main short | ナノ

14/14






襖を開けると鋭く冷たい風が肌を撫でる。あまりの寒さに一瞬ひるむが、ぐっと堪えて私はたくさんの洗濯物を抱えて外に出た。

昨日降り積もった雪を踏み分けながら物干し竿まで歩いていく。













「…よしっ、こんなもんかな…。」


物干し竿にシワなくほされた洗濯物を見て私は満足する。

空を見上げるともう太陽は真上に昇っていた。さっきよりもほんの少しだけれど暖かくなったような気がする。
風ではたはたとはためく布がなんだか清々しい。


気温は低いままだけど、お日様の温かさで少々眠気が襲ってくる。そういえば昨日は夜遅くまで起きていたっけ。


心地よい温かさで、うっかり立ったまま寝てしまいそう。
さすがにそれはまずいので、頬をペちんと叩いて気合を入れ直したとき、廊下から足音が聞こえてきた。


ドタドタと音を立てて誰かがこちらに走ってくる。


朝早くから騒がしい…。誰?
まぁ、大体誰かなんて予想は付くけれど。


しばらくそこで待っていると、案の定私の予想したとおり、沖田さんが走ってきた。

横の庭の方に私がいるのに気づくと沖田さんはこちらまで歩いてきた。





ふと彼の手元を見てみると、何かを持ってるのが見えた。

何かどこかで見たことあるような…。




「それ、土方さんの歌集の豊玉発句集ですよね?梅の花 一輪咲いてもうめはうめ…ってやつの…。」

「よく知ってるね。理緒ちゃんの言うとおりだよ。」


知っているも何も沖田さんがいつも大声を出して読んでるもんだから覚えるつもりはなくとも覚えてしまった。


「今日もまた盗んできたんですか?」

「やだなぁ、ちょっとしたいたずらだよ。」


また沖田さんは…。毎度毎度溜息を吐きながら頭を抱えている副長の姿を思い出すと思わず笑ってしまった。




「でもこれだけやってると、さすがに土方さんも気づいちゃうみたいでね。さっきまで追いかけられてたんだよ。」




なるほど、だからこんな朝早くから騒がしかったわけだ。

今頃副長は血相かいて彼を捜しているに違いない。




「だからさ、しばらく此処にいさせてね。土方さんに僕のこと聞かれても喋っちゃダメだよ?」

「は、はぁ…。」




理緒が頷くのを見ると、沖田さんはすぐそこにあった茂みの方に隠れた。
うまく隠れているとは思うけど…。

結局は怒られちゃうんじゃないかな?






そんな理緒の予感は的中だった。







「おい総司!そこにいるのは分かってんだ!出てこい!」





遠くから土方さんの怒鳴り声が聞こえてきた。

あんな遠くからよく沖田さんを見つけられたものだ。

彼は超能力でも持っているのだろうか?





対して沖田さんの方は、


「あーあ、土方さんにバレちゃったよ。ほんとしつこいなぁ、まぁ、とりあえず…




     逃げるよっ!」



と呆れ顔の私の腕を沖田さんはいきなり引っ張った。






…これって私、とばっちりのような気がする…。

私まで怒られてしまうんじゃないか…。




しかし、二度あることは三度ある。理緒に降りかかる災難はそれだけではなかった。




「ちょ、ちょっと沖田さん、待って下…わーーーーーー!」



いきなり走ったせいで適当に履いていた草履がもつれ、昨日の雪で滑りやすくなっていたためか、池を囲む岩にすっ転んでしまって…。




…気づいたときにはもう私は池の中だった。




しかもこの池は相当深くて足がつかない!
あぁ、私は此処で溺れて死んでしまうのだろうか…と思ったとき、






「全く…、これで土方さんに見つかったら理緒ちゃんのせいだよ?」






沖田さんの声が耳元で聞こえたと思ったら、いつの間にか私の体は彼に横抱きにされていた。


瞑っていた目をゆっくり開けると、目の前には沖田さん。

私の顔は自分でも分かるくらい赤くなった。





「お、下ろしてくださいっっ!」

「…いいけど、そしたら理緒ちゃん溺れちゃうけどいいの?」

「そっ、それは嫌ですけど…、ちょっと近すぎですっ…」




私がバタバタ暴れるせいで水飛沫がばしゃばしゃ飛び散った。

当然冬なので水の温度は凍えそうなくらい冷たい。

あまりの寒さに思わず身震いをすると、沖田さんは私の体を離すどころか、私を抱いている腕にぎゅっと力を込めた。




「っっ、いきなり何するんですかっっ!」


寒さなんて吹っ飛ぶくらいまた真っ赤になった理緒の顔を見ると、彼は意地悪そうな笑みを浮かべて、


「最近理緒ちゃんと一緒に居られる時間少なかったしさ、たまにはいいでしょ。」


そう言ってさらに腕に込める力を強めた。





…ちょっと恥ずかしいけれど、こうしていると、なんだか温かい。

沖田さんの体温が私に伝わってくる。

先程のまどろみがまた私に襲ってきた。




「大好きだよ…理緒ちゃん…。」





…完全に私の負けだ。

こんな事されたら私が勝てるはずが無いもの。



「…………私も…好きです。」

「誰が?」


こんな時に限って彼は意地悪をしてくる。



「…沖田さんが、ですよ。」



こんな至近距離で言うとやっぱり恥ずかしくて理緒はそっぽを向いた。


「…ずるいですよ…。」

「そうかな?じゃあ、…これは僕からのお返し。」

「…?」


最初何を言っているのか分からなかった理緒を見て沖田さんは悪戯っぽく笑うと、


………理緒の顔をこちらに向けて、その薄紅色の唇にキスをした。



「……っ!」

「ね?これでいいでしょ?」





「やっ、やっぱり沖田さん、ずるいですよっっ!」




理緒は顔をこれ以上無いくらい真っ赤に染めた。

沖田さんはそんな理緒をまだ笑っている。



「服、びしょびしょになっちゃいましたね。」

「何なら僕の部屋で着替えよっか?」

「な、何言ってるんですか!」

「あはは、冗談冗談。でもいつかそういう日が来るでしょ。」

「…//変なこと言わないでください…。」



沖田さんがそんなこというから、私はまた顔が赤くなってしまった。

でもたまには……こんな時間もいいかな…。





なんて思い始めたとき、







































「おい、そこの二人、何やってんだ。」




























いきなり声を掛けられて理緒はっとして振り向く。

す、すっかり忘れてた…!


副長の背後に揺らめくどす黒いオーラに思わず二人は後ずさる。



「さんざん俺を困らしといて、挙句の果てにこんなところでイチャつきやがって…てめぇらいったい俺を…



   何だと思ってるんだーー!!」





「やばっっ、逃げるよ理緒ちゃん!」

「は、はいっ!」


「こら、待ちやがれーーーーーーーーーーーーー!」








結局その後は怒られてしまいました。





あぁ、やっぱり災難だ、私。












はい、ダメですね私(笑


ちなみに`横抱き`はお姫様抱っこのことです。


茶葉様、こんな駄文でもよければもらってくださいね!