今はまだ

「ったく、お前は行動が読めないんだよ。」

『ごめんごめん。』

シルバーは突然風呂場の扉を開けられた事に不満を漏らした。
ポケモンたちが修行だと意気込んで部屋を去った後、小夜とシルバーは各ベッドに座りながらテレビを観ていた。
予定通りにシルバーのポケモンたちを外へ出してくれたエーフィたちに感謝しながら、小夜はシルバーを一瞥した。
さて如何切りだそうか。
何から訊き出そうか。
先ずはシルバーが観ているテレビを消してしまわなければ。
小夜がそう思っていた矢先に、シルバーがテレビを消した。

「訊きたい事がある。」

『何?』

小夜はベッドから足を出してシルバーの方を向いたが、シルバーはテレビの方向を向いたまま口を開いた。

「ロケット団とは如何いう関係だ?」

『それはこっちの台詞ね。』

「先ずお前から答えろ。」

『シルバーも答えてくれるって約束してくれるのなら。』

小夜が知っているシルバーの情報は、ロケット団の代表取締役サカキの息子であるという事。
他に有力な情報はない。

「……分かった。」

小夜はベッドから腰を上げ、シルバーの隣に座った。

「な!」

『そっぽ向いたまま話さないでよ。』

「分かったからこれ以上近寄るな。」

『酷いな、もう。』

二人は肩が触れ合うか否かの距離で隣合わせに座った。
ポケモンたちは修行に出掛けたばかりで、完全に二人きりだ。
シルバーは自分の心臓が跳ねるのを感じた。
だがそれとは対照的に小夜は真剣に話し始めた。

『私はロケット団の支配下にあった研究所で造られた人造生命体よ。』

「……何だと?」

シルバーは眉間に皺を寄せた。
人造生命体?

「外見は人間、中身はポケモンなんだろ。

ただの突然変異じゃないのか。」

シルバーは小夜の事を、人間から生まれた人間が珍しい能力を持っているだけだと思っていた。
如何やら小夜にはシルバーが思っている以上の深い過去がある。

『違う。

人間の遺伝子にポケモンの遺伝子を組み込まれたの。

人間でもポケモンでもない。』

外見は人間、中身はポケモンという言い方は正解なようで間違っているかもしれない。
持ち合わせている様々な能力は明らかにポケモンの部分だが、他のどの部分が人間でどの部分がポケモンなのか、小夜自身でさえ明確には分からないのだ。

「今の科学でそんな事が可能なのか?」

『うん、私の存在が何よりの証拠よ。』

小夜は同じ人造生命体であるミュウツーの存在には触れない事にした。

『私はロケット団が世界征服という野望を達成する為に造られた。

だから狙われているの。』

「研究所で生まれてからは如何したんだ?」

『暫く研究所で育ったけど、今こうして逃げ出した。

だから追われてる。』

「追われてるにしてはロケット団は消極的なんじゃないか?

あらゆる場所に監視の団員を置いて襲ってくるような奴らだが。」

『私が能力を持ってるからよ。

奴らは武器を使って私を捕獲しようとしてるの。

その武器が完成するまでは、本格的に行動してこない。』

本当は武器など存在しない。
ミュウツーの事が会話に出るのを避ける為に嘘の作り話をしたのだ。
ミュウツーが手懐けられるまでロケット団は本格的に行動しない、が正解だ。

「なら俺の持つ情報に過剰に反応するのも腑に落ちる。」

自分を造り出し、更には利用しようとするロケット団を恨んで情報を集めようとするのは納得がいく。

「だがその武器の情報は何処で得た?」

『以前ロケット団に出くわした時に脅して訊いた。』

これも作り話だったが、これに関してはシルバーは詮索してこなかった。





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