main DQ8 | ナノ
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_建物の中は、案外簡素な作りになっていた。薄い藍色を基調として、中央にはぽつんと小さな噴水があり、どこか幻想的な風景を醸し出していた。その部屋の中に一人、青くて長い髪をした男性がじっと外の景色を眺めながら佇んでいた。


私以外の皆は、前にも此処に来たことがあって、その時その男性はエイトたちの願いを叶えるべく、王妃をなくし、悲しみに暮れていた一国の王様に、お城の「記憶」から幻影として王妃様を喚び出してあげたという。

…それなら無くしてしまった私の記憶も呼び覚ますことができるかもしれない、なんていう淡い期待を胸に抱いていると、こちらに気づいた青い髪の男性がこちらに近づいてきた。




「数多の月夜を数えたが、これ程時の流れを遅く感じたことはなかった。…おや、…新しい顔も見受けられますが…。私はイシュマウリ。この月の世界でたった一人生き続ける者。あなたも相当つらい思いをしてきたようですね…。」


「わ、私のことが分かるんですか!?」



会っていきなりの収穫にリアンは思わず身を乗り出す__が、ここはがまんがまん。先にエイトたちの目的である、「船」を蘇らせてもらわなければ。

(仲間に加えてもらっただけでも十分ありがたいのに、ここで私がわがままを言っちゃいけないね。)

逸る気持ちを抑えつつ、「私のことは後ででも全然いいから。」とエイト達を一目見て、一歩後ろに下がる。



「さて…それでは本題に入りますが……あなた達のその輝く顔でわかる。見事月影のハープを見つけてきた。……そうだろう?さあ、見せておくれ。海の記憶を呼び起こすにふさわしい大いなる楽器を。」


イシュマウリさんがそう言うと、いきなりエイトの道具袋の中からキラキラ光を帯びながらハープが出てきて、光をまき散らしながら綺麗な曲線を描き、それは見事にイシュマウリさんの手元に収まった。


「さぁ、荒れ野の船のもとへ。まどろむ船を起こし、旅立たせるため歌を奏でよう。」


直後ポロン、とハープの音がしたと思ったら、私たちはいつの間にか緑のない荒れ果てた野に立っていた。辺りは夜のせいなのかひっそりと静まっており、ときおり冷たい風がひゅうっと吹き抜ける。そして目の前には私の身の丈の何倍、いや何十倍とも言えるだろう船が一隻、これまた荒れ果てた様子でそこに在った。
着いてまもなくイシュマウリさんは船に近づき、何やらひとりごとを言っていると、その後ろからオレンジの服を着た緑の魔物が……






ん?ちょっと待てよ、今私魔物って言ったよね…?




いや口には出してないけどあれはどう見ても…




「ぎゃーーーーーーー!まものーーーーーーーーーーーー!」











Memory of Ocean









イシュマウリの一言で視界が遮られたと思うと、目の前に広がったのは一昨日程だろうか__まだリアンと出会う前に見た景色が広がった。
荒野に佇む一隻の船。
いつ見てもそれはその大きさ故に壮大さを感じさせるが、夜だからだろうか、どこか寂しさをも思わせた。

辺りを見回せば、先程までは俺達と一緒に行動していなかった、トロデとミーティアも一緒だ。





と、ここでククールは一瞬考えた。
トロデとミーティアは、月の世界に行く少し前の時に違う場所で待機してたハズだ。
つまり二人はまだリアンのことを知らないし、リアンもまた、二人とは初対面。

トロデ王とミーティア姫なら、リアンの事を見てもさほど驚きはしないだろうが、リアンの方は、相当に驚く、いやビビるのではないだろうか。
なんせ、トロデ王があんなナリだから…





「ぎゃーーーーーーー!まものーーーーーーーーーーーー!」





ほらな、やっぱり。


大体見えてた結果だったが、こうも大げさに驚かれてしまうとトロデのことが少し不憫に思えてしまうのは気のせいだろうか。

皆がびっくりしてリアンの方を振り向くも見るからにパニック状態に陥った彼女は、トロデにくるりと背を向け、猛ダッシュで逃げていく_が、俺がリアンの服の首の部分を掴んで引き上げると、彼女は案外あっさりと捕まり、それでもなお手足をばたつかせている。







「え、え!?何で皆そんなに冷静なの!?それとも私しか見えてないとか!?いやそれもありえなくはないだろうけどなんだかよくわかんないけど皆気づいてーーー!!!」






「コラーーーーー!おぬしはわしを何だと思っとるのじゃ!わしはこう見えても一国の王じゃぞ!というかお主こそいったいなにものじゃ!」」






「わーーーーーー!喋った!緑の魔物さんが喋ったよ!しかも王様って、おうさまって!」







「「「リアン落ち着けーーー」」」




リアンがパニックに陥ったそもそもの原因のトロデに面と向かって怒られて更にぱにっく状態に陥ったリアンはエイト、ゼシカ、ヤンガス、の三人の叫び声ではっ、目覚めたように顔を上げ、やっと落ち着きを取り戻した。

俺が掴んでいた手を離すと、トロデとミーティアを穴が空きそうなほどガン見した後、「説明をください」と言わんばかりに俺たちに視線をやった。その視線にヤンガスが答える。



