敵幹部×ヒーロー[R18]



残った最後の敵幹部×フリーター金欠ヒーロー



【恋愛残高カウンター】

 大人になれば沢山のしがらみが増えて子供の時の自由な気持ちは少しづづなくなっていくのだと思う。だからこそ子供達にはその一瞬の高揚感や多幸感、簡単に言うと夢や希望を大事にして欲しいと思う。宇宙からやってきた侵略者と日々隠れて戦う子供好きな俺、高坂圭吾(こうさか けいご)はそれが今一番の望みだ。
 しかし、そんな望みを叶える為には現実問題金がいる。誰からも賛辞や給料がもらえないヒーローの生活は、そう甘くない。本当に甘くない。いや、本当に。

「キーッ!キーキーッ!!」

 つまりいうと現在、俺は子供達に害をもたらそうとしている侵略者と戦う為の資金を、子供向け特撮番組に出てくる悪の組織の下っ端戦闘員というバイトで、少しだけ賄っている。

「出たな、悪の組織!」
「イーッ!!」

 俺及び他の兵隊達は、その声と共に崖の上から現れた男を見上げた。
 そこにいるのはこの番組のヒーロー、主役である眞木祐介(まき ゆうすけ)。最近デビューしたばかりだというのに子供にも、そして中年女性層にも人気の俳優だ。眞木は今回の話の流れで既に変身している格好のまま俺たちを見下ろすと颯爽と崖を滑り降りてきた。このスタントマンいらずの運動神経は、イケメン俳優にしてはなかなかのものだと思う。
 眞木はポーズを決めると、お決まりの台詞を口にした。

「来い!」
「キーッ」
「キーキーッ!」

 その言葉に従うように俺達は眞木に飛びかかっていく。と、言ってもある程度決まった動きがあるのでその通りに動くだけのものだ。
 隣の仲間が2人やられて、大げさに後ろに吹っ飛ぶ。カメラでは切れているが、一応飛んでった先にはクッションが敷かれているので安心していいぞ、多分いないだろうけど俺達のファン。そして次は俺が拳を突き出して眞木に背負投げをくらう、という所で背筋がゾクリと粟立った。目の前には何故か手が伸びてきていて、思わず派手な動きで避けてしまう。マズい。

「カーット!!何勝手に避けてるの!」
「すみません…!」

 撮影が止まり監督の怒鳴り声が聞こえてくる。そりゃそうだ。下っ端戦闘員がヒーローの攻撃を派手に避けてどうする。俺は監督に向かって勢いよく頭を下げた。

「また君か。目立ちたいのは分かるけどねぇ、」

 呆れたような声と共にくどくどと始まる説教。この監督にはとっくに目をつけられていて、俺は諦めの溜息をこっそり零しながら終わるのを待とうと俯いた。

「まぁまぁ、監督。高坂くんだってわざとって訳じゃないんだし。それに先に間違えて手を出したのは僕なんだから」

 が、そんな中助け舟を出してくれたのはこの番組の主役で、先ほど台本にない動きを見せた眞木だった。爽やかな笑顔で監督を諌める姿に誰のせいだとジト目を向ける。

「ちょっとこっちの方が勢いあって格好いいかなってつい、ごめんね」
「あ、いえ…」

 けれど眞木の謝罪の気持ちがこもってるのか分からない茶化したウインクに思わずスーツの中が汗ばんだ。
 それから再開された撮影はその後スムーズに進んだが、眞木に吹っ飛ばされて出番のなくなった他の仲間達とスタジオを抜けながら俺は肩越しに今回の敵と戦う眞木を険しい表情で見つめる。怪人に華麗な動きで蹴り上げる姿はやはり様になっていた。
 …だが、今日はこのまま帰ることは厳しそうだ。





 先ほどのバイトは月給8万円。あと深夜のコンビニとか日雇いの仕事で何とか家賃や光熱費は払えてるが、それでも食費やら侵略者と戦った後の治療費やらには到底追いつかない。その上今の仕事が楽しいか、と聞かれれば頷くのを躊躇うぐらいには今日あった眞木の嫌がらせのようなものは日常茶飯事に続いていた。思うにどうやら俺は彼に嫌われているらしい。

