サトシとの約束

シルバーとサトシは庭でバトルの定位置に着いて向き合っていた。
お互いのポケモンをモンスターボールに戻し、好戦的な笑みを浮かべている。
勿論、ピカチュウだけはサトシの脚元にいる。
見守っているのは小夜、オーキド博士、シゲル、ケンジの四人。
そして小夜のポケモンたちだった。
審判の位置にはケンジが立っている。
サトシの頭はワクワクで溢れていた。
ポケモンバトルの際は何時もそうだが、相手がシルバーなら尚更だ。
やっと約束していたバトルが出来る。
シルバーは好戦的ながらも真剣に言った。

「手加減はしない。」

「そう来なくっちゃ!」

サトシは嬉しそうだった。
間違いなくシルバーは強いだろう。
闘争心が込み上げる中、サトシは言った。

「ピカチュウ、行くぜ。」

「ピカ!」

ピカチュウはさっと前に出ると、やる気に満ちた表情でシルバーに対峙した。
ルールは二人で話し合って事前に決めてある。
使用ポケモンは一体。
何方かが戦闘不能になれば終了だ。
シルバーはモンスターボールホルダーになっている腰のベルトに手を遣った。
アウターの袖下に隠れているキーストーンが微かに疼いた気がした。

……試してみるか。

譲り受けたばかりのボールに指で触れると、それはカタカタと細かく揺れた。
彼からバトルをしてみたいという気持ちが伝わる。
決意したシルバーはそのボールを取り、前方に真っ直ぐ投じた。
現れたのは宙に浮遊するゲンガーだった。
サトシは途端に目をキラキラさせた。
本当にポケモンが好きなのだ。

「ゲンガーか!」

素早くポケモン図鑑を開き、ゲンガーを調べた。
するとポケモン図鑑の音声が説明を始める。

「ゲンガー。
シャドーポケモン。
ゴーストの進化形。
人の影に姿を隠し、呪いをかけるタイミングを窺っているという。」

サトシは呪い≠ニいう言葉に若干の恐怖を覚えた直後、カントー地方で出逢った悪戯好きのゴーストを思い出した。
サトシやピカチュウはゴーストに構って攻撃を繰り返され、頻繁に驚かされたりしたものだ。
最終的にはヤマブキシティのジムリーダーナツメの元に落ち着き、其処で別れを告げた。
同じく呪い≠ニいう言葉に焦ったゲンガーは身振り手振りで否定した。
生きてきた中でそのような事は一度もしていない。
ポケモン図鑑を考案したオーキド博士は笑ったが、小夜は苦笑した。

『博士、トレーナーを怖がらせるのはよくありませんよ。』

「そうかのう?」

オーキド博士は戯けてみせた。
実際に呪い≠ニいう技があるのは事実だ。

「全く、サトシは何を驚いているんだか。」

そう呟いたシゲルは呆れ顔で笑ったが、ポケモンが人間にかける呪い≠ニは一体どのようなものなのかと考えると悪寒がした。
それを振り払い、僅かに苦笑するシルバーを見た。
シルバーはきっと対トレーナー戦でメガ進化を試してみたいのだろう。

「あれ…?」

サトシは首を傾げた。
ゲンガーの腕にリングルが嵌めてある。
其処には怪しく光る不思議な石が煌めいていた。

「シルバー、ゲンガーのそれは?」

そういえば、小夜のボーマンダも似たような石を首元に着けている。
シルバーは答えた。

「メガストーンだ。」

「メガストーンって?」

「メガ進化に必要なものだ。」

「メガ進化って?」

サトシはメガ進化の存在を知らないようだ。
シルバーは考えた。
メガ進化≠ニは。
どのように説明すればサトシが理解し易いだろうか。
するとシゲルが言った。

「サトシ、君は聴くより見た方が早い。」

サトシはシゲルの言い方にむっとしたが、自分の理解能力を考慮すると確かにそうかもしれない。
メガ進化とは一体何なのか、一刻も早く見てみたい。
一方、ゲンガーはシルバーに振り返った。
シルバーの命令の下で修行をしたのは昨日一日だけだ。
今回の相手はシゲルのライバルであるサトシ。
シゲルの手持ちだった頃からゲンガーも知っていた人物だ。

「不安か?」

“ううん!”

何故だろうか、シルバーと一緒なら不安など微塵もない。
シルバーはふっと笑った。

「俺もだ。」

ゲンガーは何時ものように陽気にニッと笑うと、ピカチュウと対峙した。
忽ちピカチュウと鋭い視線を打つけ合った。
バトルをする準備が整ったのを確認したケンジがビシッと言った。

「バトル開始!」

始まった。
見守る全員の表情が引き締まった。
ケンジの一声に逸早く反応したのはサトシだった。

「ピカチュウ、十万ボルト!!」

ピカチュウは跳び上がり、全身に電気を纏った。
だがシルバーの命令も早かった。

「不意打ち!」

ゲンガーはすうっと姿を消し、ピカチュウの背後に現れた。
不意打ちは攻撃技に対して確実に先制する技だ。
ピカチュウが気付いた時には、背中を打ち付けられた。
だがピカチュウは上手くバランスを取って着地し、転倒を免れた。
大丈夫かと尋ねるサトシにはっきりと返事をし、浮遊するゲンガーを見上げた。
シルバーは目を細めた。
まだまだサトシとピカチュウの闘い方を考察する必要がある。

「シャドーボール!」

「十万ボルト!」

技同士がぶつかり合い、爆発を起こした。
強風で粉塵が舞い上がる中、シルバーとサトシは腕で顔を覆ったが、お互いにすぐ顔を上げた。

「シャドーパンチ!」

「避けろピカチュウ!」

漆黒のエネルギーを纏ったゲンガーの拳が地面に叩き付けられ、ピカチュウは間一髪で回避した。

「もう一度十万ボルト!」

ピカチュウは体勢を整える間もなく電撃を放った。
それは浮遊するゲンガーへと真っ直ぐに向かう。
だがピカチュウが身体に電気を纏った時には、シルバーの命令が既に飛んでいた。

「悪の波動で掻き消せ!」

シルバーの命令がもう少し遅ければ、悪の波動は空気を割く電撃のスピードに負けていただろう。
技同士は再び衝突した。
バトル場に風が吹き荒れ、収まった頃には二匹が距離を取って対峙していた。
ピカチュウはノーマルタイプの電光石火が出せず、電撃ばかりになってしまう。
シルバーはそれを簡単に見抜いていた。
本来のピカチュウは素早さで相手を錯乱し、電撃で押すタイプなのだろう。
一通りの考察が済んだところで、頭脳派のシルバーはこのバトルの流れの予想を組み立てる。
サトシは中々メガストーンを使おうとしないシルバーに言った。

「そろそろ見せてくれよ。」

「そうだな。」

ピカチュウの火力や素早さを見ていると、よく育っている。
サトシが初めて貰ったポケモンというだけある。
シゲルのカメックスとバトルした時と同様、簡単に勝てるバトルではない。
シルバーは右腕の袖を捲った。
小夜とお揃いのベルト型のブレスレットに、煌めくキーストーンが嵌められている。
ゲンガーのメガストーンとは異なるキーストーンの煌めきに、サトシの心は高揚した。
目を閉じたシルバーは右手を握って胸に当てた。
まるでキーストーンが生きているかのように、その鼓動を感じる。

「……俺に力を。」

ポケナビの装着されている左手の人差し指と薬指の先でキーストーンに触れると、その煌めきの中から虹色の光が溢れ出した。
同時にゲンガーのメガストーンも同様に輝き始めた。
シルバーが右腕を空へと伸ばしてキーストーンを掲げると、二つの石の共鳴が目に見えて現れた。

『あ…。』

小夜は左腕の袖を捲り、自分のキーストーンを見た。
シルバーのキーストーンのように光を放った訳ではないが、明らかに反応しているのが分かった。
シルバーが初めてゲンガーをメガ進化させた時と同様の現象だった。
小夜の気のせいではなかったようだ。
サトシは感動に目を見開いた。
ゲンガーの姿が光の中でみるみる変化し、最終的には全く違った姿を見せたからだった。

「すげー…。」

サトシは感嘆の声を漏らした。
たった今見た光景が鮮烈に記憶され、高揚が収まらない。
シルバーは口角を上げ、右手を腰に当てた。

「さあ、此処からだぜ。」

「ああ!

俺たちも行くぜ、ピカチュウ!」

そして、バトルは再開された。





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