記憶削除

皆で押し競饅頭をして寒さを凌いだ後、二人は再度歩き始めた。
歩きにくい氷の道はバクフーンの火炎放射に溶解して貰って道を作った。
繋がりの洞窟を通った時はズバットに襲来されて大変な思いをしたシルバーだが、今回は野生のポケモンといえど単発で姿を現してくれた為、手持ちポケモンで対処が可能だった。

先程シルバーの腰に噛み付いたアリゲイツが先頭を進む。
野生のポケモンとの戦闘はアリゲイツに対応させていた。
アリゲイツの後ろをシルバーが歩き、その後ろを小夜とバクフーンが続く。
バクフーンは小夜が冷えないように、なるべく身体を寄せて歩いていた。

『バクフーン、悪いけどおぶってくれる?』

バクフーンは主人の命令に忠実に従い、小夜の前に立ってしゃがんだ。
小夜はその背中に身体を寄せ、バクフーンが易々とおぶった。
前方を進んでいたシルバーは振り向き、その様子を覗っていた。

「小夜、疲れたのか?」

あの驚異の運動神経を持つ怪力少女小夜が疲れるとは考え難い。

『何だか少しずつだるくなってきて…。

あ、其処右ね。』

道案内をしながらも小夜は眉間に皺を寄せた。
昨日フスベシティで小夜の身体に異変を及ぼしたあの気配。
あの時は一体何の気配なのか分からなかったが、今なら分かる。
これは電波だ。
誰かがポケモンに影響を及ぼす電波を人為的に飛ばしている。

“大丈夫?”

バクフーンに尋ねられ、小夜は弱々しく頷いた。
チョウジタウンに近付くにつれて電波は強まっている。
昨日の電波が飛来しているとシルバーに説明しようとする小夜だが、声が出なかった。
如何やらまた皆に迷惑を掛けてしまいそうだ。
小夜は呼吸が苦しくなるのを感じながら瞳を閉じた。

身体が異変を訴える中で、小夜は夢を見た。
豊かな森に囲まれた美しい湖。
だが其処はロケット団の部下によって埋め尽くされていた。
湖の中心に存在している島は鉄パイプの骨組みに囲まれており、まさに破壊されようとしていた。
空を見上げると、戦闘機が数々飛行している中に、空を覆う程に群を抜いて巨大な飛行船が浮かんでおり、其処にはR≠フ文字がある。
そして島にいるのはあのサトシと、その連れだろうか。
その隣にはシルバーと…

あれは私?

飛行船を見上げて唇を噛む小夜本人がいる。
その時飛行船が轟音を響かせて爆発し、それを見た自分が何かを懸命に叫んでいる。

―――嫌だ、バショウ!!

―――嫌ああああ!!

如何してバショウの名前が?
彼に何が?


『う…う…。』

「小夜の奴、魘されているな。」

バクフーンは心配そうに頷いた。
背中におぶっている小夜の身体は熱い。
現在先頭にはエーフィとアリゲイツが歩いていた。
道案内役の小夜が眠ってしまった今、エスパータイプのエーフィに道を選択して貰っていた。
エーフィが後方を振り返ると、小夜をおぶるバクフーンとその隣を歩くシルバーがいる。
小夜の表情ばかりを覗うシルバーを見て、アリゲイツは意味深げに言った。

“御主人は小夜が好きだ。”

“見てたら分かるよ。”

エーフィは一瞬驚きながらも微笑みながら返事をして、前方に向き直った。
アリゲイツのストレートな発言には毎度目が点になる。
アリゲイツはシルバーに噛み付いたりなど、此方をあっと言わせる言動が多々あった。
アリゲイツが噛み付く直前に二人が唇を重ねようとしていた時、エーフィは止めなかった。
バショウではなくシルバーが今後小夜の傍にいる気がしてならないのだ。
エーフィがバショウに対して嫌悪感を持っているからではなく、自分の第六感がそう訴える。
小夜はバショウを好きになり過ぎてはいけない。
誰かに気持ちを脱線させるべきだ。
俗に言う二股というものになってしまうが、そうでなければいけない。
何故そうでなければならないのだろうか。
エスパータイプである自分の身体は時に不思議な直感を与える。
何かとてつもなく嫌な予感がする。
小夜を苦しめる何かが今後待ち受けている。
エーフィは突然立ち止まり、シルバーと対峙した。

「いきなり何だよ。」

シルバーは相変わらずぶっきらぼうに言い放つ。
小夜曰く、シルバーの記憶を削除せずともいいのではないかとエーフィが発言したらしい。
小夜が言うのだから嘘ではない筈だが、シルバーは未だに信じられなかった。
エーフィは突然シルバーに向かって鳴き始めた。
シルバーには通じないが、エーフィは何かを訴えている。

「お前分かっているだろ。

俺はポケモンの言葉が理解出来ないってな。」

エーフィは話すのをやめず、如何しても何かを訴えたいらしい。
アリゲイツとバクフーンの様子を見ると、目を丸くして何やら驚いている。

「静かにしろ。

小夜が起きる。」

エーフィはそれを聴いて黙り込むと、前方に向き直って再度進み始めた。
エーフィが訴えたかった言葉。

―――小夜が背負うものを共に背負う覚悟がシルバーにはある?




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