平凡×会長



イベントでの無配。平凡と会長がイチャイチャしてるだけ。



「sweet lunch break」

「け、けけけけけ、けつの穴にチンコ突っ込まれたことあるか?」

 思わず飲んでいた麦茶を噴いた。
 すると茶色い液体は漫画でしか見たことないような放射線を描いて床に……あぁ、汚い。いや、違う。

「あ、あるのか?」

 色々とショック過ぎて、呆然と床に零れた麦茶を見つめていたら何故か勘違いされたので、僕は慌てて首を振って答えた。

「いや、ないですよ。というかある筈ないですよ。でも絶対ないのかと聞かれると断言出来ない、なぁ?」
「どっちなんだ!」
「少なくとも僕の記憶の中では先輩の言った行為に心当たりはありませんね」

 持っていたティッシュを出して床を濡らしている麦茶を拭きながら、椅子の上で紙パック片手に胡坐をかいている人物を見上げた。
 よく分からないが深刻そうな顔をしている。
 どうしよう、何かとんでもない誤解をされてそうな気がするぞ。
 僕、高橋修(たかはしおさむ)は床を先輩が滑って転ばない程度まで綺麗にして椅子に座りなおした。
 食べかけのおにぎりを一口齧るが、先程の会話のせいでちっとも美味しくない。というか食欲が失せた。
 しかしテンションの下がった僕に、先輩は何故か憐みの目を向けて更には慈愛に満ちた笑みまで浮かべ始めた。
 これは確実に誤解されている。

「先輩の頭の中の僕、今どうなってます?」
「そうだな…宇宙人に連れ去られて種付けからの記憶操作された所まで」
「やめてください」

 食欲が失せたどころか吐き気を催してきたんですが。
 真顔で先輩を見つめていると、まるで無理して平気な素振りを見せているお前のことも分かってるぜ、なんて言いたげな笑みを向けられたので、流石にそろそろ堪忍袋の緒が切れて半分以上残っている麦茶のペットボトルを顔面に投げつけた。
 鼻頭に当たったのか呻きながら椅子の上で丸まっている。

「いい加減その僕に対する妄想癖やめてくれませんか」
「だってお前、なんか特徴ないくせに、いやないからこそ不憫な目に合ってそうな顔してるっていうか」
「割と暴言ですねそれ」

 冷たい視線で責めれば明後日の方を向いて不貞腐れる先輩に、食べかけの、違うもう食べる気力もなく捨てられる予定のおにぎりを思いっきり顔面に擦りつけてやりたい気持が湧いたが、堪えて大きく息を吐く。
 少し心が落ち着いた。

「大体ですねえ」
「ねえ?」
「けつの穴にチンコ突っ込まれてるのは先輩の方じゃないですか」
「んが!」

 荒い鼻息が鳴って、胡坐をかきながら揺らしていた椅子の上でバランスを崩した先輩が慌てふためきながら両手をばたつかせる。ざまあみろ。

「毎晩あんあん煩くて、先日防音の部屋なのに静かにしろってお隣さんに怒鳴られたじゃないですか」
「それはお前がしつこいからだろう!」

 耳まで真っ赤にさせた先輩が悔しそうに僕を睨み上げる。
 どうやら調子が戻ったようだ。

「まさかお隣さんも、安眠を妨害するほどの喘ぎ声を上げてるのがこの学園の王様と呼ばれている生徒会長だなんて――思いもしないでしょうね」
「あー、すまん、変なこと聞いた俺が悪い」

 すぐに赤い顔で降参のポーズを見せる先輩は可愛いが、追い詰めたいわけではないので許すことにする。
 僕たちは現在付き合っているが、皆には内緒の秘密のオツキアイだ。
 と、いうのも会長の親衛隊は勿論、生徒会役員も先輩のことを超大金持ちで権力のある、バリタチの俺様会長だと信じて疑わないからだ。
 本当は平凡な庶民で朝から納豆食べてラジオ体操するのが日課なジジ臭いバリネコだったりするのだが、容姿と偉そうな口調のせいで誤解されることが多く、先輩も先輩で訂正するのが面倒だからとつい皆の理想の姿を振舞うため、後に引けない状況になっていた。
 金持ち学校で数少ない庶民の一人である僕と出会ってからは隠れて素を曝け出しているのでストレスが溜まるようなことはないと言っていたが、もし付き合っていることがバレたら本当は金持ちでもバリタチでもないことも知られてしまうだろう。
 それは後々厄介な面倒しか起きないと二人とも分かっているので、学園の中で僕たちはクラス委員長と生徒会長でしかない。

「そろそろ昼休み、終わっちまうなぁ」

 残念そうな先輩は唇を尖らせて肩を落としている。誘われているのかと思ってキスしたら、反射的にビンタされた。

「お、前なぁ」

 先輩は頬を赤らめながら呆れたように息を吐く。とぼけていると片付けを始める姿を見守りながら(ついでに僕のゴミも片付けてもらおう)ふと僕より一回り大きな背中に問いかけた。

「で、結局何だったんですか?」

 先輩の手が止まる。

「んー、うー、……あぁ、もうっ」
「?」
「昨日、お前のこといいかもって話してる奴とすれ違ったんだよ」
「それで?」
「……で、なんかお前が処女かどうかって話し出して、とりあえずぶん殴ったけど、俺まで気になっちまって」
「先輩って馬鹿ですか」

 とりあえず思ったことをそのまま告げたら怒られた。

「てめえがふらふらしてるから、俺が不安になるんだろうが」
「僕は先輩一筋のつもりですけど」

 振り上げた先輩の右手が止まって、所在なさげにうろうろとし始めた。可哀相だったので手をとって助けてやる。

「安心してください、後ろは全くの未経験なんで、先輩が突っ込みたいなんて奇跡のような言葉を言わない限りはお尻、一生バージンのままです」

 そう言ってとった手を恭しく撫でると返事が気に入ったらしい先輩が張り切って片づけを再開した。
 そして全て集めたゴミ袋を僕の方に投げて寄越す。

「おら、行くぞ平凡野郎」

 顎で指示する偉そうな態度は、すっかり学園の王様モードだ。
 僕はそんな先輩に頭を下げて従いながら、今日はどんなプレイで泣かせてあげようかなぁ、と口元に笑みを浮かべた。



end.



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(C)siwasu 2012.03.21


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