「…っ、っ、ぁ…」

 一層薄給なんだし転職したらどうだ、とも思ったのだが残念ながらその決断も難しかった。先ずはやっぱりこういう子供に夢を与える仕事が例え悪役で脇役だとしても好きなこと、それに眞木に実は軽く脅しのようなものをチラつかせられていること、あとそれに対して俺が逆らえない非日常だが現実的な問題があることだ。
 つまり、

「あ…!ん、っ、く、は…はっ、」

 俺は眞木に、不本意ながら金をもらって体を開いている。 

「ほら、もっと腰あげてって」
「ひ、…っん!」

 グッと腰を深く進められて俺は思わず喉から引きつったような声が漏れた。掴んでいるラックから今回使われた小道具が揺らされてポトリと落ちる。小道具置き場になっているここは今の時間人が入ることはないがそれでも誰かが来ないとも限らないので、せめて早く終わってくれと惨めな感情に泣きそうになりながら腰を振った。

「今日も監督に怒られてたねぇ、高坂くん」
「あ、っ、だって、眞木さん、が…っあぁっ!」
「何?僕が、何?」
「…っでもな、何でも、な…っ、や、ぁっそこ、やっ」

 いい所を何回もこするように動かされて、甘い声が倉庫内に響き渡る。多分、もうすぐ終わる。というか終わってくれ。

「ほら、中に出す、よっ」
「ん、んく…っ、んんっ!」

 予想通り切羽詰った声が後ろから聞こえてきて、眞木が大きく腰をうねらせながら射精した。中に温かなものが出される感触を受け止めると、何回か揺すられた後ゆっくりと引き抜かれる。ケツから垂れた液体が内股を伝って思わず下肢がブルリと震えた。
 そしてそのまま腰を地面に下ろし大きく息を吐いて呼吸を整えていると、頭上からひらひらと何枚かの紙切れが落ちてきた。咄嗟に反応して拾う自分が卑しい。

「そんだけあれば今月いける?」
「…た、多分いける」
「そ。じゃあまた来週相手してあげるね」

 そう言いながらしゃがみ込む俺の旋風に口付けを落とすと、眞木はいつものように倉庫をあっさりと出ていった。残ったのは俺と俺の手にある数枚の諭吉様。あと俺の中にある眞木の精子。
 そう、俺は日々悪を倒しながら特撮番組のバイトをこなし、それでも生活費がギリギリな為主演の眞木に体を開いて金をもらっていた。





「理不尽過ぎるだろ…!!!」
「チー!チーチー!」
「だろ?!お前らもそう思うよな!?」
「チー!」

 場所は変わって人気の少ない工場跡地。俺は仕事での衣装よりはいくらか上等な、機能性が優れたいかにもヒーローらしいものを着ている。そして目の前には侵略者の下っ端戦闘員。最初は鬱陶しいと思っていたこいつらは、意外と話せば分かることに気づいてから最近では幹部が出てくるまで愚痴を聞いてもらっている。いや、敵と仲良くしてどうするんだと怒られそうだが結局の所こいつ等も薄給でこき使われているだけの社畜なので俺と変わらない、というかむしろ親近感さえわく。

「いや、何やってんの君ら。ちゃんと給料渡してるんだから仕事してよ」
「げ、きた」

 座り込んで話している所に痺れを切らしたのか顔を隠すように仮面をつけた幹部の一人であるユーマが現れた。いや幹部、というか戦闘員以外で残っているのはこいつしかいないのでもうボスって言ってもいいのかもしれない。登場した上司に、戦闘員は焦って立ち上がると敬礼していく。それを呆れた様子で見ながら、ユーマは俺を気だるそうに一瞥した。

