小スカ[R18]



小スカアンソロに寄稿したお話です。
いじめられっ子×いじめっ子



「隠所」

 ぶるり、と体が震えたのは授業が始まって五分と経っていない頃であった。
 最初に思い浮かんだ単語が後悔。先ほどの小休憩時間は図書室まで本を返していた、そのせいで時間がなかったのだ。
 そう考えながら、けれどそれが現状と関係ないことを理解していた。何故ならこれは経った今、訪れたものだからだ。
 安藤は少し考えて、問題ないと過ぎ去った波に安堵の息を漏らす。これは急くような問題ではない。この授業が終わった後に再度訪れる小休憩の時間に済ませればいい。
 顔を上げて黒板に向かう教師の背中を見ながら、切り替わりつつある空間を邪魔するのも後ろめたさを感じると胸中で言い訳をする。だから安藤はそっと視線を机の上に落としてまたじわりと訪れた尿意に気付かぬふりを、した。



 安藤真平(あんどうしんぺい)という男は高校二年にして恵まれた身長と体格を持ちながらもその身なりに合わない気の弱さを持っていた。自分で意見を発することはなく人に合わせて常に後ろを歩いているような、あまり目立たないタイプである。稀に彼に注目している者もいるが、その意見は嘆息とともに「勿体無い」と口を揃える程度には外見と中身が違いすぎた。それは安藤自身分かっていたし、けれど別に自分を変えたいとも思っていなかった。正確には変える度胸もなかっただけだが。
 外見だけを特筆すれば黒髪黒目に一般的な日本人らしいパーツ。それが整っているので見目がいいと言えればいいが、長く野暮ったい前髪がそれを邪魔していた。前述の「勿体無い」とは、このことである。そして、そんな彼には決まった友人もいなかった。理由は内面によるものもあるが、別の理由もある。それを不幸だと思っているといえば思っているし、思っていないといえば思っていない。そんな彼に一番似合う言葉は優柔不断であろう。
 授業が始まってから安藤は教師の言葉に集中しながらも瞼の奥で訴える本音を必死に殺していた。終了のベルが鳴るまで残り四分。安藤の足はその十分前から小さく小刻みに揺れている。実のところ、想像以上にそれは耐え難いものだった。こんなことなら始業すぐで訪れていた時に空気を変えても教師に注意されてもトイレに向かえばよかった。残り二分のところで長かった波がまた、ゆっくりと治まる。そうして安堵の息に落ち着きを取り戻した時、ようやく終業のベルがなった。慌てず教師が去るのを見送ってから立ち上がり、小走りで教室の扉に向かう。既に休憩時間特有のゆったりとした空気が流れている中で、安藤が去る姿を気に留める者はほとんどいなかった。

 安藤はまず手近な同じ階にあるトイレに向かった。けれど、残り数メートルというところで彼は足踏みし、数秒躊躇ってから引き返して階段を降りるとわざわざ美術室の横にあるトイレに入った。理由は、先ほどのトイレの前では数名の生徒が屯していたからだ。そのクラスの違う生徒たちの内の一人は彼があまり接触したくない相手であった為、わざわざ離れた場所を選んだのである。
 安藤の入った美術室の横にあるトイレは一般的な各階にあるトイレよりも簡易的で、また薄汚い。教師があまりチェックすることもないので当番の者も手を抜いているのだ。黄ばんだタイルが目立つそこで、安藤は三つある小便器の一つに立つとようやく目前に現れた開放感に息をついて、下半身のファスナーに手をかけた。けれど同時に、壁を蹴るような鈍い音が聞こえて肩を大きく揺らす。恐る恐る入り口である左に視線をやると、苛立たしげな雰囲気を漂わせた生徒が腕を組んで安藤を睨んでいた。

「何あからさまに逃げてんだよ」
「っ」

 まるで立ち塞がるように入り口にいた生徒は、最初に寄ろうとしたトイレの前で屯していた生徒たちの内の一人だった。更に言うと、あまり接触したくない相手だ。
 安藤と変わらぬ高身長に校則違反である染めた茶髪を隠すこともしない木戸和実(きどかずみ)は、一年の時のクラスメイトである。もう少し掘り下げると中学も一緒だった。更に関係をつつかれると、あまり思い出したくないが中学時代自分をいじめていた相手だった。安藤とは正反対の明るい性格の彼は、社交的で友人にも恵まれているタイプだ。少し悪ぶった態度も、表立っては実害を与えていないため周囲の評価はその整った顔立ちからも憧れで留まっている。実際は周りに見つからぬように安藤を陰湿に追い込んでいたのだが。
 高校にあがってからは当時のいじめグループと疎遠になったのか飽きたのか、あまり話しかけられることも少なくなったがそれでもたまにこうして一人でいると茶々を入れてくることがあった。
 木戸とトイレ、という組み合わせには昔からいい思い出がない。
 安藤は右頬を引き攣らせながらファスナーに伸びていた手をゆっくりと離すと数歩下がった。それが彼の癪に障ったのか、いや、何をしても彼の機嫌を損なうであろうことは分かっていた。けれど、こればかりは最早条件反射なのである。今にも漏れそうだった尿意は恐怖心からか縮み上がってどこかに去っていた。それに一先ず安心を覚えていいものかトイレの中に進入してくる、つまり安藤に近づいて来る木戸に、高校に入ってから直接的な暴力はなくなったとはいえ体に染み付いた彼への反応として安藤は固く目を閉じて、謝罪した。

「ご、ごめんなさいっ」

 勿論安藤は木戸に対して謝るようなことは何一つしていない。けれどとりあえず謝る、という選択は過去幾度となく失敗しては毎回彼の逆鱗に触れているのに治らない癖だった。
 そして今回も当然例外が起こるわけなく、苛立った彼を逆撫でして余計に怒らせてしまった結果に安藤は後悔と覚悟を決めた。

