言い争い

ハンバーガーショップから帰宅すると、時計はもう夜の10時を知らせていた。
今日も色々とあったせいか、一日がとても長く感じた。
そんな一日を回想しながら、何時ものようにリビングと廊下を通って部屋まで歩いた。
すると、妹の愛が廊下に現れた。
お風呂上がりだからか、愛の髪は濡れていて、バスタオルを肩に掛けていた。
此処を通るという事は、リビングに行くつもりなんだろう。
愛は僕を見ても表情一つ変えない。
ただ此方に向かって歩いてくる。
すれ違う時、愛は小声で「おかえり」と言ってくれた。
ここ数日は、こういった必要最低限の会話しかしない。
愛はまだ怒っているんだ。

「愛。」

僕は愛の肩を掴んだ。
愛は迷惑そうに、でも少し驚いた様子で僕に振り向いた。

「愛は如何思っているんだい?」

「…何を?」

「華代ちゃんの手術の事。」

僕は真剣に言った。
愛は唇を噛んだ。

「あたしは手術して欲しくない。」

愛は此方を見ずに、囁くように言った。
愛は続けて言った。

「もし失敗したら、華代はますます暗くなっちゃう。」

「治る可能性は零じゃないんだ。」

「お兄ちゃんは分かってないよ!」

愛は僕を強く睨んだ。
僕は怯みそうになったけど、負けじと愛の力強い目を見た。

「あたしはもう10年近く華代と一緒にいる。

だから分かるの。

お兄ちゃんなんかより、ずっとずっと華代の事を分かってるの。

今でも十分華代は苦しんでる。

これ以上華代に首を突っ込まないで!」

「このままじゃ華代ちゃんは暗闇から抜け出せないんだ!」

「…っ!」

愛は渾身の力を込めて僕を睨み、僕の腕を振り払った。
その勢いがあまりにも強かったから、僕はバランスを崩しそうになった。
普段は天真爛漫でにこやかな愛が、威圧的に叫んだ。

「何を訳の分からない事言ってるの!?

手術に失敗して光が分からなくなる事が華代の暗闇なんだよ!?

お兄ちゃんの言ってる事が全然分からないよ!」

愛は僕を振り切り、自室に入ってドアを乱暴に閉めた。
僕は唇を強く結んだ。
それなのに、これ程まで愛に強く言われても、意思が変わらない自分がいた。



2008.9.21




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