月見-2

暫くの間、何も話さずに二人で月を見上げていた。
緩やかな風に木々が揺れ、木の葉の擦れる音がする。
不思議と居心地が良く、時間がゆっくりと過ぎてゆく。
話を始めたのは、私だった。

『りんの御両親はとても優しいお方でした。』

りんは沢山の話をしてくれた。
両親と兄弟を目の前で野党に殺され、声を失った。
そんな時に村が妖怪に襲われ、一度は死んだ命を殺生丸さまに救われた。
邪見さまによると、殺生丸さまが腰に携えている天生牙は癒しの刀だという。

『りんを連れてくれて、ありがとうございます。』
「勝手について来ただけだ。」

初めて会話が成立した。
なんだか嬉しい。

『もう少しだけ、りんと一緒にいても構いませんか?』

月を見上げていた殺生丸さまが、私の目を見た。
とても綺麗な金色の眼に、私が映っている。
何時までも見つめていて欲しいとさえ思う。
沈黙を肯定と解釈し、私は微笑んだ。
先に視線を外し、再び月を見上げた。

「訊きたい事がある。」
『何でしょう?』

視線を戻すと、殺生丸さまは依然として私を見つめていた。

「貴様、人間か?」
『何故です?』
「貴様の匂いは…雑味がない。
人間でも妖怪でもない。」

雑味≠フ意味がいまいち分からなかった。
人間独特の汗だとか、多分そういう類だ。

「先程もそうだ。
人間だとは思えぬ。」

木を登った時の跳躍の事を話しているのだろう。
私は敢えて訊き返した。

『殺生丸さまは如何お考えですか?』
「……妖怪、か。」

月が私たちを見つめていた。



2018.2.15




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