「は? 俺何にもしてませんけど?」
「あっ、あ、ご、ごめ、ごめん」
「いや、だからそれ何に対して謝ってんだよ」
「え、そ、それは、」
「はっきり喋れよ高校生になっても『どもり』かよ!」

 木戸が強く壁に打ち付けた拳の音に条件反射で体がビクつく。安藤は高校に入ってから一番機嫌が悪そうに感じる彼の舌打ちに、どうしたらこの場を逃れることが出来るだろう、と脳裏で焦りと共に策を過ぎらせた。実はゆっくりだが、徐々に近づいているのだ。去ったはずの尿意が。

「あ、え、っと、あ、あの、」
「なに」

 考えれば自分は限界を感じた状態であり、それを開放すべく用を足そうとここに来たのだ。木戸の突然の出現により一瞬忘れていたが、正直余裕がない。
 安藤はどうしよう、どうしようと脳内で焦りだけを巡らせながら尿意をやり過ごすように両足を内股気味に摺り合わせた。そのもじもじと体を動かす彼の様子に気付いたのか、木戸が視線を安藤の下半身に下ろしながら笑って指をさす。

「え、お前漏れそうなの?」

 その直接的な言葉に安藤は顔を真っ赤にさせてぎゅっとズボンを握り締めた。確かにその通りだが、それを避ける為にこの場に来ているのである。出来れば早くこの場から去って欲しい。そしてこの圧迫された状況から開放されたい。
 そう考えながら俯く安藤に、木戸は何を思ったのか近づいて握り締めた手を勢いよく取ると驚いて顔を上げた彼に向かって目を細めた。

「手伝ってやろうか」

 その言葉と同時に、安藤はどっと汗が吹き出たような感覚を覚えた。すぐに堪えて声は抑えることが出来たものの、思わず屈んでしまった体勢からは戻ることが出来そうにない。彼は屈んだ先に見える、伸ばされた腕を見つめた。それは真っ直ぐ安藤の股間に向かっていて、その動きを制するように自分の手は伸ばされた腕を掴んでいる。
 つまり、木戸が安藤の股間を押したのだ。
 正確に言えば股間の上、膀胱に当たる場所なのだが、安藤はもがきながら指でその場所を押そうとしてくる彼の腕をぐっと掴んだ。

「んだよ、早く出さねーと膀胱炎になるぞお」

 顔を近づけて耳元で揶揄する言葉に、安藤は目の奥がつんと突っ張るような感覚を覚えたが瞼を閉じることでやり過ごす。するとそれが気に入らなかったのか、木戸は安藤の両手を掴むと持ち上げて彼の姿勢を正してやった。いわゆる万歳の状態で背を伸ばされた安藤は、前屈みの時と違い堪える力が足りずぶるりと背筋を震わせる。

「っ、」
「しゃあねえなあ、手伝ってやるよ」

 正直尿意は限界を目前に迎えている。それでも唇をかみ締め堪える安藤の様子に、木戸は両手を持ち上げたまま胸元が付くぐらい近づくと彼の股の間に足を滑り込ませて下から股間を刺激するように上下させた。
 排泄を促すような動きに耐え切れなくなったのか安藤の目尻に涙が浮かぶ。

「きっき、きど、木戸くんっ、やめ、て」
「ほら早く漏らせって、授業始まるだろ」

 含み笑いを隠そうともしない彼の行動態度は、まるで中学時代を思い出す。高校に入ってから落ち着いたと思っていたが何も変わっていなかったようだ、と上目遣いで唇を歪めながら笑う彼の昔よく見た表情に安藤は尿意とは別の感覚が体の奥からせり上がってくるのを感じた。慌てて隠すべく内股に力を入れるが、それはただ彼の足を絡めとるように固定しただけで余計に視線を煽るだけの結果となってしまう。そしてあからさまに変化した部分を注視した木戸は、空気を噴き出すようにぶはっと大きな音を立てて笑った。

「おまえ、変わんねえなあ」

 木戸は馬鹿にするような声音とともに、安藤に挟み込まれた足を無理やり動かして下半身を揺さぶる。両手を持ち上げられたままの掌が熱を持ってぐっと強く握りなおされた。

「まだ人の顔見て勃起すんのかよ、きも」

 そうして顔を近づける木戸に、安藤はまた下半身にこもった熱を感じながら強く目を閉じた。木戸の顔を見ると欲情するという、癖のような悪癖を安藤は中学時代本人に知られてから今まで治まる気配なくからかわれ続けている。彼に虐められる発端となったのもこれが原因だ。

 どうやら安藤と木戸の攻防は彼らが思っていたよりも時間を無駄にしていたらしい。
 遠くから聞こえる、小休憩時間の終わりを告げるベルに安藤は慌てて顔を上げた。けれど、すぐ目の前に見えた木戸の表情に思わず頬が引き攣る。教室に戻してくれることは叶わないだろう。そんな予想は、的中していると答えられてるような彼の態度で理解できた。体勢を変えぬまま安藤に向かって進められる歩に思わず後ずさりしてしまう。

「とりあえず何もしないからそこ、入れよ」

 そう言って彼が視線を向けたのは一番奥の個室だった。当然のように首を振ろうとしたが、右手で両頬を乱暴に掴まれて無理に個室の方へ顔を向けさせられる。親指と中指が頬骨にぐっと強く押し当てられて痛みに思わず眉根が寄る安藤に木戸は不快そうな表情を見せながらも踏ん張っている足を蹴った。それによろける安藤の体を支えるようぐ、と木戸の右手に力がこもる。そしてそのまま歩を進めれば安藤は条件反射で後ずさる形となり、結果的にはまるで自分から入ったように個室に押し込まれた。

