共に

ポケモン爺さんから預かったあの石ころが、まさかメガストーンだったとは思わなかった。
メガストーンは虹色の光を放ち、ラティオスをメガラティオスへとメガ進化させた。
気付けば、ラティオスナイトはラティオスに吸収されたかのように姿を消していた。

「…マジかよ…。」

シルバーはぽかんと口を開けている自分のポケモンたちを代弁して呟いた。
メガ進化したラティオスはサイコキネシスでドリュウズとハンターをバイクごと吹き飛ばした。
そして治療されたばかりなのが嘘のように素早く飛行し、シルバーとオーダイルの脚元を潜って背に乗せた。
これ以上は定員オーバーだ。
ラティオスの背で上手くバランスを取ったシルバーは、取り残されそうになるマニューラたちに咄嗟に叫んだ。

「来い!」

シルバーの声でマニューラが慌ててクロバットに飛び乗った。
ゲンガーはメガ進化を解いて浮遊し、クロバットの後に続いた。
シルバーはリュックの外ポケットから煙玉を三つ取り出し、地面に投じた。
軽い爆発音と共に煙が大量発生し、敵の視界を遮った。
煙が消えた時には、その場に青年もそのポケモンたちも、ラティオスもいなかった。

「畜生、逃がしたか!!」

ハンターたちの悲痛な叫びが残った。
追い詰めた幻のポケモンを、目の前で捕獲し損ねてしまった。
一生後悔するだろう。



上手く逃亡したラティオスは森の中にある低い崖まで移動し、其処でシルバーとオーダイルを降ろした。
マニューラの乗ったクロバットが続き、更に遅れてゲンガーが続いた。
ゲンガーはひーひーと息を切らし、研究所へ帰ったら素早く長距離移動する練習をしようと心に決めた。
ラティオスがシルバーと向き合うと、ラティオスのメガ進化は自然と解けた。
すると何処からともなくラティオスナイトが現れ、シルバーの掌に落ちた。
シルバーが掌に乗るメガストーンを見つめていると、マニューラがクロバットに乗ったまま陽気に言った。

“メガ進化するなんて、びっくりした!”

ラティオスがメガ進化する事すら世俗的に知られていないだろう。
ラティオス自身も驚いているのだ。
目の前にいる青年と見つめ合い、お互いに黙り込んでいた。
先程のメガ進化はお互いの絆の力というより、ラティオスが持つシルバーへの強い気持ちが導き出したのだろう。

“助かってよかった…。”

ぼそっと呟いたオーダイルは冷や汗を拭った。
ラティオスの飛行速度は中々のもので、しかもかなりの高度だった。
シルバーはボーマンダで空の旅に慣れているが、オーダイルはそうではないのだ。
飛行中は真下にある木々が小さく見えて、血の気が引いた。
すると、シルバーがやっと口を開いた。

「これはお前が持っていろ。」

シルバーはラティオスにメガストーンを渡した。

「俺が持っていても仕方がない。」

ポケモン爺さんには今日の出来事を正直に全て話し、謝罪しよう。
ラティオスナイトはラティオス自身が持っているべきだと思った。

「行けよ。」

シルバーはポケットに手を突っ込み、何時までも見つめてくるラティオスに言った。
だがラティオスは目の奥を揺らし、首を横に振った。
シルバーが訳の分からないといった表情で眉を寄せた時、オーダイルたちが一気に表情を明るくした。
クロバットがはばたきながら逸早く言った。

“俺たちの仲間になりたいの?”

ラティオスはしっかりと二度頷いた。
シルバーはクロバットを見るが、未だに理解出来ていない様子でいる。
だがラティオスがシルバーに近寄って頭を下げ、かしずこうとした。
やっと状況を理解したシルバーは静かに言った。

「俺とは来ない方がいい。」

ラティオスは哀しげに顔を上げ、真っ直ぐにシルバーを見つめた。

「俺といると危険だ。」

シルバーはラティオスの視線に耐えかね、背を向けた。
だがラティオスが素早くシルバーの目の前へと移動し、再び頭を下げた。

「俺は闇組織、ロケット団のボスの息子だ。

やめておけ。」

サカキから逃亡し、縁を切ろうとしている事は敢えて話さなかった。
ラティオスは目を見開き、依然として口を開かない。
オーダイルたちはシルバーの台詞を聴き、歓迎ムードをグッと堪えた。
今後にもロケット団との関わりがあると予知夢が知らせている中、幻のポケモンであるラティオスがシルバーの手持ちになるのは危険を侵す覚悟がいる。
珍しいポケモンとなれば、ロケット団が欲しがらない訳がないのだ。

「来ない方がいい。」

シルバーはラティオスの脇を通り過ぎようとしたが、ラティオスはシルバーの行き道を塞いだ。
一方のゲンガーは嘗て自分もシルバーのポケモンになりたいと強く希望したのを思い出していた。
シルバーの人間性に惹かれ、共に行きたかった。
たとえそれがシルバーの境遇や小夜の事情を知ったとしても、だ。
ゲンガーがシルバーの腕の裾を引き、ラティオスを迎えるよう懇願した。

「駄目だ。」

シルバーは頑なに拒み、もう一度ラティオスの脇を通り過ぎようとした。
だがラティオスはまたしてもシルバーの前を塞いだ。
シルバーは目を細め、眉を寄せた。
真っ直ぐに向けられるラティオスの目から覚悟を感じる。
それでも、やはり危険だ。
シルバーは腰のモンスターボールを手に取り、その動作にはっとした四匹のポケモンたちを戻した。
そして替わってネンドールを放った。
会話をずっと聴いていたネンドールは、相変わらずの無表情で浮遊した。

「ネンドール、研究所へ帰る。

テレポートを頼む。」

ラティオスは目を見開き、小刻みに首を横に振ってから頭を下げた。
先程まで人間を拒絶していたポケモンが、一人の人間を信じて共に歩もうとしている。
その気持ちに応えられずに心苦しいシルバーは、自分の境遇を呪った。

「ラティオス……悪い。」

呟くような声はラティオスに届いていた。
シルバーがネンドールの片手に触れ、ラティオスの目を見て言った。

「………本当にごめん。」

ラティオスの目から小さな雫が伝うのが見えた。
ラティオスが必死でシルバーに触れようとした時、ネンドールはテレポートを決行した。





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