4-1

地下牢というのは、何度訪ねても陰湿で狭苦しい。
此処で重点的に生活しているこの人は、もっと太陽の光を浴びるべきだと思う。

「行くぞ」

普段は大股でずんずん歩くセブルス・スネイプ教授が歩調を落としてくれるのは、私への配慮だと思っていいだろうか。
消灯時間を過ぎているから、廊下は真っ暗だ。
彼の杖先から灯るルーモスの光を頼りに、広い廊下を黙ったまま進んだ。
立派な翼を持つ荘厳なガーゴイル像の前で、彼は合言葉を言った。

「ストロベリーパフェ」

つい吹き出しそうになった。
あの陰険根暗だと名高いスネイプ教授が苺パフェだなんて、とてもじゃないけど似合わない。
ガーゴイル像から続く螺旋階段を通って校長室へ入ると、副校長であるマクゴナガル先生が出迎えてくれた。

「お待ちしていました。
さあ、中へ」

校長室は美しい円形の部屋で、興味を引くものが沢山置かれていた。
紡錘形の華奢な脚がついたテーブルや、壁に掛けられた歴代の校長先生の肖像画。
棚には組分け帽子が置かれているし、テーブルの横では不死鳥のフォークスが毛繕いをしている。
此処にいれば、何時間でも時間を潰せそうだ。

そして、アルバス・ダンブルドア校長はテーブル前の椅子にまったりと腰を下ろしていた。
その眼鏡の奥の瞳にきらきらとした光が宿っていて、ダンブルドア校長が不思議と若々しく見える理由の一つだ。
テーブルの傍には小柄なフリットウィック先生が待っていた。
フリットウィック先生はレイブンクローの寮監だ。
ダンブルドア校長はスネイプ先生の足元にいる私に、無垢な笑顔を向けてくれた。

「元に戻っても構わんよ、アフロディーテ」

私はスネイプ先生に見下ろされながら、猫から人間の姿へと戻った。
マクゴナガル先生は私の変身術を見て満足そうに頷いたし、フリットウィック先生は感嘆の声を上げた。
私服の私は先生方へ丁寧に頭を下げた。

「こんばんは」
「こんばんは、アフロディーテ。
夜分にすまんの」
「構いません」
「改めて、取り決めた件に関して確認しよう」

私は頷いた。
先生方の真剣な表情が視界に入った。

「アフロディーテ、君はホグワーツを守る為、要注意人物の監視とホグワーツ城内の巡回を申し出た。
間違いないかね?」
「ありません」

就寝時間後にホグワーツ内を巡回するのは、他の先生方も同じだ。
スネイプ先生が不機嫌そうに口を挟んだ。

「校長、お言葉ですが…」
「何かな、セブルス?」
「新入生である彼女に役目を負わせるのは理解に苦しみます」
「アフロディーテは優秀な魔女じゃ。
君もよく知っておろう」

私は未登録のアニメーガスだ。
幼い頃から元闇祓いの義母に鍛えられ、呪文学や決闘を得意としている。
入学前に新たな杖を貰うまで、実父の杖を密かに使っていた。
未成年の匂いを魔法省に嗅ぎつけられなかったのは、とある理由がある。

「セブルス、親友だった彼の娘は信頼に値するじゃろう。」
「アフロディーテはまだ未熟です。
何らかの失態を犯しかねません」
「アフロディーテの事が心配かな?」
「……」

スネイプ先生が私を一瞥した。
要注意人物であるハリー・ポッターの監視や、ホグワーツ城内の巡回を願い出たのは、他でもなく私自身だ。
ダンブルドア校長は、生徒の目線で役目を受けて欲しいと言ってくれた。

「ハリーの亡くなったご両親の為にも、私が彼を見守ります」

私の両親が愛したホグワーツの力になれるのなら、週に数回の巡回程度ならやり遂げてみせる。
猫の姿で、城内をウロウロするだけだ。
私はスネイプ先生にはっきりと主張した。

「上手くやり遂げてみせます」
「ラブグッドにアニメーガスだと早速気付かれた君が、何をほざいている?」
「それは…その…彼女は何故か一発で見抜いたんです。
不思議な眼鏡をかけて…。
夜遅くで私の体毛の色はよく見えていなかった筈なのに」

その眼鏡とは、ザ・クィブラーという雑誌の何ヶ月か前の付録だそうだ。
消灯時間後の中庭で、偶然見かけた猫の私を一目見て、ミステリアスなルーナはさらりと言ったのだ。

―――こんばんは、アフロディーテ。

あの時の衝撃は忘れられない。
レイブンクローの女子寮で同室のルーナには、アニメーガスである事を白状した。
ホグワーツ城内を何故見回っているのか、ルーナには教えてある。

「アフロディーテは大丈夫じゃよ、セブルス。
彼女に何かあった時の為に、わしらがいる。
何よりセブルス、君がいるじゃろう」





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