけ」

 裕太はそう言いながら幸樹のネクタイを緩めると、シャツのボタンに手をかけ外し始めた。露わになる肌に息をのむ幸樹の呼吸が聞こえるが、抵抗はない。裕太はゆっくりと平らな胸の突起に触れ、女のように押し潰してみた。

「…っ」

 気持ち悪さ故か鳥肌が立つ。舐めたり摘んでみたりしたが、あまり感度を示さない彼に裕太は舌打ちして下半身に手を伸ばした。

「あ…っ」
「なに?」
「…」

 何か言いたげにしながらも押し黙り、唇を噛む幸樹。裕太は笑うとバックルを外し彼の衣類を全て剥ぎ取った。

「…」

 当然幸樹は男。生々しい下半身に本来男が性的興奮を覚える筈はないのだが、裕太は躊躇なくその陰茎を掴むと口にくわえ込んだ。

「ちょ…っ」

 焦りをみせる幸樹は思わず彼の頭を掴み離そうとする。だが、それを咎めるように緩く陰茎を噛まれ、幸樹は唇を噛み締めて黙り込んだ。軽く髪を引っ張る動作に裕太は満足そうに行為を開始した。

「っ」

 しばらく愛撫するが、幸樹の反応は思わしいものではなかった。裕太は舌打ちしながら口を離すと、唾液を作り指に吐き出す。

「うえっ。女ってよく平気でこれくわえられるね」

 言いながら幸樹の双丘の間を指で割って、後腔に差し込んだ。幸樹はというと、一切気持ちよくもないこの行為にただ唇を噛み締めて早く終われと目を瞑っていた。それに不愉快を感じた裕太は指を引き抜き、ズボンから自分の逸物を取り出した。彼の頭を押ししゃがませると、その小さな口に強引に自分のものを突っ込む。

「ん…ぐっ」

 それに慌てたのは幸樹である。目を開けて離れようとするが、裕太の手がそれを許してはくれない。頭を両手で掴まれ動かされ、口は最早意志のない性的欲求の為の穴のように酷使されていた。せめて舌はまぐろでいてやろうと、自分からの愛撫を拒絶するかのように手を床について裕太の両手の動きにされるがままでいたのだが、それに気付いた彼はなんの躊躇もなく幸樹の股関を足で踏みつけた。

「ぅん…っ!?」
「何やってんの。ちゃんと奉仕しろよ」
「ふ…っ…う、んむ…」

 踏まれた足が次は柔らかく動けば、男の性か緩く立ち上がる。幸樹は固くなった自身を平気で踏みつけそうな彼に恐怖して、彼のものを掴むと自ら愛撫を始めた。

「先生って苛められて感じるんだね。マゾじゃん」
「ん…っ」

 決して上手いとは言えない愛撫だが、流石同性だけあって性感帯は熟知していた。裕太はそれを支配欲に駆られながら見ると、程よく立ち上がった自分のものに満足して幸樹を引き剥がし、彼の上半身を机の上に乗せた。
 先ほどまで足で愛撫を繰り返していたせいか、力ない体に抵抗は見られない。裕太は幸樹の腰を持ち上げると、女にする動作と大差ない動きで彼を後腔から突き上げた。

「ぁ…っ!!」

 喉から絞り出すような声が漏れる。叫びたいのを堪える幸樹にお構いなしに、裕太は自分のペースで腰を動かした。

「はっ…きつ…っ」
「っ…、く、ぅ…」

 幸樹には一向に快楽が訪れない。ただ痛みに耐えるべく必死で歯を食いしばる。裕太はそれを指でなぞりながら律動を激しくした。

「ふぅ…っうっ、つっ」

 何分経っただろうか。幸樹には何時間かのように感じられたが、ようやくそれも終わりに近付いたらしい。裕太の動きが一段と早くなり、荒い呼吸を繰り返しながら己の欲を幸樹の中に吐き出した。幸樹はその気持ち悪さを我慢するように下半身に力を入れる。

「は…っ」

 ようやく彼が自身を抜いてくれた頃には、幸樹は立つ力も残っておらずそのままズルズルと床に倒れ込んだ。それをシャッター音が捉えるが、抵抗も顔色を変える元気もない。これで裕太は満足したのだろうかと顔を伺えば、不愉快そうに頬を膨らませていた。

「先生イかなかったね。気持ち良くなかった?」
「…あれで気持ち良かったら本物の変態だ」

 言葉を返せば、裕太はようやく笑顔を見せ幸樹にのしかかった。

「先生、俺先生のこと気に入ったかも」
「…?」
「今日は気持ち良くなかったかもしれないけどこの先、先生の足が俺に絡んで腰振るぐらいやみつきにさせてあげるから」
「な…」