「アッシもよく分からないんでげすが…あの緑の魔物とその隣の馬姫さんは訳あって姿を変えられているだけで、本当は人間…らしい…でがす。」


「む、ちょっと待て、人間らしい、とは何じゃーー!それにワシは緑の魔物ではなくトロデじゃ!ト・ロ・デ!…おのれ皆してワシを馬鹿にしよって…」



ヤンガスの説明が更に傷をえぐったらしく、トロデは隅っこでいじけてしまった。



「今いじけてるのが、王様…のトロデで、あっちにいる馬姫さんがミーティア姫よ。」

「そ、そうなのか〜…。ご、ごめんねトロデ王、見た目じゃ魔物さんにしか見えなかったから…」

「おーい、リアン、それ爆弾発言だぞー。」


俺のツッコミも虚しく、トロデは更に首を項垂れて、ついにはべそを掻き始めてしまった。




「え?私今なんかそんな傷つけるようなこと言っちゃったかな?え?」




「どうしよう〜」と天然発言連発のリアンは慌てふためきながら暫時考えに耽り、彼女なりに思いついたのが隅でいじけてしまっているトロデの元に歩み寄り、その肩にそっと手をおいてあげるというなんとも微妙な策は、俺を含め、エイト達に爆笑を誘った。




「あははっっっ、リアン、君もうなんにもしないほうがいいよ……ぷっ」

「トロデのオッサンが虚しく見えるでがす…、あーーはっはっは!」

「ぶっくく…リアンったら天然なのかアホなのかわからないわ…。」

「いや、アホなんだろ…くっくっく…」





これだけ笑われてもなお「え、皆どうしてそんなに笑ってるの?面白いことでもあった?」などと未だにべそをかいているトロデを傍目に首をかしげてるもんだから、相当の天然である。

もう笑うわいじけるわで静寂で包まれていたはずの荒れ野は大騒ぎ。











「あのーー…、あなた達は一体此処へ何をしに来たのですか…」











というイシュマウリさんのわずかに怒りのこもった一声で呟くと、皆はハッと思い出したように何食わぬ顔で「船を蘇らせるためです(でがす)!」と答える。
なんでもありませんよー、何ににも笑ってませんよー、寧ろあなたが幻覚でも見てたんじゃないですかーと言わんばかりの視線にイシュマウリさんの頬がぴくっ☆と動いたのを見逃すものはいなかった。















イシュマウリさんがひとたびハープを弾けば、美しい旋律が紡ぎ出され、そのメロディーに合わせて乾いた土から水が溢れ出す。

その水はとどまることを知らずどんどん溜まっていき、ついには私達の背丈を超える程の高さになった。これじゃあ服が濡れてしまうのではないか、と一瞬心配になったが、不思議と服は濡れることがなく、一応水中と言えば水中なのだが、息苦しくなることもなかった。


やがてそれが船を浮かせると、イシュマウリは再びハープをポロン、と鳴らすと、今私達がいる地上から船の甲板までの半透明な階段が連なる。
その階段は透き通るように美しく、月の光を受けて淡く輝いていた。


その階段にまず足を乗せたのはゼシカ。見るからに儚く壊れそうな見た目に反して、意外としっかりしているのか、壊れること無く彼女を乗せた。
そしてその後に、ヤンガス、エイト、トロデ王にミーティア姫まで続いて船の上まで上がっていく。


けれど、

(うわー、どうしよう…私重いからなー…これでもし私が乗ってこの階段が壊れてでもしたら確実にこの空気を壊してしまうではないかっ!)

なんて確実にリアンより重いヤンガスやらが登っているというのにまだ勇気が無くて、おっかなびっくりつま先をつけたり離したり…
なんてことを繰り返していたら、



「そんなに怖いのか?くすくす…ほら、お手をお貸しくださいませ、リアンお嬢様?」

「わわっ、ククール!?」


いつの間にか私の前にククールが立っていて、返事も聞かずに私の手を取り、その甲に軽くキスを落とす。
いきなりの彼の行動にどう反応したら良いかわからず、リアンは自分でもわかるぐらいに顔を真っ赤にさせた。



「くすくす…顔、真っ赤だぜ?ほら、行きますよお嬢様。」

「ほぇ?あ!う、うん…」



まともな返答もままならないまま、ククールにつられるように階段を登っていく。もちろん、手は先程から握られたままだ。
恥ずかしいやらなんとも言えない微妙な感情で私の頭はいっぱいいっぱいで、先の心配はもうすでに遠く彼方にふっとんでいた。





それから数分、私達全員が甲板にたどり着くと、程なくして水がどんどん引いていき、ついに私たちは大海原への一歩を踏み出した。
夜明けももうすぐである。



ここでイシュマウリさんともお別れか…、そう思いかけた時、リアンははっと思い出した。
さっきまでの夢みたいな体験と、潮風のあまりの気持ちよさに忘れかけていたが、私にはもうひとつイシュマウリさんに聞かなければならないことがあったんだ…!




「あの、イシュマウリさん!お聞きしたいことがあるのですが!!」





















おかしな所で止めちゃってすいません(汗
今回は少々ギャグテイストです。でもまぁ、誰だってあれを見てしまったら驚くしかないでしょうw、はい。
前半はリアンちゃん視点、中盤はククール視点、後半はまたまたリアンちゃん視点だったのですが、読みづらかったらゴメンナサイm(__)m
ここの船を蘇らせるシーンは私の中でもベスト3に入るくらい大好きなシーンだったので、ついつい入れちゃいました←
イシュマウリさんが出てくるイベントってパヴァン王の一件共々なんとも言えないはかなさがにじみ出てますよね!それに加えてあのBGMはたまらん!
さすが杉山’s ミュージック。
(2012.7.1)