「あー、仕方ない…やるか。おらー、悪の侵略者どもかかってこーい」
「チーチー」
「その面倒くさそうな棒読みヤメロ」

 溜息を吐きながら肩を落とすユーマに俺は決めていたポーズを崩して頭をかく。

「だってお前、もうこれ続けて何年だと思ってんだ、5年だぞ5年。正直そろそろだるくもなるし腰も痛くなってくるし金もないわ!」
「チー!」
「いや、だから何故お前らがこいつの味方をしてるんだ!」

 すっかり俺に懐いた戦闘員に青筋を立てながらユーマはまた大きな溜息をついた。

「それに金もないのはこっちも一緒だ!1年で侵略が終わるかと思えばお前のせいで5年もかかるし、侵略資金は底を尽くし、かといって何もせず母国にすごすご帰るなんてことも出来ないし…」
「俺なんか29で薄給フリーターでヒーローだぞ!この戦い終わって就職先見つからなかったらお前らのせいだからな!」
「じゃあ今すぐヒーローやめて就職しろよ!」
「お前らが侵略諦めればすぐにでもするわ!!」
「僕たちも早く侵略して母国に帰りたいにきまってるだろ!」
「だから俺はお前らが…!」

 結局、終わらない言い争いは夕方まで続いた。





「チーチー!」
「チー!」
「あ、お疲れー」
「はっ!もう定時か…!!」

 カラスも鳴く夕暮れ前。定時上がりの戦闘員達は挨拶をしながら帰っていく。結局今日も何も戦わず一日が終わった。と、いうかここ半年はずっとこんな感じな気がする。あいつらも大変だなぁ、なんて考えていると、急に背筋がゾクリとして後ろに飛び退いた。俺がいた場所にはユーマの手が伸ばされている。チッと舌打ちが聞こえてきたのを確認しながら俺はゴクリと唾を飲んだ。

「なぁ、もういい加減諦めて星に帰る気ねえ?」
「馬鹿をいうな。そんなことすれば母国で笑いものだ。と、いうより一応5年いる間に波に乗ってる職についてるんだ、一応それなりの金をもらっているし簡単に辞められる訳がないだろう」
「えっ!?」

 ちょっと待って。29年地球に住んでる俺が薄給フリーターだというのにこいつは安定した給料をもらっているのか?

「理不尽過ぎるだろ!その職紹介しろ!!」
「なんでお前に紹介しなきゃいけないんだ!敵と同じ職場で働くとかバカか!」

 うっ、もっともな意見だ。敵に常識を突きつけられて、俺はどれほど自分が切羽詰っているのか思い知らされた。

「それに落としたい相手がいるからな。せめてそいつを攻略するまではこの星から離れる気はない」
「しかも職場恋愛かよ!!リア充か!侵略者の癖にリア充かよくそ…っ!」

 なんだその羨ましい環境は。俺なんかフリーターで薄給で彼女もおらず更に金足りないから男に体売って生活しているというのに…。

「お前なんかそいつに当たって玉砕しちまえバーカ!」
「おいっ、こら、砂を投げるな29歳…!」
「うっせー!心は永遠の16歳だっつの!!」
「…言ってて空しくならないか?」
「お前らのせいだろうが…!!!」

 八つ当たりだと分かっているがとりあえず砂を投げ続けていると、流石に怒ったのかゆらりと体を動かした。

「なんだよ、やる気になったのか?」
「………」

 が、動きを止めるとユーマは俺を仮面の隙間からジットリと見つめる。

「お前さっき当たって玉砕、と言ったな」
「お、おう…玉砕して泣きながら星に帰れよ」
「ここだけの話だが、もし玉砕しなかったら僕は相手の返答次第では侵略を諦めてこの星に永住するつもりだ」
「なんだと!?その話詳しく聞かせろ俺の為に!」

 ちょっと待て!!突然の告白に、俺は思わず飛びついた。
 だってそうだろ、もしかしたらこの互いに引くに引けなくなっていた戦いの決着がつくかもしれないんだぞ。それが相手の恋の応援というのは癪だが、この際背に腹はかえられない。彼女もおらずフリーター暮らしで男に体を売るような日常を終わらせる為だと、俺はユーマに近づくとお互いしゃがみこんで話し合った。

