理緒はただ呆然と蒼い空を見つめる。
あぁ、私の隣に今もあなたがいてくれたら。
私は独り。いつも独り。
あなたが消えた世界は虚空。私の心にはぽっかりとおおきな穴が空いてしまったの。
今日も一人で木の下に座り、あなたの帰りをずっと待っているのよ。
…ふいに私の傍らに小さな鳥が飛んできた。
その小鳥は、首をせわしなく動かし、綺麗なさえずりをしながら私の指に止まる。
半兵衛はよく私は小鳥に似ていると言った。でも自分はそうは思わない。もしそうだとしても私は飛べない小鳥。
ここで待つことしか出来なかった出来損ないの小鳥。
あなたがいないと私は羽ばたくことすら出来ないの。
ねぇ、約束したでしょう、必ず帰って来るって。そしてあなたは抱きしめてくれた。
なのにどうしていつまで経ってもあなたは姿を見せないの?
桜の名所案内もしてくれるって言ったのに。もうすぐ桜は散ってしまうよ?
ねぇ、どうして?
「どうして帰ってこないのよ……」
理緒の瞳から大粒の涙が溢れだす。その涙に濡れた小鳥はどこか遠くへ飛んでいってしまった。
あぁ、私もこの鳥のように自由になりたい。
このまま死んで、しまおうか。そう思った。
気持ちの良い風が桜の花びらを乗せて吹き抜けた。
その時だった。
「そんなに泣くとせっかくの可愛い顔が台無しだよ。さぁ、笑って?…理緒…。」
その声に驚いた私を後ろから優しく抱きしめたのは紛れもない、私の愛しい愛しい半兵衛だった。
「半兵衛!やっと帰ってきてくれたんだね!」
私はあまりの嬉しさに勢い良く後ろを振り向いて、目を見張った。
後ろにいるであろう半兵衛の姿はどこにも見つからなく、目前に広がるのはただただ広い草原。
今たしかに半兵衛の声が聞こえたのに。
あれは幻覚だったのか…。
「あはは…やっぱりそうだよね…。…半兵衛な訳ないか…。」
本当はもう分かっているのかもしれない。半兵衛はもう帰ってこないってこと。
それでも私は待ち続ける。あなたの帰りを。
この桜の木の下で_____。
【優しい嘘の約束】の続編として書いてみました。
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