告白

翌日、僕は朝練に出掛ける為に早起きした。
リビングに顔を出しても、愛はいなかった。
既に家を出たみたいだ。
朝早く学校へ行って、手塚とコートで打ち合っているんだろう。
僕は朝食を済ませると、もう遅刻しないようにと早々に出掛けた。
レギュラーの僕が遅刻と途中抜けを何度もしてしまっている。
朝早く、人が通っていない道をどんどん進んだ。
学校に到着して更衣室へ向かう途中に腕時計を見ると、時間にはまだ余裕があった。
僕は安心して悠々と歩き始めた。

その時、僕は見つけてしまった。
恋い焦がれる君の姿を――

君はスクールバッグとバイオリンケースを持って独りで歩いていた。
桃は朝練だけど、華代ちゃんが学校に来るにしては早過ぎる。
華代ちゃんが向かっているのは、テニスコートの方角じゃなかった。
一体何処へ行くんだろう。
僕は一定の距離を取りながら、君の後を追った。
君はゆっくりと歩いて、体育館裏に到着すると鞄を置いた。
此処は初めて君の演奏を聴いた場所だった。
芝生で開けたこの場所は体育館裏のイメージとは裏腹に、朝日が差す場所だった。
君はバイオリンをケースから出し、慣れたように構えた。
此処で僕ははっと我に返った。
華代ちゃんの演奏に聴き浸ったら、時間が危うい。
そう思って背を向けようとした時、僕は肩にかけていたラケットバッグを豪快に落としてしまった。
ドサッと鈍い音が響いた。
華代ちゃんは驚いて僕の方を向いた。

しまった…。
僕はなんて馬鹿なんだろう。

後悔の念が怒涛の如く襲ってくる。
華代ちゃんは此方を向き、バイオリンを下ろしていた。

「……ごめん。」

反射的に謝ったけど、声に出したのを後悔した。
何も言わずに走り去れば、僕だと特定されなかったのに。
後悔しても、遅い。

『不二先輩?』

「そうだよ。」

僕はバッグを肩にかけ直した。
その間に華代ちゃんは再びバイオリンを構え、奏で始めた。
あの曲だった。
そう、チャルダッシュだ。





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