「最初から大人しく入れっつの」

 次いで自分も個室に体を滑り込ませた木戸は、安藤の胸を押して便座に座らせると個室から顔を覗かせトイレの入り口を確認する。どうやらこの時間帯は美術室が使われることはないようだ。トイレの外の様子を伺って人気のないことを確認すると、そこで木戸はようやく安藤の方に向き直りあまり大きな音が出ないようゆっくりと鍵をかけた。
 ただトイレの中なら誰かに見つかっても多少の諍いがあった程度で言い訳がきくが、個室だとそうはいかない。どう言い繕っても虐めや強請りの現場に見られるだろうことを理解しているから、木戸は外の様子を確認したのだ。
 こういう男だから中学の頃も安東への虐めが誰にも気付かれることがなかったのだと安藤は過去を振り返りつつ彼の無駄な慎重さに心底軽蔑を向ける。同時に、先ほどから寄せては返す波のように訪れる尿意に痛み出した膀胱部分をそっと掌で撫で付けた。

「漏れそう?」

 ニヤニヤと性根の腐ったような笑みに安藤はぐっと口を硬く閉ざした。実のところ尿意は定期的に訪れているものの、一度勃起したそれが収まらず出すに出せない状態になっているのだ。陰茎の仕組み上、勃起時は排泄が難しくなる。出来ない訳ではないが、尿道が狭くなっているため出し辛いのだ。木戸もそれを分かっていて聞いているのだろう、扉を背もたれにしゃがみこんで安藤の焦った様子を楽しそうに見上げている。
 安藤は木戸がトイレに現れてからある程度覚悟はしていたのだが、途方に暮れていた。なぜなら、実はこのようなケースは初めてだったからだ。大抵は暴行を加えられ、勃起した陰茎を踏み潰されたり時には写真を撮って金を要求されたこともあった。けれど決して木戸は一人で安藤に向かってくることはなかったのだ。高校に入ってから安藤に絡んでこなかったのも一緒に虐める相手がいなかったからだと思っていた。誰だって自分の顔を見て勃起する男と一対一ではいたくないだろう。
 けれど今木戸は狭い個室の中、汚さも気にせず冷たいタイルの上に座り込んでいる。勿論そのような状況で勃起した陰茎は収まるはずもなく、ただズクズクとした痛みだけが膀胱に広がっていた。

「ううっ」

 安藤は思わずしかめ面になって背中を丸めながら、うなり声をあげる。すると、木戸はふと気付いたように視線を下ろして自分のポケットに手を入れた。そして出してきた携帯を弄る姿に、やはりこれは中学の延長線上なのだと安藤は痛む胸と同時に、馬鹿げているが何故か心中でそっと胸を撫で下ろして目を閉じた。

「んだよ、小便出ねえの?」

 そんな安藤の様子が木戸には余裕があるように見えたのだろう、眉根を寄せて不機嫌そうな表情を作ると立ち上がって一歩前に出た。と、言っても狭い個室の中の一歩は最早安藤に迫ってきたと表現するほうが正しい。膝を安藤の両足の間にねじ込んできた木戸は、安藤の後ろにあるタイルの壁に手をつきながら体を覆うように見下ろしてくる。
 変わらぬ身長体格である筈なのに、まるで自分よりも大きな存在に見えるかのような錯覚を起こした安藤は反射的に肩を揺らして縮こまってしまった。それが余計相手の癪に障ったのだろう、木戸は携帯の角を安藤の頭に叩きつけると突然の痛みに上げた小さな悲鳴を聞きながらその凶器をブレザーのポケットにしまいこんだ。
 そして両足の間に乱暴にしゃがみこむと躊躇なくベルトのバックルに手をかけてきたので、安藤は慌てて彼の手を制するように握りこむと、それ以上動かすことが出来ぬようぐっと力をこめた。

「なっ、な、なに、」

 動揺で吃音になる安藤の疑問は、木戸に伝わったのか股の間で掴まれた手を離そうと動かしながら質問で返される。

「は? 何やってんの、触るなって」

 自分は触っている癖に触るなと言うのか、不遜な発言に思わず頭が痛む。
 その間にも手をもがき動かし安藤の制止を振り切った木戸は、ベルトのバックルを外すと迷わずジッパーを下ろした。男性特有の臭いが一瞬木戸の鼻先を掠めて眉が寄るが、すぐに霧散して気にならなくなったのか晒された安藤の下着から盛り上がっているその部分を躊躇なく握りこむ。
 痛みつけることを目的としているのだろう同じ男性として加減を分かっているだろう木戸の遠慮ない握力に、安藤はうっすらと首筋に脂汗が滲むのを感じながら股の間にしゃがみこむ木戸を見下ろした。昔からあまり自分に直接触れたがらない彼にしては珍しい行為は不気味さが増すばかりで、安藤はせめて膀胱の痛みだけでも開放されたいと下着の中から主張激しく勃起する自分の陰茎を見つめながら口を開く。

「あ、あの、木戸くん」
「なに」

 見上げる木戸は、しかし手を彼の陰茎から離さずむしろゆっくりと摩り始めた。柔らかな刺激に思わず内股が震える。

「お願い、です。本当、に……もう、痛いから」

 事実、既に下腹部はズキズキと明らかな痛みを伴っていた。
 安藤は瞼の奥に熱がこもっていくのを感じながら必死で懇願したが、泣きそうな声はむしろ彼の失笑を買っただけのようだ。結果その行為をエスカレートさせることとなり、木戸の陰茎を握りこむ手は明らかに竿を握り締めて意図した動きを見せ始めた。

「だからこうやって出せるように手伝ってやってんじゃねーか」

 むしろありがとうございますだろ、感謝しろよ。
 そう言いながら馬鹿にしたような表情で口元を緩める木戸は、下着越しに膨らんだ陰茎を勿体ぶる様に上下に揺らした。その動きに安藤はぶるりと背中に鳥肌が立って腰が浮ついてしまい、便座の上でもぞもぞと動いてしまう。すると咎めるように陰茎を握っていた手に力が篭り痛みが訪れる前触れだと思っていた安藤は身構えたが、どうやら木戸は自分の手淫が中途半端で安藤が決定的な刺激に欠けていると思ったようだ。少し躊躇したが晒された下着に手をかけ直すとぐっと脱がせるように自分のほうに引っ張る。