 この男は恐喝どころか陵辱するつもりなのか。幸樹は心の底から彼に恐怖した。

「だから…ねぇ、先生?これからもよろしくね」

 そう言って笑う悪魔は、宣言通り幸樹を開発し、陵辱を繰り返した。だが、それに疲れきり抵抗も生きる気力すらもなくしたある日、裕太の家で犯されていた幸樹はその現場を裕太の父親に見つけられ、人道的かつ保守的な彼によってようやく裕太から解放されたのだった。
 しばらくカウンセリングを受けた幸樹は気力を取り戻し、離れた地で教職を続けた。だから、全て終わったことだと、頭では納得していたのだ。
 彼が現れるまでは。







「こーきー、起きてー」

 頬をゆるく叩く感触に幸樹は目が冷めた。息を吸い込むと苦しくて思わず咳き込む。そこで状況を思い出し慌てて体を起こした。動きが取りにくいと、背中を見れば先ほどまで裕太を縛っていたベルトが自分の両手に巻き付いている。裕太を縛っていた時と違って後ろ手に回っている為、完全に両手の自由を失っていた。

「幸樹っていい匂いだよね」
「っ」

 声のする方を見れば、裕太が幸樹の下着に鼻をつけていた。見ればそれは先日洗濯機に放り込んだもの。

「おま…っ」
「でもやっぱり実物の匂いの方がいいや」

 そう言って下着を放り投げると、幸樹の胸元に鼻を押し付けてくる。何時の間に移動させられたのか幸樹と裕太はベッドの上にいて、逃げようにも壁際にベッドを置いている為裕太を退かせない限り降りることは叶わなかった。

「…っ」
「ねぇ、幸樹」

 裕太は幸樹の胸に顔を押し付けたまま、上目使いで寂しそうな目を見せた。

「俺さ、あの時子供だったんだよ。幸樹が好きだって気がつかなくて、幸樹を傷つけてばっかりで…離れてやっと分かったんだ」
「何を?」

 小馬鹿にしたように鼻で笑いながら聞けば、裕太はそれすらも愛しく思うような笑顔で告げた。

「幸樹が、好き」
「っ…!俺は好きじゃない!」
「嫌い?」
「そうだ…!」
「じゃあ好きになってよ」
「なっ!」

 なんて話の通じない奴なのだろう。昔と変わらず人の気持ちも言葉も考えない裕太に、幸樹は吐き気がした。

「もう離れないよ。幸樹は嫌かもしれないけど、俺がゆっくり慣らしてあげるから」
「ひ…っ」

 裕太は唐突に幸樹の股の間を布越しに触れる。ただそれだけの動作は、彼を竦ませるには充分の行動だった。

「俺がいない間他の奴とヤったりしてないよね?」
「…っし、してない!」
「嘘つき。ゴミ箱にメモ帳見つけたよ」
「あ゛ぁ!!」

 そう言いながら裕太は容赦なく幸樹の股関を握り潰した。躊躇のない攻撃はするどい痛みとなって幸樹の思考を奪う。言われてみれば、確かに今日の朝残していったメモが。だがそれは昨日の夜一緒に飲んでいた友人が書き置いたものであって、決して恋愛間に発展する相手ではない。

「ほ、本当だっ!お前以外誰ともヤってない!!」

 それは事実だった。あれ以来試してみても不感症になってしまったのかと疑う位、人との繋がりに興奮出来なかった。自慰行為は問題ない分、やはりトラウマとなってしまったことが分かる。

「ふーん」

 裕太はそれでも信じがたいと言いたげな表情で幸樹のベルトを外し、下着ごと下半身の衣服を脱がせた。そしてそのまま何の躊躇もなく、幸樹の萎えきった陰茎を口にくわえる。

「ぁ…っ」

 幸樹にぞくりと下肢が痺れるような感覚が走った。それは裕太との行為を最後にして以来冷めきった感覚で、幸樹は戸惑うように裕太を見つめる。先ほどまで萎えきっていたそれも、ゆっくりと彼の口の中で硬さを増していった。

「ん…っぁ…」
「もうこんなに硬くしてるよ?本当に誰ともしてないの?」
「しっして、ないっ」

 幸樹は泣きそうな顔で否定した。いくら彼の心が裕太を拒絶していても、体はしっかりと覚えていたようだ。主人がくるのを待ち焦がれていた犬のように分かりやすい反応を見せる幸樹の下肢に、本人が一番戸惑っていた。

「まぁ…誰としてようがこれからは俺だけのものだしね」

 そう裕太は自分を納得させるように呟くと、また幸樹への愛撫を再開した。何年ぶりかと言えど裕太は彼の体を忘れてなかったらしい。幸樹の性感帯を刺激するような舌使いと久しぶりの他人からの愛撫に体も限界を訴えている。

