main short | ナノ

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「あぁもう!何なのよあいつは!」


彼女は勢いに任せてカクテルグラスをテーブルに叩きつける。
こらこら、乱暴してはいけないよ、と優しく宥めつつもその顔に貼りつけた笑顔は崩さない。

「あんなふうに言わなくても良いのにさ、頭に来たから思いっきりひっぱたいてやったわよ!」

そう言いたいだけ言い切ると、理緒はグラスの中のお酒を一気に煽った。
こんなに飲んで、果たして大丈夫なんだろうか…?……まぁどうせ、帰りは飲み過ぎで足元がおぼつかない彼女を私がおぶっていってやることには間違いなさそうだ。

つい数時間前、なんの前触れもなく理緒から連絡が来たかと思えば、いきなり「ちょっと話があるから付き合って」と言われ、言われた通りに約束のバーに行けばそれからずっと彼女の愚痴を聞かされていた。
なんでも付き合っていた彼氏が急に別れを切り出して、嫌だと否定した理緒を冷たくあしらったそうだ。
彼女お得意のビンタを食らわせたからとりあえず気が済んだとは言っているが、話し始めてからずっと彼の愚痴で持ちきりだったから、理緒にとって相当ショックであったのだろう。

まったく少しは物事を冷静に考えたらどうなんだろうか…そこでビンタなんて食らわせる前にちゃんと引き止めておけば別れずに済んだように思える。そう少々呆れながら彼女を見ていると、またまたグラスの中に並々と入っていたお酒を飲み干す。このお酒、結構アルコールが強いんじゃないかい?と少し控えるように言っても、大丈夫大丈夫、と酔いに任せて次の一杯を煽る。


その後も彼女の勢いは留まることを知らず…席を立つ頃には理緒はおぼつかない足取りで店を出た。


「ふぇー、飲み過ぎた…。……えへへ…なとりさん、おぶって〜…」

「全く君って子は…しょうがないね………よいしょっと…」


アルコールのせいで僅かに火照っている彼女の体温を背中に感じながらしばらく歩いていると、やがてすーすーと寝息を立てて私の背中で眠り始めた。
仕方がないから理緒の家まで彼女を送ってやる。
それでも起きる気配がなかったので、彼女の持っていた鞄の中から鍵を拝借し、そっとドアを開けた。
理緒が一人暮らしだったのが幸いだ。これで親と一緒に住んででもしたら私は確実に怪しまれていただろうね。
中に入ると、…理緒らしい。いたるところに脱ぎっぱなしの服やらゴミやらが散らかっている。それらを踏まないように部屋の電気は消したまま、理緒をベットに下ろしてやった。
少し乱れた髪を梳いてやり、赤く染まった頬を撫でる。

その寝姿はいつものはきはきとした彼女とは違い、まるで天使のようで、思わず理性が崩れそうになるところを食い止めた。
これ以上此処に留まるのは少々危険かもしれない。
そう思ってそっとベットから離れようとした時だった。


「ん〜…なとりさん……行かないでよぅ…」


いつの間に起きていたのか、うっすら開いた瞼はしっかりと私の目を見て、私の手を離そうとしない。


「…今日は…ずっと…一緒に………いて?」


寝ぼけているのか本気で言っているのか。どちらにせよそんな目でお願いされたら断れるわけがないじゃないか。









「まったく理緒は甘えんぼさんだなぁ…。…でも君のお願いなら何でも聞いてあげるよ…。」




エピローグは夢の続きで

(…あれ、なんであたし名取さんと一緒に寝てるの…?)

(覚えてないのかい?昨日は君が……)

(あーー!言わなくていいですよ//)

(ふふ、とっても可愛かったよ。それはそれはもう。)



愛しい程に…ね?