「っ」

 安藤は慌てると急いで自分の下着に手を伸ばしたが、間に合わないどころか手淫で浮ついていた腰は彼の行動を手助けする形になってしまい、下半身は何の抵抗もなく無防備な形となってしまった。外気に晒された陰茎がその冷たさに少し萎縮する。

「あっは、内股ちょーウケんだけど」

 突然のことに思考が止まっていた安藤に追い討ちをかけるようなシャッター音が聞こえてきたのはすぐのことだった。意識を現実に戻して木戸を見下ろせば、安藤の全身を撮ろうとしているのか体を後ろに引いて携帯をこちらに向けている。急いで足を閉じ自分の陰茎を両手で隠せば、ブーイングと共に股間を両手ごと右足で押し付けられた。手の甲に薄汚れた跡が残る。そしてそのまま茶化すような暴力が続いたのでぐっと目を閉じながらやり過ごしていれば、木戸は飽きたのか立ち上がって便座に座り今にも零れそうな涙を必死に堪えている安藤を見下ろした。

「そんなにされるの嫌なら自分でイけよ」
「え?」
「別に前もしてただろ」

 確かに自慰の強要はあまり記憶を辿りたくないが中学時代一度されたことがある。ついでに言えば現在彼が持っている携帯にその思い出はしっかりと記録されているし、更に言えばまさに今その記録を安藤に向かって見せびらかしてきた。

「扱くの慣れてない時だから授業丸々潰れたもんなあ、今ならすぐ出来んだろ?」

 幸い外に漏れるのを警戒してか音は消してくれているので3年前の自分が自慰を覚えたての泣き声だか喘ぎ声だか分からない声を聞かずに済んでいるが、既に個室の中に入ってから前を通れば気付かれるぐらいの物音は立っている。それでも人の話し声も聞こえない外の様子から考えるにどうやらこのフロアは今の時間全く使われていないのだろう。つまり今から安藤が自慰を始めようが木戸が安藤を痛めつけようが、少なくとも授業の時間が終わるまでは助けが来ることはない。
 現実逃避するようにそんな状況を客観的に考えながら、安藤はこの際少しでも早く開放されるのならばと覚悟を決めて自分の陰茎を握りこんだ。輪を作った指をたわわになった包皮に被せるように包み込んで亀頭を巻き込むように上下に擦れば、ようやく射精を促す感覚に背筋が震える。すると尿道口からちろり、と先走った尿か精子かは分からないが液体が漏れて床に一滴零れた。おそらく録画しているのだろう携帯をこちらに向けた木戸がそれを見て笑いを堪えるように手を口で覆いながら肩を震わせている。安藤は情けない気持ちに出てしまいそうな涙をしまいこむように目を閉じて深呼吸した。
 何故今日このタイミングで彼に揶揄されることとなったのだろう、運の悪い自分に無駄な後悔を抱きながら陰茎を摺るリズムを徐々に早めていく。治まった瞼の涙にそっと片目を開けて木戸を見れば、ずくりと海綿体に血液が集まるのを感じる自分に嫌気が指した。
 しかし数分経っても決定的な射精感が訪れず焦れた状態の安藤に木戸も飽きてきたのか、携帯越しに見ていた視線を直接向けて疑問をぶつけてくる。

「なあ、お前今も俺でシコってんの?」

 その質問に安藤は思わず手淫を止めてしまうが、それが返答になって彼が声を出すこともなく木戸に伝わったようだ。ふーん、と興味がないような相槌を打って携帯をポケットの中へ収めると体を前に倒し鼻先が当たりそうな距離まで顔を近づけてくるが、木戸の顔が心臓に悪い安藤にとってそれは下半身の刺激にしかならない。背中を沿って上半身を後ろに傾けるが、すぐにトイレのタンクに当たり顔が仰け反ってしまった。
 そうして野暮ったい前髪が重力に従った結果晒された安藤の顔面を、木戸は後ろの壁に手をつきながら見下ろしてくる。下半身の刺激は膀胱にも伝わり下腹部が続く重い痛みに感覚を失いそうになっていた。背中に当たる固いタンクは汚物を流す為の十分な水が溜まっているのか中から揺れる水音が聞こえてきて、それに排尿感を覚えながら安藤は木戸から逃れるために体をゆっくりと捻る。
 けれどその動きを制したいのか助けたいのか、木戸は安藤の両膝裏に手をかけると勢い良く持ち上げた。予想してなかった動きに安藤はバランスを崩して後頭部をタンクの上にぶつけてしまう。その体勢のまま足を引き上げられれば、上半身は便座の上にずり落ちてまるで乳児がおむつを交換するような姿勢になってしまった。下半身は衣類が全て膝下まで下ろされている為足をばたつかせても布が邪魔で思うように動けない上に、便座の上に寝転ぶような体勢はバランスが悪い。両手は落ちないようにタンクの上蓋を掴んでいるが、固定されていないので先ほどから陶器同士が摺るゴトゴトという大きな音が響いている。

「な、に」

 タンクのせいで首が直角に曲がり呼吸しにくい姿勢になってしまった安藤は、驚きに目を見開きながら視線を必死に上へと向けた。改めて両足首を掴みなおした木戸は、安藤の足をぐっと上半身に向かって折り込んでM字開脚の体勢を作ると露わになった下半身を見て眉を顰めながら舌を出す。

「うえ」

 自分でその体勢を強いておいてそれはないだろう。陰茎どころか肛門まで晒している状況に恥ずかしさを覚えながら安藤は両足を揺するが、晒された陰茎に木戸の足が乗り体重をかけられそうになったので腹にぐっと力が篭る。おかげで膀胱の痛みが今までの中で一番強く感じられて歯を食い縛るが、木戸はそんな安藤の様子を意に介さず抵抗を失った両足を一纏めにして右手で持ち上げると、空いた手をまたポケットの中に入れて弄り始めた。

「き、木戸くん、はっな、はなして」
「暴れんなって」

 足首を揺らしてみるが、陰茎の上に乗った足が重みを増すだけだ。安藤はまた写真を撮って笑いものにされるのだろうかと怯えていると、今度は携帯ではなく一本のボールペンが現れ眼前にずい、と見せ付けられた。

「試してみよーぜ」

 言いながら目を細める木戸の屈託ない笑顔が逆に怖い。安藤は何を、と聞く前にそのボールペンが移動した先に気付いて身じろぎした。だが木戸はお構いなしに体を固定して晒された臀部にそれを近付ける。

「こっち、使ってシコってんだろ?」

 言葉と共にボールペンの先端が肛門の入り口を掠めて安藤は悲鳴が漏れそうになった。窪みをぐぐ、と押し付けて内部に入ろうとする無機質な一本のペンに大臀筋が拒絶を見せる。それに苛立った木戸は、ボールペンを自分の口に近付けると数回唾をつけてまた肛門に押し当てた。ぬめりが増えたせいもあるが、それ以上に木戸の唾液が自分に侵入しようとしていることに興奮を覚えてしまった安藤はついそれを受け入れてしまう。
 一度抵抗を止めれば後はすんなりと入るもので、回転させながらこじ開けるように奥に奥にと進む木戸の唾液交じりのボールペンに安藤は恐怖と痛みと少しの興奮に体を小刻みに震わせた。

「なんだ、狭いな」

 そんな安藤の気持ちなどお構いなしと言わんばかりの木戸は、眉を寄せて乱暴に何度もボールペンをこじ開けるように回しながら抜き差しする。角ばったそれは安藤の内壁を確実に擦り傷つけ、痛みに目をぐっと閉じた所で勢いよくペンが引き抜かれた。中が切れたような痛みに、思わず目尻に涙が浮かぶ。
 木戸はペンを地面に放り投げると、次はスラックスの後ろを探り出して四角い袋を取り出した。安藤にとってその見覚えはあるが実物を見るのは初めての袋は次に何が行われるのか安易に想像できて思わず腰を浮かせて抵抗を見せるが、木戸はそれを押さえつけながら袋からコンドームを取り出すと自分のバックルを外しだした。

「仕方ねえなあ、一発だけ突っ込んでやるよ。それならイけるだろ?」

 まるで安藤が挿入されたくて仕方ないと思っているような口ぶりで笑いながら見下す木戸に慌てて首を振るが、木戸は自分の陰茎を取り出すとおそらく勃起に繋がるような妄想をしているのだろう、目を閉じて何回か擦り始める。少しづつ固さを持ちだしたそれが垂れていた頭を上げて天井に向くのを安藤はつい固唾を飲んで見守ってしまい、嫌気がさした。

「ほら、もっと両足開けって」

 暫くして挿入に差し支えない程度に膨張した陰茎にコンドームを宛がいながら、木戸は膝で安藤の太股を蹴って自分が動きやすいように指示する。

「や、木戸くん、そ、れだけはいやだ」

 けれど安藤は首を振って抵抗を見せながら、逆に足を閉じようとした。このまま素直に言うことを聞くだろうと思っていた木戸は突然の反抗に苛立たしげに頬を引き攣らせながら陰茎を指して笑う。

「は? ちんこそんなにしといてそれ言う? つかさっきよりデカくなってるし」

 実際安藤の陰茎は萎えることなく興奮の意を示していた。それでも首を振ってそれだけは、と繰り返す姿に木戸が焦れたのか徐々に荒げた声を出し始める。

「俺のこと好きなんだったら大人しく股開け、っての!」

 そう言いながら安藤の両足を掴んで開く木戸の強引さに、ついに安藤は我慢出来ず大声を上げた。

「うる、さいっ!!」

 そして同時に掴まれていた両足を勢いよく振りかぶり木戸の手から逃れるとそのまま突き出して距離を取ろうとするが、どうやら両足は彼の鳩尾を強く押すように蹴ってしまったらしい。息の詰まるような声と共に木戸が後方の扉に頭を打ちつけながら崩れ落ちた。
 安藤は慣れない大声を出したせいで呼吸が荒くなるのを感じながら、上半身を起こすと立ちあがって扉側に近付き少し屈んで動かなくなった木戸の様子を見る。頭を抱えながらふらふらと体を揺らす所を見ると脳震盪でも起こしたのか、まだはっきりとは現状を把握出来ていないようだ。

「いってえ……なに調子乗ってんだよ」

 木戸はボヤキながら右手でこめかみを押さえ体を起こそうとする。けれど安藤は無言で歩を進めて彼の股の間に足を滑り込ませると、右足をコンドームに包まれたまま萎えてしまった陰茎の上に置いた。俯いていた顔は丁度それが視界に入ったのだろう。一度だけびくりと肩を震わせてゆっくり顔を上げる木戸の髪を掴み安藤は自分の方に視線を向けさせると、真顔のまま彼の半開きになっていた口に自分の陰茎を押しつけた。

「んぐ、う」

 予想してなかった行動に焦った木戸は安藤の陰茎を吐き出そうとするが、逆に根元まで強引に押し込まれてしまい喉に亀頭が当たって噎せそうになる。思わず歯を立てようと口を開くが、同時に自分の陰茎の上に添えられていた安藤の右足に重力がかかって踏み潰されそうになる、と感じた木戸は大人しく唇を窄めた。
 目線を上げれば、頭上の安藤は無表情の中に明らかに興奮の色を孕んだ視線で木戸を見下ろしている。普段大人しそうな人間ほど怒りが頂点に達した時が怖いとよく聞くが、いつも背を丸めて気が弱いから気付かれにくいだけで元々安藤は木戸よりも図体が大きく力があるのだ。状況のせいもあるが、今まで見たことがない安藤の表情に木戸は背筋が震えるのを感じた。

