食事より恋人

デイダラがのそのそと起きた頃には、既に昼前だった。
どうやら寝過ぎてしまったようだ。
サソリがソォラァと布団を引き剥がしに来ないという事は、まだ暁からの任務は入っていないと考えていい。
ベッドから降りて寝癖を触りながら、雅の部屋のドアを開けると、目の前に芸術的な顔があった。

「起きたんですね」

デイダラは眠たい目を擦った。
雅はデイダラの寝癖を見て笑った。
そろそろ寝坊助なデイダラを起こして、洗った忍服を届けようと思っていたのだ。

「雅……うん?雅?」

デイダラの頭が冴えてきた。
忍服の雅を見ると、デイダラは様々な出来事を怒涛の如く思い出した。

「怪我は治したのか?!」
「起きてすぐに」
「なら…抱き締めてもいいのか?」

雅は微笑み、にこやかに頷いた。
それを合図に、デイダラは雅をがばっと抱き締めた。
雅の低体温はデイダラの熱い身体に心地良かった。

「うん、うん!
やっぱりこうじゃねーとな!」

雅は温かくて力強い抱擁に目を閉じ、此処が廊下である事を忘れそうになった。
幸福感に浸りながら、デイダラの忍服を手から落っことさないように気を付けた。

「デイダラ、お腹は?」
「空いたぞ、うん」

二人が離れると、雅はデイダラに忍服を渡した。

「はい、どうぞ。
洗濯が終わりましたよ」
「お、悪りーな」
「今なら洗面所が空いています。
終わったらリビングキッチンまで来てくださいね」
「分かった」

雅がデイダラを昼前に起こしたのは、洗面所やリビングキッチンであの一族と鉢合わせないようにする為だ。
その気遣いを察したデイダラは、手早く支度を終わらせた。
額当てを巻いて忍服に着替え、トレードマークの髷を作った。
自分はS級犯罪者が揃い踏みの暁の一員だし、あの一族から好感を持たれていないのは承知している。
一族のリーダーらしき男の視線を見ても分かる事だ。
まあ、あれは雅を取られた悔しさから来た視線かもしれないが。

「うん?いい匂いがするな」
「デイダラ、来ましたか」

リビングキッチンに現れたデイダラは空腹だった。
キッチンに立つ雅を見るのは初めてだ。
ガスが通っていない隠れ家では、料理も電気コンロを使用している。
雅はフライ返しを使わずにフライパンの中身を上手くひっくり返した。

「何作ってんだ?」
「じゃがいものガレットです。
きちんとした食材が調達出来なくて、質素ですが」
「いいや、美味そうだ」

デイダラは雅を背後から羽織るように抱き込むと、フライパンの中身を覗き込んだ。
じゃがいものガレットにいい焼き色がついていて、デイダラはますます空腹を感じた。

「動きにくいです」

雅が照れ笑いをすると、その横顔を見ていたデイダラは雅の頬に手を当て、無理矢理こちらを向かせた。
不思議そうな顔をする雅に、覗き込むように口付けた。
雅の肩が小さく跳ねた。
料理を戴く前に雅を堪能したい。

「待っ、ん…」

デイダラと料理を天秤にかけた雅は、電気コンロの加熱ボタンを手探りでオフにした。
その間にも口付けを繰り返していると、デイダラが雅の身体を反転させ、自分と向き合わせた。
二人は真正面から抱き合い、唇を何度も触れ合わせた。
デイダラは雅の後頭部に手を遣り、口付けの角度を変えながら考えた。

ヤバい…舌突っ込みたい。
雅は引いちまうかな…。

二人は唇を離すと、間近で見つめ合った。
雪女と呼ばれる由来の一つである白い肌は、昨日よりも健康的な色をしている。
デイダラは少し安心した。

「冷める前に食べましょう?」
「そうだな、うん」

雅は最後に一度だけぎゅっとデイダラに抱き着いてから、フライパンと向き合った。
とどめを刺された気分になったデイダラは、赤面しながらダイニングテーブルの席に着いた。
夢の中にも出てきた程に意識している強靭な精神力≠ヘ培われている…筈だ。
純潔を大切にする一族出身の雅が恋人だからこそ、今は我慢する時だ。



2018.5.23




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