記憶削除-2

長かった氷の抜け道も、もう少しで終わりを迎える。
抜け出すタイミングを深夜に合わせようと、現在の夕刻である時間帯に休憩を挟んでいた。
数回トレーナーと鉢合わせそうになったが、上手く身を隠した。

ポケモンたちに夕食を摂らせながら、シルバーは凍っていて食べにくい非常食の缶詰を口に運んでいた。
ミネラルウォーターまで凍ってしまっていた為、溶けるようにと焚いていた薪の傍に置いている。
バクフーンはその膝に魘されている小夜が頭を乗せて眠っている為、食事にありつくのを躊躇っていた。
シルバーは滑りやすい氷の上に慎重に缶詰を置き、バクフーンの元へ歩み寄った。

「そいつを貸せ。」

“?”

エーフィは凍ってしまっているポケモンフードに何とかありつきながら、横目でシルバーを監視する。
バクフーンは魘されている小夜の頭を撫でていた。
他のポケモンたちはシルバーの行動に興味を持ち、成り行きを見守りながらも冷凍ポケモンフードを頬張る。
シルバーはバクフーンの前にしゃがむと小夜を抱き上げた。
意識を失っている時間が長かったからか、前回繋がりの洞窟でおぶった時よりも若干軽くなっているのは気のせいだろうか。

「バクフーン、お前は力をつけておけ。」

氷の抜け道に入ってからバクフーンがボールに戻った事は一度もない。
炎タイプのポケモンは氷点下の洞窟では最も重要な存在なのだ。
エーフィは念力でリュックから寝袋を出して広げた。

「悪い。」

エーフィに見向きもしないままでシルバーは礼を言い、小夜を其処へ横たわらせた。

『うう…。』

魘されている小夜の額に手を置くと、やはり熱い。
シルバーはやたらと自分を見つめてくるポケモンたちを睨んだ。
すると小夜が小さく寝言を溢した。

『う……バショウ……。』

「!」

誰だよ、それ。

小夜の口から知らない男の名前が出るだけで嫉妬で怒りが沸き起こる。
ポケモンたちが食事を済ませると、シルバーはバクフーン以外をさっさとボールへ戻し、薪の傍に置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを乱暴に取った。
突然苛立ち始めたシルバーを、バクフーンは冷や汗を掻きながら見ていた。
シルバーは小夜を抱き起こすと、ミネラルウォーターをぐいっと飲んだ。
そして小夜の顎を掴み、まるで口付けが目的かのように口移しをした。

『ん…。』

目の前で口移しを見せつけられたバクフーンは、背中の炎と同じくらい顔が真っ赤になった。
小夜がミネラルウォーターを飲み込んだのを確認すると、シルバーは唇を離した。
不調に堪える小夜の悲痛な表情も文句無しに綺麗で、滑らかな白い肌には汗がうっすらと滲んでいる。

「この野郎。」

シルバーは言葉とは対照的に、小夜の口の端から漏れたミネラルウォーターを手で丁寧に拭ってやった。
苦しそうな顔を少しだけ眺めると、シルバーは小夜をおぶった。
バクフーンは真っ赤なままで寝袋を直してリュックに詰めて、そのリュックを背負った。

「行くぜ。」

するとエーフィとアリゲイツが各モンスターボールから飛び出してきた。

「アリゲイツ?」

“案内役の私をいきなりボールに戻すなんて!”

エーフィはぶつぶつ文句を言った。
アリゲイツはシルバーのリュックを小さな体で一生懸命に背負った。

「悪いな。」

シルバーは初めてアリゲイツに微笑んだ。
その不器用な頬笑みがアリゲイツにはこの上なく嬉しかった。


シルバーは重力に従ってずれてくる小夜を時々背負い直した。
夕刻から歩き続けて数時間、一行はやっと氷の抜け道を抜けだした。
季節は春だが、氷点下の洞窟にいたせいか外が暑く感じた。

「此処からは急ぐか。」

バクフーンはそれが如何いう意味なのかをすぐに解釈し、小夜の腰の小型バッグからモンスターボールを放った。
ボーマンダが現れ、すぐに背中の羽根を下げて乗るように促した。
エーフィはシルバーの背におぶられている小夜を念力でボーマンダの背に移動させ、バクフーン御苦労様、と言ってから同じく念力でバクフーンをボールへ戻した。
シルバーはボーマンダの背に乗って小夜を支えると、その前にエーフィが飛び乗った。
突撃だ!というエーフィの声を合図に、ボーマンダは地を蹴って空中に高く飛び上がった。
一気に雲の上まで出るボーマンダの飛行に、やはり恐怖は拭いきれなかったシルバーだが、そのボーマンダの空の旅にも馴れてきつつあった。
見上げた空にあるのは、散りばめられたように瞬く星と、朧げに光る下限の月だけだった。




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