過剰に意識
ついにゲットした新作のゲームソフト。
あたしは帰り道で国光と手を繋ぎながら、不気味に笑った。
『今夜は完徹…。』
「勉強は如何するんだ。」
『今からちゃんと国光に教えて貰うもん。』
今日もあたしの部屋で国光と一緒に勉強だ。
正直、期末テストは問題ない気がする。
この前みたいに、国光に甘えたいと思ってしまう。
さり気なく国光に寄り添うと、キャスケット帽が風で横にずれた。
国光がそれを丁寧に直してくれた。
「その帽子、使ってくれているんだな。」
『勿論だよ。』
このブラウンに近いベージュのキャスケット帽は、国光が去年のホワイトデーにプレゼントしてくれたものだ。
上手く顔が隠れるけど視界を狭めないし、お洒落で気に入っている。
国光はあたしが喜ぶものを何でも知っているかのようなチョイスをする。
あたしは国光が巻いているノルディック柄のシンプルな黒いマフラーに触れた。
『国光も使ってくれてるんだね。』
「当然だ。」
このマフラーはあたしがフランスで一目惚れしたもので、去年のクリスマスにプレゼントしたものだ。
あたしたちはお互いの目を見て、微笑み合った。
すると、馴染みのコンビニが見えた。
『あ、コンビニに寄りたい。
華代が載ってる音楽雑誌が売ってるの。』
「分かった、行こうか。」
ついでに糖分のチョコレートを調達したい。
家の近所のコンビニに入り、まずは雑誌の棚を眺めた。
テニス雑誌の表紙に不二愛≠フ文字があった。
国光がそれを手に取り、ページを捲った。
「祖父が買っていた。」
『よく買ってるね。』
国光はあたしを指差した。
お前が載っているからだ、と言いたいのだろう。
変装中のあたしは国光の気遣いに笑うと、音楽雑誌を手に取った。
表紙には天才バイオリニスト桃城華代の軌跡≠ニある。
帰ったらみっちり読もう。
国光がテニス雑誌に目を通しているから、あたしは別の雑誌を何となく手に取った。
若い女の子向けのファッション誌をパラパラと捲ってみる。
不意に目に止まったページに、大きな文字があった。
みんなの初めてのえっち体験談
数秒間フリーズしてから、げふっと咽せてしまった。
慌てて雑誌をバシッと閉じ、元の位置に戻した。
国光は目を瞬かせ、あたしの顔を窺った。
「大丈夫か?」
本日二度目の、大丈夫か。
今回は大丈夫じゃなかった。
「如何かしたのか?」
『なななんでもないの。』
動揺丸出しの返事をしてしまった。
国光が不思議そうにあたしの顔をじっと見ている。
あたしは不器用に笑いながら、国光の腕を引いた。
『そろそろ行こう?』
ブドウ糖入りのチョコレートや紙パック入りのいちごオレを購入し、コンビニを出た。
自宅に向かいながら、あの雑誌の文字が頭の中にしがみ付いて離れなかった。
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