クリスマスデート

今年のクリスマスはバスを乗り継ぎ、ちょっぴり遠出した。
国光と二人でデートの場所に選んだのは、クリスマスマーケットと呼ばれるイベント会場だ。
ヨーロッパの各地で知られる伝統的行事で、様々な出店が揃っていた。
可愛らしい小物を売っている雑貨店や、美味しいご当地グルメが食べられる飲食店などが立ち並んでいた。
家族や華代に渡すお土産には、ドイツのシュトーレンというパンを購入した。

空が暗くなり、クリスマスらしいイルミネーションが会場内に煌めいた。
赤と緑の協調性は、クリスマスならではだと思う。
会場内の広場にあるベンチに、あたしたちは二人で腰を下ろした。
周りには沢山のカップルがいて、見つめ合ったりキスをしたりしている。
それが羨ましくて、あたしも国光の肩に頭を預けた。
国光が手を握ってくれたから、指を絡めた。
場を弁えるあたしたちが人前でこんな風に触れ合うのは珍しい。
クリスマスという雰囲気は、普段と違う気持ちにさせる。

『あのね。』

「如何した?」

『華代が青学に入学するかもしれない話はしたよね。』

「ああ、覚えている。」

国光の端整な顔がイルミネーションに照らされている。
あたしは真剣に話を進めた。

『テニスの国際大会…セーブしようと思うの。』

「セーブ?」

ゲーマーのあたしがセーブだなんて言えば、ゲームデータの記録だと思われるかもしれない。
国光なら当然分かっていると思うけど、一応否定しておこう。

『ゲームのセーブじゃないよ。

来年の四月から試合の出場回数を減らそうと思う。

華代は目が見えないし、近くでサポートしたいの。』

「華代さんには話したのか。」

『まだ。』

勇気が出なくて、話せていない。
年末に桃城宅に一泊するから、その時に話そうと思っている。
華代の部屋で初めてのお泊まり会だ。

『華代は気を悪くするかな。』

「申し訳ないとは思うだろうな。」

『やっぱり…?』

あたしは空を仰いだ。
イルミネーションが明るくても、星は見える。

『華代も音楽界で有名なバイオリニストだから、遠征とか練習で公欠になる日もあると思う。

そういう時はあたしも大会に出場するようにするし、主要な四大大会は絶対出場するよ。

ランキング1位は譲れないからね。』

「ランキングが落ちれば、華代さんはそれこそショックだろうからな。」

主要な大会で上位を獲得すればする程、ランキングのポイントが加算されていく。
獲得ポイントは大会毎に定められている。
四大大会といった主要な大会では、より多くのポイントを獲得出来る。
其処で確実に優勝していれば、たとえ大会の出場回数を減らしたとしても、ランキング1位の維持は可能だと思っている。

『生意気かな?』

「お前だから出来る事だな。」

あたしが小さく笑った時、向こう側のベンチでべったりとキスをしている若いカップルが目に入った。
わお、流石にこんな場所で濃厚な公開キスは無理だ。
国光と顔を見合わせながら、冗談を言ってみた。

『あたしたちも此処でキスしちゃう?』

「…したいのか。」

『冗談だよ、誰もいない処がいい。』

国光は苦笑すると、あたしの手を握ったまま立ち上がった。
お揃いの腕時計は午後七時を差している。

「そろそろ帰ろうか。

明日もテニススクールだろう。」

『うん。』

導かれるように立ち上がり、寄り添って歩き出した。
クリスマスの余韻に浮かれないように、明日からテニススクールでコーチにしっかり指導して貰う予定だ。
でも、まだ今日はクリスマスだ。
国光とこうして寄り添っていられる時間を満喫したい。





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