小説 | ナノ




‖伊津母

「はあ」
あまりの寒さにわたくしは自分の手に息をかける

今目の前に映る景色は
あまりにも綺麗過ぎで
瞬きするのをいくらか忘れそうになる
「どうした
寒いのか?」
背後からわたくしの手を包んできた
「菅流」
「あれ、珍しいね
いつもならおれの頬を叩くのに」
「…」



未だに自分の気持ちを伝えきれないでいる

たった一言
それなのに…



「…遠子達の頭上にもこの雪が降っているのかもしれない
元気だろうか」

「…来年の春には子どもが産まれるそうよ」
「そうか…
おれ達より早い」
彼は頬を膨らませながら言う
その表情があまりにも滑稽で吹き出してしまった

「象子…
おれの嫁さんにならないか?」



突拍子も無く彼は言った
「え…」
「おれは、あの時から何も変わっちゃいないよ
ずっと君を思い続けている
今でもずっと…」
彼の体温は何処か温かく
雪さえも解けてしまいそうだ



「…わたくしは巫女になります」
「やっぱり…か」
彼は何処か残念そうに言う…
わたくしは彼の胸に頭を預けて続けた
「…あなたの巫女になります」

やっとの想いで
心の中に引っかかっていた言葉を吐いた

「本当かい?」
彼はわたくしの身体をより一層強く抱きしめる
「二年も待った甲斐があったよ
おれに落とせない女性はいない
村の皆に自慢できるよ」
彼の嬉しそうな言葉にわたくしの心も満たされてゆく…
「早速遠子達にも連絡を入れよう
そして雪が溶けたら報告しに行こう」



†菅流と象子†




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