気持ち新たに

就寝前の束の間のひと時。
二人のポケモンたちはシルバーの部屋に集まり、雑談している。
今夜は小夜が深夜にバトルをする日ではない。
小夜はシルバーのベッドでごろごろしながら、エーフィと戯れ合っていた。
ゲンガーは小夜に作って貰ったばかりのバングルを嬉しそうに見た。
ステンレス製で銀色に光る其処にはメガストーンがしっかりと嵌められている。
今日、無事にメガ進化出来た事は、ゲンガーにとって自信に繋がった。
シルバーと自分との間に絆がある事も確信出来た。
嬉しくて、涙が出そうだった。
ソファーに腰を下ろしているシルバーをちらりと見てみると、オーキド博士から借りたポケモン医学の本を熟読していた。
今朝渡されたばかりの分厚い本は、既に半分以上読み終えられていた。

「如何した。」

シルバーはパタンと本を閉じ、ゲンガーを見た。
ゲンガーははっとした。
シルバーには小夜の気配感知能力の一部が移っており、視線に敏感なのを思い出した。
ゲンガーがシルバーに屈託ない笑顔を向けると、シルバーは不思議そうに首を傾げた。
途端にゲンガーの涙腺が緩んだ。
本当に自分はもうこの人のポケモンなのだ。

“ううう…。”

「な…?!

急に何だよ、何故泣くんだ!」

だばーっと涙を流すゲンガーに、シルバーは混乱した。
目が合っただけなのに、何故泣かれるのだろうか。

『ふふ、嬉しいのよ。

ね?』

小夜に助け舟を出され、ゲンガーは何度も頷いた。
小夜はエーフィを腕に抱きながら、ベッドに寝転んで微笑んでいる。
顔に手を当ててグスグスと言っていたゲンガーは、バクフーンとオーダイルに宥められて笑顔を見せた。
シルバーは参ったように頭を掻き、何時までも部屋に帰らない小夜に言った。

「とりあえず小夜、そろそろ部屋に戻れ。」

『うん。

ボーマンダ、ボールに入って。』

“了解。

皆お休みー。”

ボーマンダは皆に挨拶し、皆から挨拶を返されたのを確認した小夜によってモンスターボールに戻された。
小夜は立ち上がり、エーフィもベッドから降りた。

『皆、おやすみ。』

小夜のポケモンたちは小夜の後を追い、皆がシルバーのポケモンたちと就寝前の挨拶をした。
シルバーは部屋を出ると、自分の部屋の扉の前で待っていた小夜に近寄った。

「眠れそうか?」

『それ何時も訊くんだから。』

小夜がクスクスと笑うのを見ると、シルバーは無意識に手を伸ばした。
小夜は毎日よく眠っている。
それでも予知夢はあれから一度も見ていない。
今日の朝ごはんはフレンチトーストだ、などといった他愛もない予知夢すら見ないのだ。

「何かあったら呼べよ。」

『それも何時も言ってる。

心配性。』

「煩い。」

シルバーは小夜の頬に触れていた手を小夜の後頭部に回し、ぐっと引き寄せた。
口付けだと悟った小夜はシルバーの顔が近付いてきた瞬間に瞳を閉じた。
重なる唇が温かい。
シルバーは一度は唇を離したが、またすぐに角度を変えて口付けた。
今日は色々な事があった。
濃厚な一日だった。
それでもこうやって小夜が傍にいるから力が湧くし、冷静にもなれる。

『…ん…。』

長く唇を奪っていた事にシルバーが気付いたのは、小夜の声が口付けの合間に漏れたからだった。
はっとしたシルバーは少し驚いた様子で唇を離した。
小夜は頬を染めながら照れ臭そうに言った。

『い、何時もより長かった…。』

「わ、悪かった。

無意識だった。」

『何か考えてたでしょう?』

「…別に。」

『教えて?』

「断る。」

ぷいっとそっぽを向いてしまったシルバーだが、その顔は真っ赤だった。

「とにかく寝ろ。」

『はーい。

おやすみなさい。』

「おやすみ。」

シルバーは小夜の頭をくしゃりと撫で、もう一度だけ短い口付けを落とした。
二人はお互いの額を合わせ、優しく微笑み合った。




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