main DQ8 | ナノ
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___体が空を切っている気がした。ちょっと部屋のクーラーに当たりすぎて寒いのかな?と思って目を開けると_

「ってうおぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

リアンの体はお空のはるか高いところ。しかも勢い良く視界は地面に近づいて言っている訳でありまして。
お、落ちる!落ちる!
人って高いところから落ちるとき頭から垂直に落下するとか体って潰れるとかなんかどこかで聞いたことあるけど、私も数秒後にはおんなじことになっちゃうの!?
あぁ、お母さんお父さん、ごめんなさい私は先に逝きます…!
頭の中に今までの楽しかった記憶やらが走馬灯のように駆け抜けている間にも、重力に逆らえないまま磁石にひっつくように私の体は地面にどんどん近づいていき__


ドサッ!!


「あだっっ!」


リアンはおかしな声をあげて地面に勢い良く尻餅をついた。いや、とりあえず体が潰れたりしなくてよかったし、体を起こしてところどころ触ったり動かしたりしてもちょっとだけ体が痛むくらいかなー…程度のものだったので、それは良かったのだ…けれど
リアンが落ちた場所はおそらくこれが落ちた時の衝撃を吸収してくれたおかげで助かっただろうもふもふした芝生が生えていたり、そのすぐ横にはさらさら流れる小河が流れていたりして。


「…うん……あの…ここどこですか?」



リアンの一人ツッコミも虚しく言葉は澄み切った空気に溶けていった。


そう、ここに来るまでにあんなことがあったわけだし、景色から見てもなんとなーく分かるのですが、確信がもてません。




そして泣きっ面に蜂といいますか、二度あることは三度あるといいますか、不幸がこうも続くと泣きたくなります。


それもそのはず、ふと顔を上げたその先にいた、中くらいの大きさの鎧の何かしらと目があってしまったのです。向こうの方は目が鎧の兜で隠れて見えなかったけれど、なんというか、微妙な、いけない空気が間に流れたような気がします。…あれは確か攻略本で見た…さまよう鎧…みたいな名前のモンスターだったり魔物だったりするような…。
しかもなんかこっちに近づいて来てませんかね?いや、私なんて食べても美味しくないよ!?

とリアンの必死の説得(別に声には出していないが)もあの魔物には届かず、なんだかどす黒いような殺気を振りまきながらこちらに近づいてきて、私の目の前まで来ると左手に持っていた剣を大きく振り上げた。


あぁ、さっきも言ったけど、お父さんお母さん私はなんて親不孝な人間なんでしょーか。最後にもう一度会いたかったです…とやって来るであろう衝撃に備えて身を構えたその時___







横合いから飛び出たレイピアの一突きが魔物の急所をつく。と同時に銀色の何かが宙に舞った_気がした___。


絶体絶命だった私を救い出してくれたものの正体を確かめるべく後ろを振り向いたリアンは目を大きく見開いた。
赤い騎士団服に銀髪のストレートブロンドの、どこか見覚えのある彼。



__そう、私の眼の前に立っていたのは、見間違えるはずがない。



「く、ククール?」









こんにちは、異世界さん









いやまさかそんなはずはないだろうけれどもしかしたらもしかしなくても…!
私は今置かれた状況にしばし混乱してしまってその場に立ち尽くした。
するとククールがそんな私を不思議に思ったのか、レイピアを腰に付けていた鞘に納めてこちらに近寄ってきた。


「怪我はないかい?お嬢さん?」


そう言いながらさり気なく私の手を取りその甲に軽くキスを落とした。
普通ならびっくりして飛び退いてしまうだろうが、今はそんな事頭に入らないほど私はテンパっていた。

(そう、そうだ、これは夢なんだ!きっともう少ししたら元いた私の部屋に戻れるはず…!)

試しに頬を抓ってみる。しかし頬に痛みがずきりと走っただけで、目の前の現状は変わらない。もっと強くないとダメなのか、と思って思い切りつねったり、挙げ句の果てには叩いてみたりしてみたのだが、やはり結果は変わらなかった。



「……お嬢さん?」

明らかに挙動不審な私の行動にククールは訝しげに私を呼んだ。
あ、いや、ごめんなさいなんでもないんです、と言いつつ私は彼の頭のてっぺんからつま先までをまじまじと見た。
コスプレにしては手が込んでいるし、髪もカツラではなく地毛っぽそうだし…
やっぱり今私の目の前に立っている彼は正真正銘本物のククールなのだろうか。


