奇襲、再び-3

シルバーが最初にハンターを追い払った時、ハンターのポケモンはヘルガーとニューラだけだった。
相手はやはり意図的にこのドリュウズを温存していたのだ。
後々、GPS機能でラティオスの位置情報を掴み、こうやって此方が怯んだ隙に奇襲をかけるタイミングを計っていたのだろう。

「クロバット、エアスラッシュ!」

クロバットがドリュウズを怯ませるのを見ながら、オーダイルは気付いた。
相手はやはり意図的にシルバーを狙っている。
頭の回転の速さで上手く作戦を立てるシルバーを、先に倒してしまうつもりなのだ。
シルバーは一度立ち止まり、レアコイルのボールを手に取った。

「レアコイル、戻れ!」

電気と鋼タイプのレアコイルは、地面と鋼タイプのドリュウズに圧倒的に不利だ。
レアコイルは悔しかったが、このままでは自分が倒されて足手纏いになる。
抗わずに大人しくボールへと吸い込まれた。

「助かった、休め。」

レアコイルのボールにそう呟いたシルバーは、レアコイルに替えてゲンガーとマニューラを繰り出した。
マニューラは小柄ですばしっこく、鋼タイプに強い格闘タイプの技、瓦割りを使える。
同じ格闘タイプの技、気合玉を使えるゲンガーは、メガ進化すると特性が影踏みになる。
その特性が今の状況には必要だ。
シルバーは右腕の袖を捲り、隠れていたキーストーンにそっと指を当てた。
今日二度目のメガ進化だ。

「……俺に力を。」

ゲンガー、メガ進化!!

シルバーがキーストーンを高く掲げた。
絆の光がキーストーンとメガストーンを結び、進化を超えたメガ進化へと繋がる。
四匹のドリュウズは初めて目にしたメガ進化に息を呑むばかりだった。
それはラティオスも同様で、強い絆を必要とするメガ進化を使いこなすシルバーを驚きの目で見た。
やはり、この人間は違う。
ゲンガーが姿を変えた途端、影踏みの効果により、ドリュウズは強制的にゲンガーとの戦闘を強いられる事となる。
ラティオスの元へは行けなくなったのだ。
クロバットが忙しなく翼を動かし、ハンターが近い事を知らせている。

「ラティオス!」

ラティオスの身体はビクリと震えた。
ラティオスに背を向けたままのシルバーは、何故飛び去らないのかと焦燥感を覚えずにはいられなかった。

「早く行け、逃げろ!」

「そうはさせねぇぜ!!」

「…!」

バイクに股がる五人のハンターが、ドリュウズに遅れて到着した。
追い付かれてしまった。
シルバーはまたしても舌打ちをした。
ラティオスは迷彩服に身を包むハンターを憎しみを込めて睨んだ。
だがハンターのリーダーはラティオスの包帯姿を見ると、馬鹿にしたように高笑いをした。

「おやおや、ラティオス。

追跡機のGPS機能が動かねえと思ったら、ヒーローに外して貰ったのかよ。」

やはりこの青年をドリュウズに襲わせるのは正しい作戦だった。
それでも彼が無傷なのは、彼のポケモンが優秀だからだろう。
シルバーはハンターの皮肉を無視し、ラティオスに再び叫んだ。

「今なら間に合う、行け、早く!」

オーダイルたち四匹はシルバーが命令した技を其々繰り出した。
ドリュウズが穴を掘ると、クロバットはその穴の中に向かって超音波をぶち込んだ。
オーダイルとマニューラは接近戦に持ち込み、ドリュウズをシルバーから遠ざける。
メガゲンガーは透明になれる身体で相手の隙を突き、鬼火で弱らせてから気合玉で攻撃した。

治療後だからだろうか。
ラティオスはポケモンたちのバトルにピントが合わなかった。
壊れたテレビの映像のように、視界の一部がぐにゃりと歪む。
シルバーという人間が何か叫んでいるが、頭が麻痺し、全ての音が耳鳴りのように聴こえた。
何故、この人間とポケモンたちは此処までして自分をハンターから守ろうとするのだろうか。

……分からない。

四匹のドリュウズがダメージを受け続ける間に、一人のハンターがバズーカ砲を肩に担いだ。
それはレアコイルに破壊された物よりも更に大きく、見るからに威力が増している。
これもまた、温存しておいた武器だ。
シルバーのポケモンたちがドリュウズ四匹を其々一匹ずつ相手にしているのを見計らい、バイクに装着してあったそれを取り出したのだ。

「ラティオス、覚悟しやがれ…!」

スコープを覗いて照準をラティオスに合わせた時、ラティオスの目の前に両腕を広げたシルバーが立ち塞がった。
ラティオスは驚きの余り、声が出なかった。
スコープの中のシルバーは堂々と口角を上げている。
何の恐れも感じさせないシルバーの行動に恐怖さえ覚えたハンターは、目を見開きながら、額から汗が吹き出した。
あれが砲弾の餌食になるかもしれない人間の表情だろうか。

「ク、クソガキめ、如何しても死にたいらしいな…!!」

ハンターの声は動揺を隠しきれていなかった。
一方のシルバーは震える訳でもなく、自信に溢れた声で言った。

「残念ながら、俺はこんな処で死ぬ予定じゃねぇんだよ。」

トウカシティに出掛ける時、笑顔で送り出してくれた小夜の姿が思い出される。
何故かシルバーには必ずオーキド研究所へ戻る事が出来るという自信があった。
それに小夜の傍にいると誓ったのだから、死ぬ訳にはいかない。
自分はこんな処では死なない。

“させない!!”

オーダイルがハンターのバズーカ砲に逸早く気付き、怯むハンターに向けてアクアジェットを繰り出そうとした。
だが突然の眩い光で視界を遮られ、全員が目を瞑った。
視界を全て埋め尽くすような、眩い虹色の光だった。

俺のリュックから…!?

シルバーがリュックの中から光が溢れ出ているのだと分かると、眩しさに目を細めながらもリュックを降ろそうとした。
だが降ろすより先に、光の根源がリュックの右端の布を小さく突き破った。
そしてそのまま空に三m程浮き上がると、最初よりも弱くなった光の中でその正体を見せた。

「今朝預かったあの石…!」


―――パキ…パキ…


乾いた音を立てながら、石に大量の割れ目が現れた。
石の表面から割れた欠片が剥がれていき、粉々になって姿を消してゆく。
全ての欠片が消滅した時、石の中央に隠れていたものが正体を現した。
灰色に近い薄紫色の玉の中に、紫色と灰色の模様が浮かんでいる。
螺旋状の遺伝子の一部を切り取ったような、見慣れた模様。
メガストーンだった。
すると、シルバーの右手首に嵌められているキーストーンが反応を見せた。
途端に複数の光がまたしても視界に溢れ、全員が目を見開いた。
光を発したのは、シルバーのキーストーンと謎のメガストーン、そしてラティオスだった。



2016.10.10




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