小説 | ナノ




‖柵

「お前はこれからこの剣の主だ
外の世界を見てはいけない
他人の声も聞いてはいけない
何も望むな
何も考えるな
この剣だけを護っていろ」

そうやって姉上は
わたしを
暗い
広い
闇の中に閉じ込めた。
両腕と
両足には
真っ赤な紐を括り付け
わたしの身体の自由を奪いとった…



何故巫女の衣を着,
何故ここに閉じ込めるのか
…理解出来なかった。



むしろ理解などしようとしなかった…。



何も見てはいけない
何も聞いてはいけない
何も考えてはいけない


その意味さえ分からなかった。



「あたしがあなたの柵を解いてあげる
その両腕で大切な何かを掴み
その両足で大切な何かを探すの。

その目で
その耳で
沢山のことを学ばなければいけない
それが生きると言う事。
大丈夫,あたしが側に居る。
あたしがあなたの側に居るわ」



あの日
君はわたしにそう言ってくれた。

「あたしと一緒に行こう
あの青い空の下へ…」



わたしの手を握るその手は優しくて


今まで感じた事の無い感情が
ゆっくり
心の中を駆け巡った…



狭也の側にいたい
狭也と共に色々な事を学びたい



―そう想っていた。



さらっ…

冷たい風がわたしの頬を優しく撫でる

目の前に横たわる狭也の姿…



ぽたっ

姉上が握りしめるその短剣からは一筋の赤い滴が流れ落ちる



「…狭也」



ぽたた…



あの日
わたしの手を握りしめたその手は氷の様に冷たく
もう涙が
枯れ果てていた…。

どくん…

(あたしがあなたの柵を解いてあげる
だってあなたは1人の人間よ
その縛られた手で何かを掴み
その縛られた足で何かを探すもの…
そうして生きていくのよ。
あたし達人間は)



どくん…



(だから一緒に探しに行こう
あたしがあなたの側に居るから
だから何も怖い事無いわ)



どくん…



(一緒に行こう
この青い空の下を
歩いて行こう)



わたしは狭也の冷たくなった身体を強く強く抱きしめる。



(稚羽矢)



そしてゆっくりと姉上の顔を見つめる



(稚羽矢)



初めて姉上が憎いと想った。
初めて人を殺めたいと想った。



「…何だその目は」



(稚羽矢)



失って初めて分かった
わたしには狭也が必要なのだと…



わたしの柵を解いてくれた狭也…

わたしに自由と言うものを教えてくれた1人の女性



「…姉上は可哀想な人だ
人を想う気持ちも
この青い空の下を歩いていこうと言う気持ちも知らない
…可哀想な人だ」



「お前…何を」



「わたしは剣の巫女にならなくても良い
わたしは1人の人間として
狭也と一緒に生きていく…
わたしはもう柵に縛られる人形では無い」



冷たい風がより一層強みを帯びて
わたしの頬を刃の様に貫いていく…



「わたしはあなたを殺さない
…そしてあなたを許さない」



わたしは狭也を抱えて鳥彦達が居る所までゆっくりと歩いた



狭也を救う為に…
狭也と一緒に生きていく為に…




†稚羽矢†


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