強がり-3

感じたのは疎外感だった。
ただ一人だけ除け者にされているような感覚だ。
予知夢とは何?
バショウとは誰?
一体何が起こっていたのか、全く分からなかった。
やはり自分は彼らの仲間ではないのだと思い知らされ、心が握り潰されているかのように苦しい。
落ち着きを失っているゴーストは様々な物体を素早く通り抜け、庭のベランダで止まった。
激しい雨がガス状の身体を濡らしていく。
シルバーの部屋を見上げると、雨粒が涙のようにゴーストの目を伝った。

如何やら小夜には深い事情があるようだ。
シゲルが頻繁に心配していた理由がそうなのだろう。
聴いてはいけない事を聴いてしまった気がした為、それに対する謝罪の言葉を口にしてから逃げてきた。
やはり自分は元いたオーキド庭に帰るべきだ。
それでも今部屋へ戻れば全て説明してくれるのではないかという希望が胸を掠め、森へ入るのを躊躇してしまう。
彼らの傍にいたのが短期間だったとはいえ、良い夢を見る事が出来た。
彼らには感謝しなければ。
シルバーの部屋に背を向け、自然の森同然の庭へと戻ろうと浮遊する。

「待て!」

“?!”

勢いよく振り向けば、其処にシルバーがいた。
ゴースト自らが主人に希望した初めての人間だ。
四階から全力で駆け降りたシルバーは、開いていたガラス窓に手を遣り、荒い呼吸を整えている。
カーテンのレースが強風に靡いている。

「庭へ帰るつもりか。」

“如何して…追い掛けてきたんだ…?”

シルバーは一通り呼吸が落ち着くと、ベランダに置いてあったスニーカーに両脚を突っ込んだ。
ポケットにも両手を突っ込み、ベランダの白い屋根を抜けてゴーストに近付いた。
シルバーとゴーストの距離がニm程になった時、シルバーは立ち止まった。
容赦ない雨粒はシルバーを叩き付け、赤髪は強風に激しく揺れる。
雷光がシルバーを照らし、雷鳴が続く。
それでもシルバーは全く動じなかった。

“駄目だシルバー、風邪を引いてしまうから!”

ゴーストは目を潤ませ、ぎゅっと閉じた。
何故シルバーが此処までするのか、ゴーストには理解出来なかった。
シルバーは雨水のせいで額に張り付く前髪を掻き上げた。

「主人面をするつもりはない。

実際にお前の主人はシゲルだしな。」

“……。”

シルバーの真剣な眼差しがゴーストに刺さる。
それは目を閉じていても分かった。

「だが、言わせて貰う。

部屋に戻れ。」

“!!”

ゴーストは目を見開き、真っ直ぐな赤色の目を見た。
申し訳なさそうに息を吐いたシルバーを見つめる。

「とりあえず謝る。

お前にだけ何も説明しなくて悪かった。

部屋で全部説明する。」

もし小夜の正体や能力をゴーストが受け入れられないのならば、記憶削除という最終手段がある。
そのような最悪の事態にならなければいいのだが。
もしそうなれば小夜やシルバーは勿論、そのポケモンたちも心苦しくなるだろう。

「ほら、戻るぜ。

部屋の辛気臭い空気も、お前がいれば変わる。」

ゴーストは目を潤ませたままぱちくりさせた。
ゴーストの顔芸でポケモンたちは何時も笑っている。
微かに笑うシルバーはガラス窓の方へ視線を遣る。

「お前ら、聴き耳は物騒だぜ。」

お前らとは誰なのか、ゴーストには分からなかった。
するとカーテンに隠れていたシルバーのポケモンたちがそろそろと顔を出した。
四匹は主人とゴーストの様子をこっそり窺っていたのだ。
雷鳴が鳴り響く中、小夜の気配感知能力の一部が移っているシルバーは四匹に気付いたらしい。
シルバーは屋根下に戻ろうと一旦ゴーストに背を向けたが、振り向いてその顔を見た。

「来ないのか?」

“…行きたい!”

ゴーストが顔を左右に振って力強く答えると、シルバーのポケモンたちは一転して表情をぱあっと明るくした。
両手が使えるオーダイルとマニューラがゴーストに勢いよく手招きし、ゴーストは感極まって其処まで速く浮遊した。
シルバーはふっと笑って研究所の中へと戻ろうとしたが、びしょ濡れの身体では入れない。

『シルバー。』

その凛とした声が聴こえるまで、誰もその存在に気付かなかった。
何時の間にかベランダに姿を現していた小夜は、手に白いバスタオルを二枚持っていた。

「小夜、聴いていたのか。」

シルバーがベランダの屋根下まで歩いていくと、小夜は首を横に振ってシルバーにタオルを一枚渡す。
悪いな、と感謝を口にしたシルバーが頭を拭く。
二人がゴーストの視線を感じて顔を向けると、はっとしたゴーストに小夜が言った。

『ごめんね、説明するから。』

“聴いてもいいのか…?”

『勿論。』

シルバーは一番上に羽織っていた分厚いアウターを脱ぎ、雨水を大量に吸い込んだそれを絞る。
肩にタオルを羽織るが、へばり付いた服に体温を奪われて身体が冷える。
ゴーストに近付いた小夜はもう一枚のタオルでその身体に触れる。
ガス状の身体は不思議とそれを受け入れ、身体に付着していた雨水が拭かれていく。

『部屋に戻ろっか。』

外は酷い悪天候にも関わらず、ゴーストが見た小夜の笑顔は雨雲を掻き消すかのように綺麗だった。



2015.3.22




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