「…あのですね…ちょっとお聞きしたいのですが…」

「?」

「今あなたが着ている服………その…コスプレ…とかだったりします?」


やはりここは本人に聞くのが一番だろうと思い、私はおずおずと話を切り出してみた。
すると彼は僅かに目を見開き、暫しの沈黙が流れる。
やっぱりこんなこと聞くのはまずかっただろうか…私は心の中で少し反省した。
気まずいなぁ……そう思っていると、ククールがその沈黙を破るようにいきなり笑い出した。


「いきなり何を言い出すかと思えば…そんな訳ねぇだろ?」


言いつつもククールはまだ笑っている。
ああ、私は確実に彼の中で変人と化したであろう。
あまりの彼の笑いように、「もう、そこまで笑わなくたっていいじゃないですか…!」と私が言うと、彼はやっと落ち着きを取り戻したようだ。


「それよりお嬢さん、名前は?」

「えーっと、リアンです。」

「住んでる場所は?」

「正確に言えば無い訳ではないんですが、多分どこを探してもないかと…。」

「親や親戚とかは?」

「多分居ないです。」

「多分って…。記憶が無いのか?」

「いえ、そういう訳じゃ無いんですけど……なんて言ったら良いんでしょうか…、この世界の人間ではないと言いますか…。」


まだ自分の置かれている状況も分からないのに説明なんて出来る筈がない。意味の分からない私の説明に、ククールはまた訝しげにアイスブルーの目を細めた。
決して怪しいものじゃないんです、寧ろ結構可哀想な立場だったりするんです。

けれどリアンの心の訴えも虚しく、二人の間に流れる空気はどことなく冷たい物になっていく。


「説明をいただこうか。」


あー、こういう空気って本当に苦手だ。その上、それが自分に対して向けらたものであるのだから、耐えられるはずがない。

もう頭の可笑しい女だとか思われてもいいから、一から全部説明しよう。


とりあえず最初に、私は自分の部屋でゲームをしていた(と言っても伝わらなかったので本を読んでいた、と言ったのだが。)事と、どこからともなく知らない声が聞こえたらいつの間にか白い空間にいて、そうしたらこの世界に空から落っこちてきたということを事細かに話した。

それから、この世界は私の世界で言う本(ゲーム)の中の物語だ、ということも。


「へぇ…異世界の人間、ねぇ…」

「信じてくれます?」

「まあ、信じるしかないだろうな。リアンの着てる服もここらじゃあまり見かけるようなものじゃないし。」


それは良かった。こんな突拍子も無い話、信じてくれるかどうかも定かではなく、聞く耳すら持ってくれないかもしれないと内心でかなりドキドキしていた心臓もやっと元のリズムで鼓動を打ち始め、冷ややかな空気も僅かになくなった気がする。
よし、とりあえずは一件落着。
しかし、問題はもうひとつある。
これから、私はどこに行けばいいんだろう?もちろん、住んでいたところも私を預かってくれそうな知り合いもいない。元の世界に帰れそうな予感もしない。
どうしましょう、という目でククールを見ると、なんとなくそれは伝わったようである。

「まあ、付いて来いよ。」

ククールはくるりと踵を返すと、私の左側を親指でくいと指した。
その先にあるのは、ゆるやかな流れの小河に囲まれて建っている一つの建物。
どこか住む場所でも見つけてくれるのだろうか、考えているうちにククールが歩きはじめたので、その後ろ姿を見失わないように早足でついていった。



それから魔物の襲撃もなく、しばらく歩を進めていると、目の前に大きな橋が見えてきた。扉の手前で建っているザビエルヘアーの修道士さんに軽く会釈をして、大きな扉をくぐると、見えるのは赤い絨毯とその先に静かな眼差しを湛えた女神像。
ここはおそらく、修道院とか教会の類のものなのだろう。その前には立膝で熱心に祈りを捧げている人々がちらほらと目に入った。

そして更にその部屋の奥まったところにあるドアを開くと、そこは吹き抜けのような作りになっていて、向こう側の扉には色こそ正反対だがククールと似たような服を着た男の人が二人。
その男の人達はククールを見ると、なぜか一瞬顔を顰めたが、何も言わずに道を開けてくれた。

