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「絢未ー。起きなさい!」
「ん? ──ぅん〜……っ」
母の声で目が覚める。
これが私の日課。
「おはよう……」
「はい、おはよう。昨日は帰ってきたと思ったらぼーっとしてお風呂入って夕飯食べて……。魂でも抜けちゃったのかと思ったわよ。気味が悪かったわよ」
「は、はは……」
「早く食べなさいね。今日は午前でしょ?」
「うん……」
そうだった、今日は午前だったっけ……。
母に急かされるまま朝食を済ませ、大学へ向かった。
「おはよう、絢未!」
「うん、おはよう」
いつものように大学より少し前の交差点で結が待ってくれていて、いつものように挨拶する。
「あれ、今日は静かじゃない?」
「そ、そうかな?」
「そうかなって、いつも元気じゃーん! 何かあったの?」
「ま、まあ……。昨日、……立花さんにキス、されたんだよね……」
「え……えぇぇえええ!?」
すっきり晴れた青空のもと、結の驚きの声がこだました。
「うそ!?」
「うそじゃないって。──まあ、私も未だに信じられてないんだけど……でも、確かに感触とか覚えてて……」
「え、えぇ〜。あの立花さんが?」
結はあまりにも衝撃的だったのか開いた口が塞がらない。
その気持ちはすごく分かる。
実際のところ、私も半信半疑なのだけれど、思いのほかリアルに鮮明に記憶が残っている。
だから、きっとこれは夢なんかでも妄想なんかでもない……現実なんだ。
「私が一番びっくりしてるよ……。だってあの立花さんがだよ? 私にキスなんて……」
「絢未……」
脈ナシだと思っていたのに……あんな思わせぶりな対応……ずるいよ──。
「あ! 私、1時限目からだから! 先行くね!」
「う、うん!」
何はともあれ、講義も研究もしっかりやらなくては。
急いで講義室へ向かったのだった。