愛情 後編

花怜のすぐ戻る≠ヘやはり当てにならない。
事情があるのだろうが、早く戻って欲しいと正直に思う。
岩肌に一人で腰を下ろしながら、日が落ちてゆくのを眺めた。
邪見とりんは別の場所で待たせてある。

花怜は命を重んじる性格で、慈愛に満ちている。
その一方で、此方の心配や愛情には鈍い。
私は言葉数の少ない妖怪だが、花怜には愛情をなるべく口にして伝えているつもりだ。
そうでなければ、花怜は気付かないからだ。

「殺生丸!」

人の気配のない山の麓で花怜を待っていた私は、嫌な声に機嫌を損ねた。
好戦的な犬夜叉を無視し、後から現れた花怜と視線を合わせた。
人間三人の後に続いて現れた花怜は微笑んだ。

『殺生丸さま。』
「遅い。」
『ごめんなさい…。』

何故か、花怜は端整な顔に疲労を滲ませていた。
何かされたのだろうか。

「ごめんね花怜ちゃん。
引き留めちゃって。」
『いえ、かごめちゃんも色々と大変そうですね。』

犬夜叉は先頭に立って鉄砕牙を抜こうとしていたが、花怜の台詞に冷や汗をかいた。
花怜は犬夜叉の脇を通り過ぎ、私の前に立った。

「何をしていた?」
『えっと…。』
「花怜ちゃんは何も話してくれなかったのよ。」
「だから怒らないであげてよね。」

人間の女二人が出しゃばり、花怜は苦笑した。
相変わらず戦闘態勢の犬夜叉に、花怜が穏やかに言った。

『犬夜叉さま、かごめちゃんを大切に。』
「…うるせえ!」
「犬夜叉、行きますよ。
花怜さま、またお逢いしましょう。」
『はい、またいずれ。』

法師に催促され、犬夜叉は私たちに背を向けた。
人間の女二人と子狐妖怪が花怜に手を振り、花怜も振り返した。





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