17

私がスリザリンのクィディッチのメンバーを追い払った件は、瞬く間に噂となった。
大広間での夕食の時間は居心地が悪くて、肩身が狭い思いがした。
ジョージたち双子を始めとして、ハリーやロンが私をやたらめったら賞賛するから、とても恥ずかしかった。
グリフィンドールの長テーブルはお祭り騒ぎで、レイブンクローまでその雰囲気に飲み込まれていた。
スリザリンの長テーブルの方から沢山の睨みが飛んできたけど、ちっとも怖くなかった。
それと比較すれば、今目の前で威圧的に見下ろしてくるこの人の方がよっぽど怖いのだ。

「ミス・スチュワート」
「はい」

地下牢にある魔法薬学の教室で、私は迫り来る説教に心構えをしていた。
此処には、スネイプ先生と私の二人だけだ。
スネイプ先生は淡々と言った。

「マルフォイに杖を向けたそうだが」
「間違いありません」

マルフォイは早速スネイプ先生に告げ口したようだ。
私は反省なんてしていない。
間違った事をしたとも思っていない。
呪いをかけた訳ではなく、ただ脅しただけ。
穢れた血≠セなんて、最低極まりない言葉だ。

「もしマルフォイに怪我をさせれば、ルシウス・マルフォイが校長室に乗り込んでくる。
只事では済まされんぞ」
「分かっています」

私は真っ直ぐな視線で答えた。
反省しているような表情なんて、絶対にしない。
スネイプ先生は豪快に溜息をついた。

「…アフロディーテ」

そう呼ばれた瞬間から、私たちは教授と生徒という垣根を越える。
セブルスは私の亡くなった父の親友として、私はその父の一人娘として、お互いに向き合うのだ。

「魔力を抑える努力をしろ。
マルフォイには関わるな」
「向こうから関わってくるのよ」
「今回突っかかりに行ったのはお前だ」
「突っかかりたくさせたのはマルフォイだもの」

私はぎゅっと拳を握り、セブルスの目を見つめた。

「…セブルス」
「何だ」

漆黒のローブと髪。
その色が似合うこの人の心に光があるのを、私は知っている。
義母と二人暮らしをしている私の元に、何度も訪れてくれた人。
私が退屈しないように、沢山の本を届けてくれた人。
様々な魔法薬を教えてくれた人。

「マルフォイに…お父さんを侮辱されたの」

セブルスは訝しげに目を細めた。
私は唇を噛んだ。

―――君みたいな女の父親なんて、ろくでもない男だろうね。

父は友人を守ろうとして、死喰い人に殺された。
発見された時には身体中が裂かれていて、死の呪文で息を止められていた。
当時母のお腹の中にいた私は、父と逢った事さえない。
それでも――

「悔しくて…許せなくて…」

涙声で堪えるように言った私は、セブルスに頭をグイッと引き寄せられた。
漆黒のローブに顔が埋まると、魔法薬の匂いがした。
それは私の心を落ち着かせてくれる。
セブルスにぎゅっと抱き着くと、堪えていた涙が滲んだ。

「私のお父さんが亡くなっているのを見つけたのは…セブルスなんでしょう?」

当時死喰い人だったセブルスは、不死鳥の騎士団の一員だった親友、つまり私の父と密かに連絡を取り合っていた。
たとえ死喰い人になっても、父との友情を切り捨てられずにいたのだ。
仲間である死喰い人に殺されていた父を発見したのが、皮肉にもセブルスだった。
私は義母からそう聞いている。

「死んだお父さんを見つけた時、何を思った?」
「……今夜はゆっくり休め」

セブルスは答えてくれなかった。
マルフォイに父を侮辱されたと聞いて、セブルスも悔しい?許せない?
ダンブルドア校長の元へ寝返った理由の一つに、私の父の死がある?

「ちゃんと休むから、一緒にいて」

父や母のように、いなくならないで。
セブルスは小さくふっと笑った。

「我輩は君が生まれた頃から君の世話を焼いているというのに、今更離れると思うか?」

私は心が温かくなり、自然と微笑んだ。
ありがとう、セブルス。



2019.9.29




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