空の旅

風遁使いの一族は雅の隠れ家から最も近い村で療養する事になった。
其処には広い寺があり、彼ら一族と知り合いの医療忍者がいるという。
現在、生き残った一族は雅の隠れ家を出て、森の中を移動していた。
雅とデイダラの護衛付きだ。
雅は一族の先頭を行き、デイダラは空から周囲を監視している。
真昼の太陽が眩しくて、デイダラの鳥型粘土が地上に影を作っていた。

「雅、村が見えたぞ、うん」
「ありがとう、デイダラ」

黒衣の雅はフードを下ろし、鳥型粘土の高度を下げたデイダラに感謝を告げた。
すると、一族のリーダーとなった青年が雅に話しかけた。

「すまないな、雅」
「お気になさらず」
「今後はどうするつもりだ?」
「一度隠れ家に戻った後は、また普段通りの日常に戻ります」

ターゲットを捕捉し、始末し、また次を狙う。
そのターゲットが賞金首なら、情報交換の為に定期的に顔を合わせている角都に届ける。
追い忍に居場所を突き止められないようにする為に、宿泊場所は転々とする。
そんな日常が戻ってくる。

「雅、もうやめたらどうだ」
「…何をですか」
「暗殺だ」
「お断りします」

雅は青年に背を向けたまま、淡々と答えた。
この一族は雅を信頼している。
雅がビンゴブックに載るようになる以前から、親交があるからだ。

「僕ら一族と共に暮らさないか?」

雅は立ち止まらないまま、そっと目を伏せた。
青年の優しさが嬉しかったが、それに応えられないのは事実だ。

「私はもう戻れないんです」

ターゲット全員を始末し終えるまで、止まれない。
雅は木々の隙間から村が見えたのを確認すると、立ち止まった。

「見えましたね」

川沿いにある村付近に到着したようだ。
大きな寺を囲うように、昔ながらの古風な日本家屋が立ち並んでいるのが見える。
護衛の雅とデイダラが付き添うのは此処までだ。
デイダラは当初から一族の護衛というよりも、雅の付き添いのつもりだが。
留守番のサソリは隠れ家で傀儡をメンテナンスしまくっている。

「此処でお別れです」
「雅、次に僕らが君に逢えるのはいつだ?」

雅は敢えて何も答えなかった。
デイダラは雅が跳び乗れるくらいまで鳥型粘土の高度を下げ、雅が話し終わるのを待っている。
雅は青年の質問には結局答えなかったが、別れの言葉を口にした。

「皆さん、どうかお元気で」

雅は一族に笑顔を見せると、デイダラの後ろに跳び乗った。
一族全員が名残惜しそうに見上げてくる。
しかし、別れの時間だ。
もう逢う事はないだろう。
青年が口を開こうとしたのを見計らったかのように、雅は柔らかに言った。

「さようなら」





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