4-2

セブルス・スネイプ教授は、私の父と同級生だ。
私の両親は共にレイブンクロー出身。
学生時代から、父は当時スリザリンに所属していたスネイプ先生と友好関係があった。
父とスネイプ先生は、親友だった。
ホグワーツ卒業後、両親は闇祓いとなり、不死鳥の騎士団の一員となった。
でも、両親は亡くなった――

地下牢にあるスネイプ先生の部屋に戻った私は、変身術を解いた。
此処にいれば、他の生徒に見られる心配はない。
安心して変身術を使える場所だ。

「紅茶は出さんぞ」
「ホグワーツでは冷たいですね」

それでも、早く帰れと言わないのはスネイプ先生の優しさだ。
幼い頃からスネイプ先生と交流のある私は、それを知っている。
スネイプ先生は親友である父が遺した娘の私に、本や羊皮紙を沢山送ってくれる。
ホグワーツの休暇中、私の元へ何度も顔を見せに来てくれるし、家にも泊まってくれる。
そんなスネイプ先生に私はやたらと懐いているし、心から信頼している。

「君から先生などと呼ばれるのは慣れん。」
「我ながら物凄く違和感がありますよ。
ね、先生?」
「……」

スネイプ先生は元死喰い人だ。
私の父の死後、ダンブルドア校長の元へ寝返った。
スネイプ先生の奥底にある優しさを、私は知っているんだ。

「ホットミルクは如何でしょう?」
「それを用意するのは誰だというのかね」
「先生です」

スネイプ先生は大きな溜息をつくと、杖をひと振りした。
棚からティーセットや牛乳瓶が出てきて、古い木製の丸テーブルの上に踊るように乗った。
ティーポットに熱々のミルクが注がれ、少しだけ蜂蜜を溶かした。

「ティーカップが一つしかありません」
「我輩は要らん」
「そうですか、それなら――」
「分かった、待て」

スネイプ先生が腰を下ろしている椅子に、私が杖を向けようとした。
スネイプ先生は呆れた表情をしてから立ち上がった。
私の向かい側の席に座り、再び杖を振った。
もう一つだけティーカップが現れ、中にホットミルクを注いだ。

「素敵な夜に、乾杯」
「これが素敵に見えるのなら、君の目は節穴だ」

スネイプ先生の憎まれ口なんて気にしない。
私はカップ同士を勝手にコツンと合わせて、ホットミルクを啜った。
丁度いい温度で、私の心と身体を温めてくれる。
スネイプ先生は早速厳しい口調になった。

「いいか、余計な事には首を突っ込むな。
危険だと思えばすぐに退避し、我輩か校長に報告しろ」
「それは三日前にも聞きました」

私が笑うと、スネイプ先生は眉間の皺を深くした。
そんな表情を生徒たちに向けていたら、陰険根暗だと言われるのも仕方ない。

「先生はハリーに敵意を向けるそうですね」
「…誰から聞いた?」
「校長です」

不死鳥の騎士団に所属していた私の両親は、同じ団員だったポッター夫妻と懇意にしていた。
スネイプ先生が犬猿の仲だったというジェームズ・ポッターは、ハリーの亡くなった父だ。
ハリーは父によく似ているらしいけど、ハリーと父は別人だ。

「私はこれからハリーを見守る立場になります。
先生のいじめが過ぎると、私が怒るかもしれませんよ」

ホットミルクを飲み干したスネイプ先生は、ガタンと音を立てて立ち上がった。
あ、怒らせただろうか。
スネイプ先生は話を逸らそうとしたらしく、本棚から一冊の本を取り出した。

「頼まれていた本を探しておいた」
「やった!本当?」

貸して欲しいと思っていた魔法薬学の本で、図書館を探してもなかった代物だ。
魔法薬学の授業後に、スネイプ先生に直々に頼んであったのだ。
気分が浮き立つのを感じた私は、家でスネイプ先生と話す時の口調になってしまった。

「早速持って帰ってもいい?」
「明日にしろ」

スネイプ先生は羊皮紙が積まれているテーブルに本を置いた。
今夜持って帰れば、私が完徹するとでも思っているのだろうか。
ホットミルクを飲み終えた私は杖を振り、ティーセットを全て片付けた。

「ご馳走様でした」

そろそろ寮に戻らないと。
寝るのが好きな猫のアニメーガスなだけに、私は睡眠を好む。
猫に化ける前に、スネイプ先生に微笑んだ。

「セブルス」

本来、親しみを込めてそう呼ぶ。
セブルスは私の目を見てくれた。

「ありがとう」

変身術を使うと、瞬く間に視界の高度が下がった。
猫の姿でドアを見つめると、眼力でドアが開いた。
暗い階段を見上げても、億劫にはならない。
暗闇でも視力が働くし、ジャンプ力が出るのは猫の利点だ。

「待て」

私は振り向き、小首を傾げた。
セブルスが私に貸す本を片手に、ドアの前に立っていた。

「寮まで送る」

嬉しくなった私は、にゃあと鳴いた。



2019.6.3




page 2/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -