変化

小夜はゆっくりと瞳を開いた。
私は何をしていたんだろう。
ミュウツーの声が聴こえて、ミュウツーが見た光景を見せられて。
それから如何した?
先ず此処は何処?
見慣れない天井、温かい布団。
私は繋がりの洞窟にいたんじゃなかった?

「目が覚めたのか。」

『!』

肩まである赤い髪、鋭い目付きの少年が目に入った。
声を掛けてきたのはシルバーだ。

「一生起きないかと思ったぜ。」

『此処は何処?』

「フスベシティのポケモンセンターだ。」

『フスベシティ…?!』

小夜はばっと起き上がると、久方振りに使用した筋肉が悲鳴を上げた。

『いたあ…!』

「当然だ。

五日間も眠っていたんだからな。」

『へ?!』

シルバーは小夜のベッドの隣にあるベッドに腰掛けた。
フスベシティに到着してからシルバーが使用していたベッドだった。

『隣で寝てたの?』

「ポケモンセンターの奴が指定した部屋がこうだったんだよ。」

ぶっきらぼうに言うシルバーはほんのり頬を染めていた。
部屋を別にしても良かったが、意識を取り戻さない小夜の事が気になり、ジョーイに同じ部屋を指定されても敢えて文句を言わなかったのだ。

『ポケモンたちは?』

「修行だ。

お前が目を覚ましたと聴いたら驚くだろうな。」

『私たち、二人きりだったの?』

「……そういう事になる。」

シルバーは更に頬を染めた。
小夜はその顔を見て不思議そうに首を傾げた。
眠っている小夜に何度触れようとしたかシルバーには数えきれなかった。
無防備に眠っている小夜に指一本足りとも触れなかった事に、シルバーは自分自身を褒めた。

『シルバー、顔赤いよ。

熱でもある?』

「断じてない!」


―――コンコンッ


良い所に帰ってきてくれたとシルバーは思い、ベッドから立ち上がってノックされた扉を開ける。
一匹のポケモンが羽根を忙しなく羽ばたかせて入ってくると、続いて二匹が足元をふらつかせながら入ってきた。
その三匹を見て小夜は瞳を見開いた。

『え、嘘?!』

「お前の意識がない間に色々あったぜ。」

部屋に入ってきたのはシルバーのポケモンだったが、なんとアリゲイツ、ゴルバット、ニドリーノだった。

『進化したのね!』

「お前のポケモンは相当スパルタのようだな。」

エーフィとボーマンダがこの三匹をしごいている様子が目に浮かんだ。
三匹は床に敷いてあったカーペットに突っ伏せて倒れ込んだ。

『フロントで回復させないと!』

「面倒く……いや、行ってくる。」

小夜に睨まれたシルバーは台詞をすかさず言い換えると、三匹をモンスターボールへ戻した。

「まだ驚くのは早いぜ。」

『え?』

「まぁ大人しく待ってるんだな。」

シルバーはポケモンを回復させる為に部屋から出ていった。
小夜がベッドから立ち上がり、カーテンの閉まっている窓の僅かな隙間から外を覗くと、もう薄暗くなっていた。
普段からカーテンを閉めるのは、小夜の姿を外から見られないようにとエーフィが気遣っていたからだった。
ふと親しみ馴れた気配を感じ、扉の方へ視線を送った。


―――バンッ!!


扉が弾けるように開いたかと思うと、全速力で部屋まで駆けてきたエーフィが息切れしながら顔を出した。

『エーフィ!』

エーフィは小夜へ飛び掛かるように抱き着き、小夜はそれをしっかりと受け止めた。

『ごめんね、心配掛けたね。』

“もう起きないかと思ったよ!”

涙ながらに言うエーフィを小夜は強く抱き締めた。
頬を舐めてくるエーフィの頭を撫でてやる。

『ボーマンダとヒノアラシは?』

“ヒノアラシじゃないよ。”

にこにこしながらそう言うエーフィに、小夜の期待が膨れ上がった。
解錠されていた扉が不自然に開くと、其処に立っていたのはヒノアラシだったポケモンだった。

『……ヒノアラシ?』

手にモンスターボールを持っている傷だらけのそのポケモンは、ヒノアラシではなくバクフーンだった。

『嘘!』

“起きたんだね!”

バクフーンはそう言うと小夜の元へ駆け寄った。
小夜は自分より身長の高くなったバクフーンを抱き締めた。

“俺だよ、小夜、分かる?!”

一人称が僕から俺になっているバクフーンは小夜を抱き締め返した。
バクフーンが手に持っていたモンスターボールが揺れると、中からボーマンダが飛び出した。

『ボーマンダ!』

姿を現すや否やのしかかって愛情表現をするボーマンダに、小夜はバクフーンを巻き添えにして後方に転倒した。

“起きてくれてよかったよ!”

そう言って小夜の頬に顔を擦り付けるボーマンダは満面の笑みだ。
バクフーンは体力が削られている上に小夜越しでのしかかりを喰らって目を回した。

「おい、お前ら。

プロレスごっこは他所でやれ。」

部屋へ戻ってきたシルバーは目の前の光景に溜息をついた。
ボーマンダが小夜の上にのしかかり、小夜の下には目を回しているバクフーン。
そのバクフーンを救おうと引っ張っているエーフィ。
小夜が意識を失っている間の意気消沈した雰囲気とは一転して明るくなった三匹に、シルバーはふっと笑った。




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