出逢い

今日の空は雲一つなく、心地良い天気だった。
僕、不二周助はバスに乗っていた。
テニスラケットの入っている大きなラケットバッグを持ち、ジャージ姿だ。
一人掛けの席から外を眺めている。
ジャージにはSEIGAKU≠フ刺繍が入っている。
見ての通り、僕はSEIGAKUこと青春学園高等学校の生徒。
今日は試合があって、今はその帰りだった。
2年生での最後の試合だった。
次に試合をする時は、青学テニス部の3年生だ。
3年生でもレギュラーになれたらいいな。
試合の帰りだけど、疲れはなかった。
勿論、試合は圧勝。
試合に物足りなさを感じたから、学校に戻って壁打ちをしようと思っていた。

バスが停留所に止まった。
僕が降りるのは次の駅だ。
すると、一人の女の子がバスに乗り込んできた。
生憎、バスは満員でとても窮屈だ。
女の子は小さな鞄を肩に掛けたまま、僕より少し離れた処で何とか手すりに掴まった。
そこで、僕はある事に気付いた。
女の子は白く長細い杖を持っている。
それに手すりを探す時、まるで手探りのようだった。
僕は席を立ち、人を避けながら女の子の傍まで近寄った。
女の子の肩を優しくトントンと叩いた。

『え…?』

女の子は少し驚いた様子で、此方に顔を向けた。
やっぱり、その目は僕を見ていない。

「此処から先の道はかなり揺れるよ。

僕に掴まって。」

『で、でも…。』

「いいから。」

僕は申し訳なさそうに動揺している女の子を軽く自分に引き寄せた。
勿論、下心なんてない。
高校生になっても、僕には恋愛の経験はなかった。
テニスに集中していたからだ。

「満員のバスに独りで乗るのは危ないよ。」

女の子は大人しくしていた。
僕は手すりに掴まり、女の子をしっかりと支えた。
言うまでもなく、その子は盲目だった。





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