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‖短剣


あなたは
泣かないでと言った


空を見上げると
それは真暗闇で

壊れた櫛を握り締めると
それはざわめつく



あなたは
何処に居るのだろうと
周りを見渡すわたくしは無力で
ただ虚しく
さらさらと風が容赦なく音を立てる


あの日
あなたは変わらぬ瞳で
泣かないでと言って
優しく
でもどこか
力強く
ぼろぼろになったわたくしの体を
腕に包み込んでくれた


わたくしは
わたくしに
嘘を付いて

全てを無に
生きてきた


そんなわたくしを
見つめる瞳は
嘘を嘘だと
教えてくれた


温かいまなざし


愛しいと想った
本当にあなただけを愛していたいと想った


さらさらと音が鳴る
ざわざわと胸が泣く


涙が
容赦なく
わたくしの頬を濡らす


幸を願った罰
全てを捨て
あなただけを愛そうとした罰
勾玉の光を失わせた罰


わたくしは
胸に忍ばせていた短剣をそっと握り締めた



ねえ
あなたは知っていますか?

全ての生き物は
ひとりで生きてはいけない生き物だと言うことを…



どくんと鼓動が音を立てる



短剣を
握り締め



瞳を閉じた



あなたの面影を
想いながら…





†明姫†




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