「舐め、っ、て」

 腰を揺らし震えながら指示した声は聞き取り辛く、けれど明確な意思と吃音の中に得体の知れない恐怖を感じた木戸は口の中に唾液を作りながら舌を口の中の陰茎に添える。びくりと震える陰茎に吐きそうなほどの嫌悪感を抱きながら舌先を亀頭に向かって這わせれば、小さな呻き声が聞こえて胃の中が逆流しそうになった。
 そうして暫く舌だけを適当に動かして時間を稼ぎながら、木戸は外の様子に耳を傾けた。かなり大きな声や物音がしたので流石に誰かに気付かれているかもしれないと思っていたが、どうやらこの近辺は誰も通りすらしてないらしい。人気のない雰囲気に助けは呼べそうにないと心中で舌打ちする。そんな中、緩慢な動きに焦れたのか安藤は木戸の髪を掴むと顎を上げさせ腰を前後に振り始めた。自然と木戸の咥内にいる陰茎が抜き差しされる形となり、喉を何度も突かれる衝撃に上手く呼吸が出来ず窒息しそうになる。苦しい、ともがき安藤の太股を掴んで引っ掻くが窘められるように陰茎に乗った右足が圧力をかけてきて木戸は生理的に出る涙で滲む視界の中安藤を睨みつけた。

「んぐ、うっぐ」

 そうして達しそうになった安藤が数回の前後運動の後喉の奥まで陰茎をぐ、と押し込んだ所で呻き声と共に口の中に苦みと粘りのある液体が口蓋垂に出された。へばり付く精子に噎せそうになりながら木戸は飲みこまないように必死で吐き出そうとするが、安藤はその様子を見ると鼻を摘まんで自分の陰茎を根元まで押し込む。結果呼吸の出来なくなった木戸は口の中に出された精子を喉に通すこととなった。胸がむかむかして吐き気を催しそうになり頬が引き攣る。
 けれど一向に口の中から陰茎が離れないことに疑問を覚えて、こっそりと安藤の様子を窺い見上げた。目を閉じて肩を震わせている彼に最初は射精後の余韻に浸っているのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。木戸はそこでようやく安藤が何故トイレに訪れていたか思い出した。頭を後ろに引こうとするが、後頭部が壁に当たっただけだった。ぶるりと鳥肌を立たせる安藤が目を開いて木戸を見下ろす。苦笑しているような、申し訳なさそうな半笑いは欲を持った熱に浮かされて嬉しそうにも見えた。

「き、きどく、ん。で、でで……でそ、う」

 その言葉と同時に口の中に広がったのは熱を持った液体と、苦み。そして先ほどの射精とは比べ物にならない量に、木戸は口の中だけでは受け止めきれず唇の端や鼻孔から安藤の尿を噴き出した。息が詰まっていくらか飲みこんでしまったが、すぐに訪れる嘔吐感は体が完全な拒絶を示している。せり上がる感覚に逆らわずそのままこみ上げたものを喉から出せば、口の中いっぱいに吐瀉物が広がってようやく気付いた安藤が口の中から陰茎を引き抜いた。胃の中にあった消化途中の昼食が、全て口から冷たい地面へとぼとぼと落ちていく。つんとした胃液の匂いが一瞬にして個室いっぱいに広がった。

「げえっ、え、ぐえ、」

 そしてようやく自由になった咥内に開放感を覚えながら、凝り固まった顎を擦り喉に詰まった吐瀉物の残りを地面に吐き捨ててすっきりした頃に、安藤の射精物と尿を飲んでしまった事実を思い出して眼前の彼の足を手で払うと便器に頭を突っ込んだ。もう何も出ないことが分かっていても嫌悪感と舌に残った味がまた嘔吐感を呼んで胃液だけの吐瀉を繰り返す。
 それでも気分が晴れず今度は口を濯ごうと便座に肩肘を置いて立ち上がろうとした時だった。背中に重力がかかって首だけで振り返れば安藤が自分に圧し掛かっている。耳元で荒い息遣いが聞こえ嫌悪感に鳥肌を立てていると、股間に手を延ばされ陰茎を両手で握ってきた。コンドームは萎えた時にずれ落ちて床に転がっている。まるで潰されそうなほど強く握られて、木戸はひ、と喉の奥で悲鳴が漏らすと体を萎縮させた。けれど安藤はすぐに両手の力を緩めると、木戸の陰茎を上下に扱き手淫を始める。股の間に膝を割り込ませられていて閉じることが出来ない木戸は何とか肘で後ろの安藤を殴ろうとするが、密着された体には大して効力を持たず更にその間も続けられる手淫に力が抜けそうになっているのを感じていた。

「てめ、いい加減にしろ、よ」

 せめてもの虚勢は一瞬安藤の動きを止めたが、震える声には何の凄みもなく逆に余計興奮を煽ってしまったのか耳元の息遣いが更に荒くなっただけだ。更には耳たぶに唇を寄せられるとべろり、と舐められ木戸は小さな悲鳴を漏らしながら目を固く閉じた。
 安藤はと言えば、爆発した怒りに任せて行動したのはいいがまさか自分が木戸よりも体力に恵まれていたとは思っていなかったので、自分に屈服した形で手淫を受け入れている木戸に驚いていた。同時に今までの屈辱を晴らしたいという邪な気持ちと、今なら木戸を自由に出来るという屈折した気持ちが沸き上がって自分の股間を彼の腰に押しつけた。勃起したそれに気付いたのか、木戸は自分の陰部を隠すように腰を落として位置をずらす。
 安藤は手淫を続けながら、不快を表わす木戸の耳元に唇を近付けた。