「で、その相手との進展は…」
「体の関係までは」
「オイ待て。それもうゴール寸前ってかゴールしてんだろ!!さっさと結婚でも何でもして侵略諦めろ!そして俺に彼女を作らせろ!!」
「だ、だがまだ相手から返事は…」
「アホか!体許してる時点でオッケー以外に何があるんだ、向こうもお前に気があるに決まってんだろ!」
「そ、そうなのか…」
「そうだ!いいか、お前は微妙に押しが弱い所があるから、もっと攻めろ。そうすりゃ向こうもイエスというに決まってる。何だったらちょっとぐらいオラオラでもいい」

 俺のアドバイスにユーマは何度か頷くと、突然立ち上がり拳を握り締めた。

「ふむ…ふむふむ…分かった、明日早速実行してくる」
「そうだ、最近流行りの壁ドンでもすりゃ男らしさアップだぞ!」
「よし!助かったぞ、礼に貴様には明日真っ先に報告してやる」
「そしてそのまま寿退社な、結婚式には呼べよー!」
「任せろ!」

 そう叫びながら颯爽と去っていくユーマに、俺は笑顔で手を振った。敵なのだが、相変わらず憎めない奴だ。あいつに惚れられている女はさぞかし幸せだろう。宇宙人だが星の壁を乗り越えて愛を育むに違いない。そう考えると、少し胸がキリリと痛んだ。正直侵略者の幹部の中でも一番下っ端なあいつが残ったのは俺のここがいちいち痛むからなのだが、なるべくこの感情は表に出さないようにしている。
 敵に片思いとかとんだ間抜けなヒーローだとは、認めたくないからだ。





「と、いう訳で僕と結婚すれば?」
「いや、意味が全く分からないです眞木サン」

 翌日特撮番組の撮影後、俺は何故か眞木に廊下で壁ドンされた後求婚された。

「は?君も僕のこと好きでしょ?」
「いやいやいやいやいや、その好き云々の前に俺男だから結婚出来ないし」
「は!?」

 ぼそりと返した言葉に眞木は何故か目を見開いて動揺しだす。いや、当たり前だろ。お前実は法律とか知らないのか。

「おかしい…あいつはそんなこと一言も…」

 そのまま口元に手を当てて悩み始める眞木を見ながら、俺は壁と彼の間をすり抜けながらその肩を叩いた。

「何の悪戯か知りませんけどあまりこういう場所でするものじゃないですよ。すみませんが俺、この後予定あるので失礼します」

 今日はあいつの告白報告を聞く日だからな。急がねばと、何か言いたげな眞木を置いていつもの工場跡地に向かった。折角だから祝い酒でも買っていってやろう。ヒーロー引退と失恋記念日に複雑な感情を混ぜながら、俺は若干重たい足取りで近くのコンビニに入った。
 勿論、変身した俺が残業手当まで使って戦闘員と共に「この嘘つきめ!!!」と、ユーマに襲いかかられることなどその時は予想もしてなかったのだが。

「この星では男同士は結婚出来ないんじゃないか!!」
「つかお前の言ってた相手って男だったのかよ先に言え!!!」

 …当分の間はヒーロー引退も失恋もなさそうだ。





■おまけ

「チーチー?(訳:そろそろ二人共気付いたらよくね?)」
「チーチー、チーチーチー(訳:俺ユーマ様と同じ撮影参加してるけど、高坂くんがあいつだってすぐ分かったよ)」
「チー、チーチー(訳:ほら、ユーマ様僕たちのことも区別つかないから)」
「チー…(訳:いや、高坂くんを俺らと一緒にしたらダメだろ…)」
「チー、チーチーチーチー(訳:俺、今度深夜のコンビニで一緒の子と結婚するから安定した職につきたいんだよなぁ…)」
「チー!?(訳:マジで!?)」
「チー…チーチー(訳:あー…俺たちの将来の為にも早く気付いてくれないかな、あの二人)」
「「「チー(訳:だよねー)」」」



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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