18

クィディッチ競技場での災難は、毎日のように僕を苛立たせた。
レイブンクローから減点されなかったし、アフロディーテ・スチュワートにも罰則がなかった。
納得がいかない僕は、直々にスネイプ先生に不満を申し入れた。
なのに「シーカーの練習や勉学に力を入れたまえ」などと言って、はぐらかされる。
気のせいかもしれないけど、スネイプ先生はスチュワートに甘い気がする。
スリザリン以外を贔屓しないスネイプ先生が、スチュワートだけは減点しないという噂まで耳にした。
スチュワートは成績優秀らしいから、減点する隙がないのだろうか。

「おはよう、ドラコ」
「ああ、おはよう」

大広間で朝食を摂っていると、パーキンソンが僕の隣を陣取り、片腕に縋り付いてきた。
朝から鬱陶しい。
前々から何度拒んでもこうしてくっついてくるから、僕はもう諦めていた。
パーキンソンはレイブンクローの長テーブルを見ると、其処にいるスチュワートを睨み付けた。
学年や男女問わず人気のあるスチュワートは、レイブンクロー生と楽しそうに談笑していた。

「あのスチュワートって女…!
気に食わないわ…!」

あの日の噂は瞬く間に広がった。
僕らスリザリンのチームが、新入生であるスチュワートに圧倒され、襟首を掴まれた僕は腰が抜けて立てなくなった。
思い出すだけで、腹の底から煮え繰り返りそうだ。
レイブンクローの聖女と呼ばれるアフロディーテ・スチュワート。
その呪文の腕前は、彼方此方で話題となっている。
あの日の噂の内容が間違っていないというのが、また僕を惨めに感じさせているんだ。
腹立たしくて、朝食のトーストを一気に食べた。

「僕は先に行く」

取り巻きのクラッブとゴイルをほったらかし、僕は一人で大広間を出た。
ハッフルパフ生にすれ違いざまにわざとぶつかり、捨て台詞を吐いた。
図書館に入り、借りたかった本を探した。
けど、また見当たらなかった。
先週から探しているのに、見つからない。

「チッ…」

悔しいけど、あの時のスチュワートは凄かった。
認めざるを得ない。

「!」

噂をすれば、スチュワートが本棚の裏側にいた。
僕が次に借りようと思っていた本を、本棚から取っている。
フン、生意気な女だ。
どちらの立場が上か、思い知らせてやる必要がある。
僕はスチュワートの前に立ち塞がり、毅然とした振る舞いで言った。
レイブンクローを彷彿とさせる瞳と、視線がぶつかった。

「それを渡して貰おうか」

スチュワートは僕を睨む訳でもなく、無表情だった。
張り合いがないのも面白くない。

「ぶっ叩かれたいの?」
「…違う、それを寄越せと言っているんだ」

杖でふっ飛ばされるよりも、本でぶっ叩かれる方がまだマシ……僕は何を考えているんだ!
とにかく、その本を大人しく僕に渡せばいいんだ。

「先に手に取ったのは私なのに。
違う本を借りたらいいでしょう?」
「僕はそれが読みたかったんだ」

ノンフィクション作家によって、魔法使いの冒険が壮大なスケールで書かれている超大作。
その続編をスチュワートが手に持っている。
前作を読み終わった僕は、それを読みたいと思っていたんだ。

「読んだ事がないの?」
「ないから借りるんだろ。」
「私は二回目なの。
ラストには主人公が親友に命懸けで――」
「待て!言うな!」

結末を喋りかけたスチュワートは、得意げに微笑んだ。
それを可愛いと思ってしまった自分が、余計に腹立たしい。
僕はいつの間にか息を切らしていた。
スチュワートが僕に歩み寄ってきたから、僕は全身に無駄な力が入った。
襟首を掴まれた際の記憶が頭の中に充満して、息を呑んだ。
すると、スチュワートは本を押し付けるようにして僕に渡した。
僕が呆気に取られていると、端的に言った。

「譲るから、反省してね」

穢れた血≠ニ言った事か?
そう問う勇気はなかった。
今再びその言葉を口にすれば、多分ふっ飛ばされる。
僕はスチュワートの後ろ姿を見つめた。

「何だよ…あの女」

僕の呟きは図書館の角に消えていった。



2019.9.29




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