「きっき木戸くん、ちょっとだけかかかたく、なってる」

 言葉通り、木戸の陰茎は思いとは反対に性的興奮を覚えている。信じたくない、と言いたげに首を振る木戸に安藤は彼の体を自分の方へ寄せて上体を起こすと、勃起した陰茎を見せつけるように仰向けに傾かせた。天井を向く陰茎に木戸が思わず唾を飲み込む。
 その硬直した彼の隙をついて、安藤は彼のスラックスを剥ぐと両足を自分のもので絡ませると割り開くように開脚させた。右手を陰茎から離して自分の口に突っ込むと、唾液を吐き出して指を濡らし彼の臀部に近付ける。そこで我に返った木戸は必死の抵抗を見せたが、彼の陰茎を握っていた左手にぐっと力を籠めれば硬直して安藤の方を振り返った。情けないような、怒っているような、泣いているような表情に、安藤は自分の下半身に熱がこもるのを感じて彼が前を見ていない間に躊躇なく指を突っ込む。

「ってえ!!」

 しかし固まった体は安藤の指二本を受け入れることすら難しかった。第二関節辺りで完全に筋肉が萎縮し奥へ入らなくなった指に、安藤は無理矢理捻じ込むように指を回していく。左手で手淫を続けていると少しだけ緊張が解けたのか緩くなった瞬間を狙って指を全て木戸の中に入れ終わった所で前からすすり泣くようなしゃっくりが聞こえてきて木戸を覗き込んだ。涙こそ出てないものの、呆然とした表情で自分の下半身に視線を向けている。

「し、んじらんねえ……へ、変態、ホモ野郎、」

 声を震わせながら罵倒する声は、けれど安藤にとって今は心地いいものでしかなかった。何故ならこの状況でも、手淫されている彼の陰茎は萎える気配を見せないのだ。それは彼自身気付いているのだろう、言葉尻が窄む声に覇気はない。安藤は木戸の中に入った二本の指を曲げたり擦り合わせたりしながらゆっくりと引き抜いて、また奥へと一気に突っ込んだ。小さな悲鳴を喉で鳴らしながら小さく暴れる木戸を無視してそれを何度も繰り返していれば、彼も抵抗する気力をなくしたのかぐったりと背中を安藤の方に預けてきた。恐る恐る携帯を取り出して彼の痴態を撮ってみるも、睨まれただけで抵抗されることはなかった。
 安藤は不思議に思いながらそれでも木戸の耳を舐めまわしたり、乳首に指を這わせてみたりと彼を堪能していると、暫くして終業のベルが聞こえてきた。そこで安藤は現実に引き戻されるように顔を上げる。小休憩の時間になったせいか廊下の方が騒がしくなることに焦り始めた安藤は、動きをぴたりと止めて外の様子を窺う。

「も、いいだろ。抜けって」

 そこで、暫く大人しくしていた木戸が小さな声で安藤に指示しながら彼の腕の中から抜け出すように上体を前に起こした。

「つぎ、俺らのクラス美術室使うんだわ」

 その言葉で安藤は木戸が途中から大人しくなった意図にようやく気付いて唇を震わせた。木戸は安藤の方に振りかえると自分の下着とスラックスを履き直しながら、安藤のポケットを弄ると携帯を取り出して便器の中に放り込む。水音と共に携帯が陶器にあたるかつん、という音が響いた。

「今この状況で誰か呼んだらお前、残りの学校生活ホモレイプ野郎ってあだ名になるかもなあ」

 最初にトイレに訪れた時の意地の悪い笑みを浮かべたそれは、いつもの彼の姿だ。安藤は咄嗟に便器の方に近付くと水没した携帯を拾い上げた。真っ暗なまま何の反応も示さない四角い機械を呆然と見つめていると、扉側に回り込んだ木戸が振り返りながら笑いを殺している。

「それ、データ復活してもお前がホモレイプしてたって証拠にしかなんねーから」

 そう言って個室から出ようと鍵を回し始めた所で、安藤は後ろから全力で彼を扉に押しつけた。大きな音が鳴り響くが、幸い外には聞こえなかったらしい。廊下から話し声が近付いては離れていくのを耳にしながら安藤は怒りを露わにしてる木戸を見下ろし、大声を上げそうな彼の口に左手を突っ込むと右手でボタンも留めず上げられただけのスラックスと下着を引き摺り落とし自分の硬くなった陰茎を彼の肛門に宛がった。

「んぐっぐう! ぐうう!」

 木戸は抵抗しながら左手を全力で噛んでくる。安藤は血が滲みそうな程の強い痛みに涙を浮かべたが、それでも自分の陰茎を支えると木戸の肛門を割り開いて強引に中へと捩じ込んだ。亀頭が入った所で暴れていた木戸が鋭い痛みに硬直して動かなくなった瞬間を狙って根元まで一気に貫く。内壁が裂くような音が聞こえるほど無理な挿入はお互い痛みしか残さず、けれど安藤は自分の睾丸が彼の臀部に当たった感触に興奮を覚えて中で萎えかけていた陰茎を膨張させた。木戸は経験のない痛みに耐えきれなかったのか、肩を震わせて驚愕の視線を安藤に向けている。

「いっいい今人来たら、木戸くんもっへっ、変態だよ」

 けれど安藤は責めるような視線に負けじと木戸を脅すような言葉を投げかけた。効力があったのか木戸はぐ、と口の中のの左手ごと歯を食いしばると陰茎を引き抜こうともがきながら足を動かすが、安藤は負けじと扉に木戸を押しつけて腰を前後に振り始める。慣らされていない直腸は安藤の陰茎に拒絶反応を示しているのか押し出そうとしていて、自然と抜けそうになる所で何度も押し込んでは歪な抜き差しを繰り返していた。
 そして何度かの前後運動を繰り返した所でようやく木戸の中の筋肉が疲れからか緊張を解いた頃、安藤は彼の口から左手を抜き出すと噛み跡から血が滲んでいる指を擦って木戸の陰茎を握ると手淫を始めた。それに驚いたのか、先ほどからぶつぶつと聞き取れない罵声のようなものを吐き出し続ける彼の声が止まったと同時に小休憩の終了を告げるベルが聞こえて、安藤は静かになりつつある廊下の様子に安堵の息を漏らしながら彼の尻を鷲掴みにして揉み拉く。筋肉を解すようなマッサージに近いそれは安藤にとって堪能する為の行動であったが、結果的に木戸の大殿筋を緩めることとなったようだ。徐々に滑らかになる抽送運動に安藤の動きも次第に激しくなっていった。

「ぐ、うう、うっ」

 体を揺らされただ唸りのような呻きを上げる木戸は、このままやり過ごそうとしているのか目を閉じて額を扉に押しつけている。安藤はその様子に少しの罪悪感を覚えながら、それでも欲望には勝てず少しして限界の近くなった熱を躊躇いなく木戸の中に解放した。同時に手の中で僅かに勃起していた彼の陰茎がお情け程度に射精し、続いてちょろちょろとアンモニア臭漂う液体を地面に落していく。恐怖心によるものなのかどうなのかは知らないが、安藤は彼の零された尿にまた興奮しそうになる自分を戒めて頭を振った。
 個室の中は既に安藤の尿と汗、それに木戸の吐瀉物と尿で耐えがたい臭いを発していた。安藤は木戸の中から自身の陰茎を引き抜くと、備え付けられているトイレットペーパーで簡単に下半身を拭き取り衣類を着せていく。既に地面に一度落ちて汚れきったそれらは逆に不快感しか与えない気もするが、局部を晒したままでいるよりはマシだろう。安藤もスラックスどころかブレザーにまで木戸の吐瀉物が付着していて、お互い着込んだものはいいが外に出るのも憚られる状態にどうしたものかと往生していた。
 幸いなことに、今の授業時間が終われば放課後になるし今日は授業後から放課後に入るまでの間に各学年毎、特別室でのホームルームが設けられている。その時間は全ての教室が無人の状態なのでそこで体育着でも取りに行くしかない、と脳内で予定を組んだ所で扉に向かって頭を擦りつけたまま事後も尚動く気配のなかった木戸がドアノブに手をかけた。

「ま、ま待って!」

 安藤は焦って木戸の手を握りこんで制止する。視線だけで振りかえった木戸が、安藤を睨みつけて手を振りほどいた。

「これ以上ここにいる必要ねえだろうが」

 そう答える彼の目は赤く腫れている。そもそも彼が自分をいたぶっていた筈なのに、気付けば安藤が木戸を虐めるような形になったことは彼にとって自業自得と言えばそうなのだが、安藤はそれでも申し訳なさに胸が締め付けられるような思いを感じた。

「ご、ごめんね」

 咄嗟に俯いて出た彼の嫌いな謝罪の言葉は小さ過ぎて聞こえたのか怪しい所だが、木戸は一瞬動きを止めて唇を噛みしめると安藤を突き放して距離を作る。

「お前の、そういうところ。本当腹立つんだよ」

 そう言って睨みつけられて安藤は俯きながらまた小さくごめん、と謝罪していた。木戸の表情は見れなかった。
 二人の間に暫く無言が続いたが、先に沈黙を破ったのは木戸だった。黙ったままドアノブに手をかけて鍵をあけると、個室から出て扉を閉められる。安藤も止めることはしなかった。おそらく彼のことだろう、もし誰かに見つかったとしても自分に責任を押しつけて上手く自身の状況を都合よく伝えるに違いない。そう予想をつけて自分はせめて授業が終わってから外に出ようと、便座に腰かけた時だった。扉が開いて、見上げれば個室から出た木戸が顔を覗かせている。

「お前、……に、……ってたのかよ」
「え?」

 気まずそうな、ぼそぼそとした声は聞き取り辛く、安藤は咄嗟に反応が遅れてしまう。それに苛立ったのか、木戸は安藤を睨みつけて眉を顰めた。

「だから、お前、ずっと俺に突っ込みてえとか思ってたのかよっ」

 大声を出せば隣の美術室に聞こえてしまうと思ったのか、小声で叫ぶ木戸のそれでも勢いのある迫力に安藤は即座に頷いてはい、と返事する。すると木戸はぐ、と眉を限界まで寄せて難しい顔をすると黙って扉を閉めていった。痛むのだろう、引き摺るような足音が去っていくのが聞こえて今度は本当に行ってしまったのだと安藤は肩の力を抜いて安堵の息を吐く。
 そうして心を落ち着かせて今日の、正確には先ほどの出来事を反芻して安藤は疑問に首を傾げた。そういえば、彼は何故自分に性的な感情を寄せられていると分かっていてその相手と個室に入ったのだろう。中学の頃は頑なに二人きりになろうとしなかったのに、だ。彼の少ない発言を思い出しながら、安藤はまさかまさか、と信じがたい結論を出して流石にそれは自分に都合がよすぎると頭を振った。
 けれど強引にとはいえ木戸と性交渉に至ることが出来た今日。彼にとって最初の苦しみを忘れるぐらい浮かれてもいい出来事は余計な考えばかりを作りだしていて、結論が出た頃には安藤の表情は緩み切っていた。
 丁度終業のベルが聞こえてきて外の様子が騒がしくなり、個室の外から用をたす複数の生徒の話し声も聞こえてくる。安藤は足を小刻みに揺すりながら人気がなくなるのを待ち続けた。まずはこの異臭のする服を着替えに行こう、それから恐らくまだ帰ることが出来ていないであろう木戸を探しに行こうと心に決めて口元を両手で覆う。
 また勃起し始めた陰茎が布越しに隠すことなく主張されていたが安藤は気付かずただただ外の気配に集中、していた。



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(C)siwasu 2012.03.21


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