「ゃ…っや、あっ」

 耐えきっていたが、体は無情にも裕太の口に性欲を吐き出した。彼はそれを躊躇いなく飲み込み、あまつさえも幸樹の陰茎を愛でるように舐めつくした。その感覚すらも今の幸樹には辛いものでしかない。目尻に涙を浮かべ、またくるであろう次の快楽に溺れかけていた。それを裕太は愛しそうに見つめると、先ほどまで陰茎をくわえていた口で彼の口を蹂躙した。ここで舌でも噛もうものならきっと殴られるだろう。
 幸樹はただ彼が早く解放してくれることを祈りながら、口内に入ってくる舌を受け入れていた。

「…そういえば先生、髭伸ばしてないんだね」

 裕太が口を離し開口一番に話した言葉はそれだった。実際彼に束縛されていた時、生徒になめられないようにと伸ばしていた髭は「似合わない」という理由で彼に剃られている。気に入ってはいたものの、あれから伸ばす気にもなれず口回りは清潔にしていた。今更なにを、という目で裕太をみれば彼はニッコリと笑顔を見せる。

「幸樹は髭ない方が可愛いよ。それで俺のことずっと待っててくれたの?」

 思い込みとは恐ろしい。幸樹はつくづく思った。最早否定する気にもなれず俯くと、裕太は幸樹の意識がない間にとってきてたらしきリンスを己の手の上に落とした。

「次からちゃんとローション用意しとくからさ。今日はこれで我慢してよ」
「な…っ」

 これを使った行為は初めてではない。むしろ、ないよりはあった方が痛みは相当和らぐ。だが、それを使うということは即ち行為後は後孔を洗うという意味もあり、つまり裕太は中出しする気で使うということだった。いくら過去に経験があっても、何年かぶりでは次の日の末路は安易に想像できる。

「や、待て、高杉。明日も仕事が」
「じゃあ裕太って呼んでよ、昔みたいに」

 裕太はリンスまみれの自分の指をゆっくりと彼の後孔に押し付けた。

「…っゆ、裕太…っお願いだから!」
「よく出来ました。じゃあ優しくしてあげるね」
「そうじゃなくて!…ひっ」

 裕太は幸樹の願いを別のものととったらしい。固くなった蕾を優しく押し広げるように中に侵入すると、ゆっくりと指を動かし始めた。

「幸樹、キツい。もっとリラックスして」
「や…無理っ」

 裕太はすぐに彼の感じる場所を刺激するが、幸樹は頑なに下肢に力を入れていた。それに不満を感じた裕太はすぐに彼の陰茎を掴み手の中で愛撫を始めた。

「ふぅ…あっ、こ、幸…」
「ほら、もっと緩めて」

 そこまでされて我慢出来る程快楽に強くない。だんだんと力の抜けていく幸樹に満足した裕太は、口元を歪めると指を引き抜き自分のそれをズボンの間から取り出す。そして、予告なく一気に突き上げた。

「あっぅあぁっ!!」

 急な圧迫感に驚き腰を引くが、すぐに裕太に捕まれて戻されてしまう。中に入りきったと同時に早急なピストン運動を迫られ幸樹は息をするのに必死だった。

「ゆっ裕太…っ、もっと、ゆっくっ、あっあ!」
「無理。我慢出来ない」

 何年かぶりの行為に興奮している裕太に幸樹の声は届かない。快楽と苦しさの二重苦を我慢する為に枕に顔をうずめ耐えているしかなかった。

「あっ…っも、あっぁっ」
「幸樹…好きだよ」

 いささか早い限界に、幸樹は目を固くつぶると予想通り射精された熱い感触が体内を巡った。それからしばらく続く腰の動きと陰茎の愛撫に幸樹も己の欲を吐き出した。

「はっはっ…ぁっ」

 裕太が抜く感触に安心した幸樹だったが、呼吸を整える暇なく体を横向きにされると、また奥まで貫かれる。

「んぁっ」
「幸樹…幸樹…」

 また始まる動きに幸樹はただ耐えるしかなかった。昔のように快楽に身を任せてしまえばきっと彼から抜け出すことは出来ないだろう。だが、幸樹の体を知り尽くしている裕太は見事に彼を陥没させていった。それを何度も何度も唇を噛み締めて、ずっと終わりだけを望んで目を固く閉じた。

「ねぇ、幸樹」

 呼ばれた声で微睡みの中裕太に視線を向けた。体はあちこちが痛くてどうにも動かせそうにない。見えた彼の笑顔は綺麗で、けれどとても恐ろしかった。

「なに…」
「これからは、ずっと先生の傍にいるよ」

 そう言いながら裕太は笑った。相変わらず優しく甘美に満ちた笑顔とぬくもりだったが、幸樹には鳥肌しか立たなかった。同時に悟った。

(嗚呼、もう、逃れられない)

 この世界に陥没していく自分を感じながら諦めの懸念を馳せて幸樹はまた、目を閉じた。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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