月見

初めて殺生丸さまと逢った時、世にも美しい妖怪だと思った。
上品な装いに、銀色の長髪、金色の眼。
斬り落とされていた左腕を治療した事に、特別な理由はない。
ただ見過ごせなかったからだ。
間近で見た金色の眼を、何時までも鮮明に覚えていた。
再会した時、一瞬で彼だと分かった。

「花怜さま、寝よう?」
『そうだね。』

野原の隅に腰を下ろし、りんは大欠伸をした。
阿吽に凭れ、うとうとし始めている。
空には朧げな三日月が浮かんでいて、星々も姿を現している。
反対側で阿吽に凭れている邪見さまに声を掛けた。

『邪見さまはお休みになられますか?』
「わしは眠くなんぞないわい。」

欠伸をした後の涙目で言われても、説得力がない。
今日にも一行に加わったばかりの私を、邪見さまは認めていないようだった。
私は愚か、りんの事もそうだ。
それでも連れているのは、殺生丸さまの優しさなのだろう。
私は持っていた荷物の袋の口を縛っていた紐を解き、中から蒼い羽織を出した。
それをりんの肩に掛け、小さな頭を優しく撫でた。
りんは早々に眠ってしまったようだ。

『おやすみ、りん。』

その隣に腰を下ろし、傍にある木の上にいる殺生丸さまを見上げた。
太い木の幹に腰を下ろしている殺生丸さまは、三日月を見つめている。
その横顔がとても綺麗で、つい目が離せなくなる。
不意に邪見さまの寝息が聞こえた。
私は微笑み、私の顔を見つめる阿吽の顎を撫でた。

『あなたも、おやすみ。』

今日一日で私を受け入れてくれた阿吽は、優しい目をしている。
阿吽は私の手に擦り寄った後、目を閉じた。
私はそっと立ち上がり、殺生丸さまがいる木の根元に立った。
この一行に加わったとはいえ、殺生丸さまとは全く会話がなかった。

『其方に行っても宜しいですか?』

殺生丸さまは私を見下ろしたけれど、何も言わなかった。
それを肯定と解釈した私は、片足で軽く地を蹴った。
その跳躍力に驚いたのか、殺生丸さまは右隣にふわっと着地した私に目を見張った。

『お邪魔でしょうか。』
「……。」

殺生丸さまは何も答えなかった。
私は人一人分空けて、隣に腰を下ろした。
三日月が朧げながらも明るい。
此処は月見にはとても良い場所だ。





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