出逢い-2
満員のバスは独りじゃ危ない。
そんな事を言ったのは、この子だからこそかもしれない。
女の子の顔を少しだけ窺った。
凄く可愛い。
滅多にいない、清楚で愛らしい美少女だ。
透明感のある白い肌は、少しだけ赤く染まっている。
艶のある髪は、触れてみたいと思わせるくらいだ。
僕より歳下に見えた。
これじゃあ満員のバスはもっと危ないと思う。
そんな事を思っていると、バスが突然大きく揺れた。
『きゃあ…!』
「危ない…っ!」
咄嗟に、女の子を抱き締めるように支えた。
女の子も不意の出来事で僕に抱き着いてきた。
『…っ。』
「大丈夫かい?」
『あ…!
す、すみません…!』
「いいんだよ。」
抱き着いている事に気付いた女の子は、僕の背に回していた腕を慌てて解いた。
僕も女の子の背に回した腕を解いて、片手を軽く女の子の肩に回して支えた。
僕を怪しいと思わなくなったのか、女の子は僕のジャージをしっかりと掴んでいる。
『あの…。』
「ん?」
女の子が話しかけてきたから、僕は少し驚いた。
女の子は控えめに訊ねた。
「青学の方ですか?」
「そうだけど、如何して分かったんだい?」
ジャージの柄が見える筈ないのに。
如何して分かったんだろう。
『刺繍。』
「ああ、これかい。」
胸元のSEIGAKU≠ニいう刺繍。
女の子の手は自然とそれに触れていたみたいだ。
『テニスをしてらっしゃるんですか?』
「うん、そうだよ。
でも、如何してテニスって分か――」
「次は、青春学園前ー、青春学園前ー。」
僕の台詞を遮り、バスの運転手の声がバスの中に響いた。
聞き損ねてしまった。
『私、次なんです。』
「僕もだよ。
一緒に降りようか。」
『はい。』
停留所に着くと、僕は女の子の手を取って一緒にバスから降りた。
すぐ近くに青学が見える。
僕と女の子は向かい合った。
『ありがとうございました。』
女の子は律儀に頭を下げた。
一つ一つの動作がとても可愛い。
普段からコートの外で煩いギャラリーのせいで、僕は女子に耐性がある。
そんな僕でも、この子には頬が緩んだ。
「あまり独りで乗っちゃ駄目だよ。」
『はい、今日は本当にありがとうございました。』
女の子は微笑むと、杖で道を確認しながら歩いていった。
僕は女の子が見えなくなるまで見送った。
これが、僕たちの出逢い。
2008.7.31
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