「ねぇ、どうしてさっきの人たち嫌そうな顔してたの?見ず知らずの私が入ってきたからかな…?」

「それも半分あるだろうけど…ま、大人の事情ってもんよ。」

「ふーん…」

隠されると聞きたくなるものだが、なんとなくククールの背中が、追求するな、といっているようで、それ以上は聞かなかった。半分とはいえ私のせいで彼があんなふうな視線を投げかけられる原因を作ったことに対して少し罪悪感を覚える。
あとでちゃんとお礼を言おう。まぁ、自分の居場所が見つかったら、の話だけれど。


そうこうしている間にも歩は止まらず、やがて先ほどククールが指さした、離れ子島に建った建物に到着した。ギィィ、と鈍い音を立てながら扉が開き、僅かにらせん状になっている階段を登って行くと、そこには大きな書物に読みふけっているご老人がいた。紫の法衣を纏い、まっしろしろな顎髭を床に付きそうなくらいまで伸ばしている、どこか不思議な雰囲気をまとった人だった。


「…おや…、ククールか。……そちらのお嬢さんは誰かの?」

「いきなりで申し訳ないな、院長。ちょっと訳ありでな。ここに置いてやってもいいか?」

「おぉ、構わんよ。どれ、では部屋まで案内しようかの。…わしはここの院長をやっているオディロじゃ。お嬢さん、名前は?」

「リアンです。お世話になります。」


リアンがぺこりと頭を下げると、これでまた一人家族が増えるのぉ、と笑いながら本をぱたん、と閉じてから席をたち、傍らに置いてあった杖をつきながら部屋を出た。私はその背中を見送りながら何かこう、温かいものを微かに感じた_気がした。


「オディロ院長、とっても優しい人なんだね。」

「あぁ。俺もいつも世話になってる。この修道院の中で、一番信用できる人だからな。」

「そっか、確かに、そういう雰囲気してる。」

「そういう雰囲気って……ほら、早くしないと院長見失うぞ?」

「あ、そうだ!…待って〜オディロ院長!」


リアンが急いで院長の部屋を出ると、オディロ院長はちょうど部屋の手前にある建物の中に入ろうとしている所だ。私は小走りでその後をついていく。途中、騎士団の数人が私を見て何か言いたげにこちらを見ていたけれど、その前に院長が歩いているとなると、きっと何か訳ありなんだろうと察しているのか、私に対して何かを言葉を投げかける者はさすがにいなかった。なんだか居た堪れない視線を浴びながら階段を登り、着いたのは端から二番目の部屋だった。


「今日からそなたの住まいはここじゃ。…なに、ここに来た理由なんぞ聞かんでも分かる。そなたはこの世界のものではないのじゃろう?」

「え…!なんで分かったんですか!?」


私とオディロ院長はつい先程初めてあったばかりだ。ククールが言った、ということもあるかもしれないけれど、私はさっきまでずっとククールといたわけだし、彼が私のことを話す素振りも特になかった。
うーん…、もしかしたら騎士団にしか分からない信号があったりとか、それともオディロ院長がミスターマ◯ックの末裔とか?
いやいやいや、それはさすがに考えが飛びすぎだろう。


「ほっほっほ、まぁ、神のお告げ、とでも言っておくのが良いかな?そなたからはこの世界からは感じられない雰囲気があるからの。
…それはさておき…これも何かの縁じゃ。ククールとよろしくやってくれないかね、リアン。あやつはあまり人と関わりを持たないからのぅ…まぁ、あやつの事情も事情なのじゃが…」

「ククールの事情?」


私の事情もまぁ、あまり人に話せるようなものではないが、彼の事情、なんてものあるのだろうか、毎日をエンジョイして生きているようにも見えなくないけど…
そういえば彼の服装は先程オディロ院長の部屋に行くときも、この部屋まで案内させてもらう時もそうだったのだが、周りの騎士団の人たちは青をベースとした騎士団服なのに、彼の騎士団服は正反対の真っ赤に染まっている。
そこら辺も何か事情があるのだろうか、それも一緒に聞いてみようかと口を開いた時__


「院長?…長話はそこら辺にしとこうぜ?まだリアンに言うこと残ってんだろ?」

「おお、そうじゃったな、…リアン、そなたに挨拶に行って欲しい人が一人おるのじゃ。……ちーとばかし気難しい奴なん
じゃが…、行ってくれるかの?」










長らくおまたせしました。第四話終了です。
果たしてオディロ院長の言っていた挨拶に行って欲しい人、とは!?
って、もうきっと皆様お分かりですよね。
見た目の通りのM様さまさまですw
うちの院長はちょっとおじーちゃんって感じです。
ゲームでの登場回数が少ないだけに、結構キャラがつかみにくいです。