19

ルーナと一緒に談話室を出た私は、図書館へ向かう途中で聞き慣れた声に呼び止められた。
振り向くと、ジョージがいた。
廊下の向こう側にフレッドがいるけど、私に軽く手を振ってから、その場を後にした。
ジョージだけが私に用事があるらしい。

「ジョージ、如何かしたの?」
「二人で話したくてさ。
ルーナ、アフロディーテを借りてもいいかい?」
「いいよ、貸してあげる」

ルーナはまったりと踵を返し、一人でスキップをして去っていった。
ちょっぴり照れ臭そうにしているジョージに、私は自然と微笑んだ。
ジョージと私は寮が別だけど、大広間で挨拶をしたり、廊下で逢えばお喋りしたりしている。
でも、その時はいつもフレッドやルーナが近くにいた。

「中庭に行かないかい?」

私たちは二人で並んで歩いた。
こんな風に二人だけで話すのは初めてだ。
一緒のベッドで寝た事もあるのに、擽ったい気分になるのが不思議だ。

「そうだ、厨房に寄ろう。
屋敷しもべ妖精からお菓子でも貰おうぜ」
「それいいね」

厨房を訪れるのは初めてだった。
屋敷しもべ妖精たちはこれでもかという程に腰を低くして、私たちを歓迎してくれた。
二人でラズベリーパイを貰ってから、時計台前の中庭にやって来た。
隣同士で芝生に腰を下ろし、放課後の空の下で真ん丸のパイを頬張った。

「美味しい!」
「良かった。」
「生地がふわふわ」

分厚いのに柔らかな食感が不思議だ。
屋敷しもべ妖精たちは日々大勢の分の料理を作っていて、凄いと思う。
何故かジョージが私の顔をじっと見ていて、私は首を傾げた。

「ふわふわって…」
「え?」
「あ、いや…何でもないよ」

ふわふわ
ジョージにあの猫を連想させてしまったかもしれない。
私は日に日に磨きがかかっている演技力を駆使し、何も気にしていない振りをした。
ジョージがクィディッチの練習日の話題を振ってきた。

「この前、スネイプに呼び出されたんだろ。
大丈夫だった?」
「大丈夫よ、こっ酷く怒られただけ」
「減点も罰則もなかったみたいだから、ほっとしたよ」

あの日、スネイプ先生は私を慰めてくれたのに。
こっ酷く怒られただなんて言ってしまった。
ごめんなさい、セブルス。

「俺とフレッドがしょっちゅうスネイプの罰則を受けるから、君の事も心配したんだ」
「罰則も一緒なのね。
双子って楽しそう」
「双子どころか、兄弟が多くて騒がしいよ」
「でも大家族って温かいんだろうな」

同じテーブルを囲って、沢山の料理を皆で共有して食べる。
きっと、食事だって数倍美味しくなるんだろうな。

「ごめん、嫌な話をしちゃったかな」
「そんな事ないよ」

ジョージが申し訳なさそうに眉を潜めているけど、その意味が理解出来ない。
ジョージは何かを言い渋る素振りを見せた後、私の顔色を伺いながら言った。

「その…嫌なら話さなくてもいいんだけど…。
聞きたいんだ、君の家族の事」

―――君には父親がいないんだって?
―――君みたいな女の父親なんて、ろくでもない男だろうね。

「マルフォイがあんな風に言ってたから、気になるよね」

私は青々とした芝生を見つめながら、話し始めた。
父は死喰い人に殺された。
当時、私は母のお腹の中にいた。
父が友人を守る為に殺されたのだと聞いた時、私は勇敢な父を誇りに思った。
父を殺されたショックで、母は身体を弱くした。
末期の肺がんに侵され、魔法薬でも手遅れになった。
病気が見つかってから二週間後に急変した母は、二歳の私を置いて亡くなった。
祖父母さえ死喰い人に殺されていた私は、孤児となった。
そんな私を快く引き取ってくれたのは、母と腹違いの妹だった。
私がもう一人の母として心から慕う、お義母さんだ。

「なんだか不思議。
ジョージに話したら、楽になった」

ジョージは目を丸くした後、頬を赤らめた。

「辛かったんだな」
「そんな事ないよ」

義母との二人暮らしは充実していた。
ジョージには話せないけど、スネイプ先生だって休暇の度に家を訪れてくれた。
私もこうしてホグワーツを訪れて、沢山の人たちに囲まれているのは、幸せだと思う。

「話してくれて、ありがとな」
「此方こそ、聞いてくれてありがとう。
ジョージに話して良かった」
「俺で良かったら、何でも聞くから」
「ジョージは優しいね」

優しくて、もっと甘えてしまいそうになる。
でも、駄目なんだ。
私には明かせない秘密がある。

「俺はフレッドと瓜二つだけど、それでもフレッドじゃなくて俺に話してくれる?」
「勿論」

ジョージは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
双子って楽しそうだけど、そっくり過ぎると大変なのかもしれない。

「ジョージはフレッドとそっくりだけど、全然違うよ」
「例えば?」
「ジョージの方が顔つきと声が優しいし、気遣いが上手」
「照れるなあ」

私がふふっと笑うと、ジョージは思い出したように言った。

「それに、俺の方が動物の扱いが上手いよ」

ドキリとしたけど、顔には出さなかった。
私が平然としてみせているのに、ジョージは私の目を真っ直ぐに見つめている。
何もかも見透かされている気がして、心拍数が上がった。

「本当に、何でも聞くから」
「ありがとう」
「だから――」

ジョージの真剣な表情に、私の胸が騒めいた。

「俺に何か話したい事、ない?」

二人でじっと見つめ合った。
ジョージから視線を反らせなかった。
ただ見つめ合うだけの時間を、とても長く感じた。

「ごめん」
「…え?」
「今のは忘れて」

ジョージは私をぎゅっと抱き締めてから、パッと離した。

「図書館に行くんだろ?
行こうぜ」

ジョージが私の手を握って、立ち上がるのを支えてくれた。
握った手を離さないまま、私たちは図書館までの道を静かに歩いた。



2019.9.29




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