話し合い

シルバーは黒い二人掛けのソファーに腰掛け、オーキド博士に借りた新しい本を流し読みしていた。
ポケモン総合医療学≠ニいう本だが、これまた分厚い。
本来は流し読み出来る難度ではないが、小夜の様子を見ながらだと上手く頭に入らないし、外から聴こえる雨音や雷鳴が集中を妨げる。
小夜はシルバーのベッドに寝転び、掛け布団も被らずにうつ伏せでうとうとしていた。
シルバーの優しい匂いで小夜はすっかり安心していた。
すぐ傍にいたボーマンダが尋ねた。

“眠れる?”

『眠たい…。

お昼過ぎって眠くなる…。』

今朝予知夢を見たばかりだが、精神的疲労もあるせいか、小夜は眠れそうだった。
ボーマンダは掛け布団を咥え、小夜に優しく掛けた。

『ありがと…。』

ボーマンダが覗き込んでいた紫の瞳は閉じられ、小夜はすーすーと寝息を立て始めた。

「寝たか。」

シルバーは本を閉じて作業用の机に置くと、ボーマンダの隣に片膝を突き、すぐ傍にある恋人の寝顔を覗き込んだ。
無邪気な小夜を見ると、少しだけ安心した。
ゴーストはふらふらと浮遊してシルバーの頭上まで来ると、小夜の顔を窺う。
午前中、小夜の正体や能力を始め、シルバーと旅を始めてから何があったのか、小夜から直接説明された。
更にシルバーがロケット団代表取締役の息子だという事も、バショウとは一体何者なのかも、全て把握した。
小夜の寝顔を見ていると、ポケモンと人間の混血であるとは思えない。
実際に能力をこの目で確かめる機会が欲しい。

「お前は思ったより驚かなかったな。」

“俺?”

シルバーがゆっくりと立ち上がった。
ゴーストはシルバーと視線の高さを合わせ、思考を巡らせる。
シルバーは今までに何があっても小夜への感情を貫き通し、相思相愛である今に至る。
嘗てシルバーが暴力で罵ったというオーダイルは、それが嘘ではないかと疑う程にシルバーを信頼し、懐いている。
ベランダでオーダイルがシルバーを抱き締めながら泣いていた光景は、ゴーストの脳裏に鮮明に焼き付いている。
シルバーは小夜に出逢って劇的に変わった。
やはりこの人を主人として希望したのは間違いではなかった。
やけに凝視してくるゴーストに不思議そうな表情を見せたシルバーだが、冷静に口を開いた。

「さっきも話したが、小夜には記憶削除の能力がある。

もしお前が受け入れられないのなら、庭で初めて俺を見つけた時からの記憶をお前から消そうと思っていた。」

シルバーが悪の組織ロケット団のボスの息子だという事も、小夜が人造生命体だという事も。
これらを全て受け入れられないのなら、そうするしかないと思っていた。
だが小夜の話を聴いたゴーストは、一度は驚いた様子を見せたものの、すんなりと受け入れた。
小夜が人間離れしているのは容姿から十分理解していたし、シルバーはロケット団のボスの血を引いているようには見えない。
シルバーが小夜やポケモンたちを大切にしているのを見れば、父親であるサカキから逃げてきたのだと容易に予想出来る。

“記憶を消そうとしてたなんて、酷いな。”

寂しさを感じたゴーストがそう呟いたが、シルバーは黙ったまま何も言わなかった。
ゴーストに全てを説明した事に後悔がないと言えば嘘になる。
小夜の予知夢がロケット団との再接触を警告する中で、シルバーの手持ちではないゴーストに今後何らかの危険が及ばないかと心配だからだ。
だがそれを考えれば、シルバーの手持ちである四匹も危険と隣り合わせだ。
シルバーは雷鳴のする外をじっと見ていたが、視線を外して言った。

「オーキド博士の処へ行ってくる。」

“何を話すの?”

首を傾げたオーダイルに尋ねられた。
オーダイルはバクフーンと隣同士で部屋の中央にある低い机に向かっており、漢字練習帳を開いていた。
何を尋ねられたかを予想したシルバーは答えた。

「今後の事を話してくる。

後はこいつの提出だ。」

作業用の机に向かうと、分厚いルーズリーフを手に取った。
それは論文を読み始めてから二週間以上を費やして完成させた文書であり、きちんとクリップで留めてあった。
小夜はシルバーの頭が良いと前々から言っているが、それは本当だった。
以前、シルバーのポケモンたちがその筆跡を覗いてみると、とても丁寧な字だった。
シルバーが横暴な性格だったとは信じられない。

「小夜を頼む。」

バクフーンとオーダイルがラジャーと言ってビシッと敬礼し、他のポケモンたちも頷いた。
シルバーは安心した笑みを浮かべると、部屋を出ていった。




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